Case 42-4
2020年12月23日 完成
第一層に仕掛けたのは、舞踏による神への祈願である。
続いて第二層に仕掛けたのは文化への呪い……即ち信仰剥奪(悪魔学)による壊乱である。
――水瀬神社社殿の本棚裏にある落書きより抜粋
【5月25日15時36分 篠鶴地区・篠鶴駅(辰之中)】
目無し級と聞いて、真っ先に気になったのは鳴下である。
巻き付かれた首から細かな震えを感じる……
(……)
今は逃げるべきか、それともアレを放置する事の害と天秤に掛けられる。
「別にどちらでもよかったんです!!
『地下』に纏わる者であるならコレを呼び出すことはできる!!」
「これこそ僕の闇属性電子魔術
『混同』の紛い物とは違う『軍団』の力!!」
谷座が陶酔した声で目無し級を呼び寄せた事を誇る。
だからなのか、この後起きた事にこの場の全員が凍り付く事となった。
『■■■■■』
エリスのものではない電子音と共に、近くに金色の光源を感じる。
あの化物の頭部にあるホルスの目の如き文様が激しく光っている。
不思議と、万物の影が日食の時のように一瞬揺らめいた気がした。
備考:
■■(状態異常):DEXの最大値を-1する
まず市新野と谷座が呻き声を上げながら蹲り、エリスが墜落する。
幸いにも近くを跳んでいたのでキャッチが出