Case 04-2
2020年7月13日 Case 04より分割完了
2020年12月12日 ノベルアップ+版と内容同期
【同日16時50分 抑川篠鶴地区境界・橋(辰之中)】
『あの依代、何度も使えたらいいのにね』
と、エリスが独り言ちる。
「何の事だ?」
「ほら、迷宮で使ったアレ!」
「……■■ならいつでも使えるんだが?」
八朝が苗木を難なく出してみる。
するとエリスが混乱したような声を上げる。
『あれれ!?
■■じゃなかったっけ?』
「そっちは使ってないが、確かに使えた事が無いな」
八朝がそういって考え込む。
咲良から教えてもらった大アルカナ22枚のうち、使えない何枚かのうちの一つが死神であった。
確かに、字面から見てもとても優秀な状態異常を持って良そうである。
『うーん……あのカードには『死神』ってあったから『即死』だよね絶対!』
「まぁ、低確率だったり特定の3つの条件を全て満たすとかの制約付きだろうけどな」
『えー!
そんなの詐欺じゃん! 全然死神じゃないじゃん!』
「無茶言うな……そもそもタロット占いは死占禁止だし、そんなあからさまな効果は期待しない方が良い」
気づくと依頼者と別れてから10分は経過している。
これ以上は別の化物に気付かれる可能性が高くなる。
『あ……そろそろ辰之中を解除した方がいいんじゃない?』
「いや、まだ奴の分が残ってる」
『でも……』
「安心しろ、まだ大丈夫だ。
待ち合わせ場所でモノを渡すだけなら時間もかからない」
八朝は不安がるRATを落ち着かせようとする。
根拠よりも声音だけでどうにかしようとしている。
今回、部長から言われたのは何も『化物斡旋』の仲介だけではない。
所定のアイテムを持って、この時間のこの橋で鹿室正一郎と会う事も指示されている。
(中身は見るなと言われているが……)
少々内容が気になるが、開けてしまっては仕事にならない。
異能力にある身体能力補正を全開にして目的地まで急ぐ。
そして、橋の真ん中に待たせている人の姿が見えてくる。
「よう、待たせたな」
八朝が人影に声を掛ける。
八朝に引けを取らない大柄な体格で、陰気臭い容姿の割には女性受けが良い。
本人曰く声のハリとメガネのお陰だと豪語しているが、決してそれだけではないのだろう。
だから決してあの人影のように『小柄』で『隠者』のようにフードで顔が隠れる洞の様な輩ではない。
「!?」
反射的に飛び退く後ろで電灯が半ばの所で寸断され、大仰な音を上げて倒れ伏す。
人影は自身の身長を超える大きさの杖を振り下ろして構えている。
更に360度、至る所で構造物が破断されていく。
八朝ですら例外ではなく、手の爪、頬、額の皮、脇腹付近の服、うなじが破かれる。
「……ッ! Ghmkv!」
呻きを堪えて依代を呼び出す。
現れた依代は形を成すよりも早く白化し始める。
八朝に付いた生傷を道連れに砕け散る。
依代から齎される身体能力強化は直ちに罰則に変換され、胃酸を吐き散らかす程の苦痛となって反転する。
『ふうちゃん!?』
「げぼっ……だ、大丈夫だ。それよりも……」
八朝はもう一度人影を見据える。
どう見ても次の攻撃準備が既に完了していた。
そうしてまた、ありとあらゆる細い物体が乱切りにされるあの攻撃が放たれ、地面の上に転がり落ちる。
『Hpnaswbit!』
「ッ! 謌・繧医j陲ゅr蛻・°縺、豎・縺ョ蜷・縺ッ■■! 蛛懈ュ繧定ャウ縺・莠悟香莠後・蜻ェ縺・ケ・!」
RATが用意した障壁魔術が秒で微塵切りになり、心が折れそうになるが構わず呪文を続ける。
人影の構えが終わるよりも早く呪文が完遂される。
「Ghmkv! Ghmkv! エリス、プランBで!」
『Hpnaswbit!』
再び障壁魔術が発動する。同時に八朝の霧が展開されて、中距離にいる人影まで飲み込んでいく。
八朝との話し合いで決めたプランにおけるBとはカウンター攻撃を表す命令である。
いつの間にか流星の如く障壁まで肉薄した人影が、速度を乗じた刺突を行おうと杖を引く。その周囲を目くらましのように星の瞬きが包むが、狙いは決して外れない。
「t…………z…………i」
人影がボソボソと呟くと、杖の先に赤色の燐光が灯り、周囲の色を犯しつくす。刺突の燐光をレイピアのように曳き伸ばし、障壁を貫通する。
そして、八朝の水月を迅速を以て穿つ……だけに留まらず踏み込み足で身体を反転させ、杖を下段まで振り下ろす。
障壁ごと八朝を切り裂き、霧が晴れた人影の真上に破片で出来た逆三日月の如き弧が顕出する。
「ごぼっ……かかったな!」
『Vrzpyq!』
一番大きな障壁の破片に燐光が灯り、人影へと殺到する。
初級水属性電子魔術によって初速とベクトルが変更され、人影に迫る。
振り向いてもう一度微塵切りにしようとする人影が、体捌きのみで破片を避け、今度こそ障壁無しの八朝を乱切りにする。
主を失った肉片達が地面に叩きつけられる……事も無く輪状の白霧となって消滅する。
フードの下から呻き声が聞こえたような気がする。
即ち輪の状態異常は混乱。
確率で相手の攻撃を失敗させる八朝の異能力である。
橋の上では瓦礫の落下音が続いている。
どこかに獲物がいると確信して無暗矢鱈に切り裂いているらしく、轟音が確実に近づきつつある。
更に周囲にいたであろう他の化物の耳障りな断末魔まで聞こえ始める。
最早見境なしの破壊の嵐と化していた。
あのような大破壊を可能にする存在は2つ。
化物と高位の異能力者のみである。
「八朝君! 間一髪だったじゃないか!」
「すまん、お陰で助かった」
八朝は橋の下から通じている地下通路をもう一人の青年と共に歩いている。
先程の人影とは背の高さがまるで違う、つまり彼が正真正銘の鹿室正一郎である。
見た目と反して語気強めにハキハキとした口調、メガネのそれと相俟って几帳面な印象を醸している。
鹿室はたっぷりと溜息を吐いてから切り出す。
そもそもあの状況では八朝が化物から逃げ切る可能性は0に等しい上に、反撃を行うつもりでもあった。
そこに鹿室の魔法作成で作成された転移魔法が、八朝達を橋の下に瞬間移動させたのである。
転生者なら当然持つべき高位の異能力を鹿室は保持していたのである。
「どうしたんだい!?
こんな時間に一人で辰之中に潜るのは危険だと……」
「ああ、第二異能部部長からアンタにこれを渡せと言われてな」
ポケットから件のアイテムを取り出す。
形状、性質から宝石の類ではあるが拳大と規格外に大きく、しかも暗赤色に輝く不気味な一品であった。
それを見た鹿室が顔を真っ青にして叫ぶ。
「もしかして、リシオンを使い切ってしまったのですか!?」
「何の事だ……?」
「……失礼、そういえばまた記憶喪失になったんですね」
先程まで取り乱していた鹿室が今度はうんうんと頷いている。
「これはリシオン……正しくは『伝令の石』です
言うなればもう一個の依代を作り出す僕の最高傑作です」
「そういやアンタの能力は『魔法を作り出す能力』だっけな、確か」
即ち、化物に殺されても一度だけ復活できるアイテムである。
そんな荒唐無稽な一品であるが、彼の異能力はそれを可能にする。
曰く『周りの魔力を思いついた現象で包む』という異能力。
生成された石は自分の魔法剣に嵌めこんで属性攻撃を放つだけでなく、こうやって相手に手渡すことも出来る。
鹿室はリシオンを袋いっぱいに詰め込んで八朝に手渡してきた。
「……ありがたい話だが、何故ここまで?」
「そんなの、友人だから以外に何があるんというんです」
何となく鹿室が八朝の事を心配しているのが分かって、不謹慎であるが安心したような気がした。
「魔王の呪いたる異能力に苦しむ人間は皆私の友人ですからね」
この鹿室を一言で称するなら『魔王偏執病』である。
異能力を全て『魔王』の仕業とし、こうして空き時間の全てを使って人助けと魔王討伐に捧げているとの噂である。
同じクラスで同じ『転生者』であるという所ぐらいが、八朝と他の人との違いであった。
「そういえば、この道で合っているのですか? まさか迷った訳では……」
「残念だがこの道は熟知している。もうすぐうちの近くだ」
『化物から逃げるために必死でマッピングしたもんねー』
「んな訳あるか、金になりそうだから調査したんだ。
現に鹿室を案内してる、勿論銭あるよな鹿室?」
八朝の照れ隠しに巻き込まれてとんでもない要求を吞まされようとしている。
鹿室はポケットの中身を確認すると、営業顔負けの笑顔を作る。
「君は冒険者稼業よりも旅行案内の方が向いていると思うのですが」
「何だ藪から棒に……興味ない」
「そうですか、ならば先程の魔法を……」
「すいません許してくださいマジでお願いします」
鹿室に容赦を頼み込もうとして、目の前の異変に気付くことが出来なかった。
残骸と化した信号機が寸断される金属音、落下して耳障りな轟音が響いて漸く追跡者に気付く。
カマイタチがここまで追って来たのである。
続きます




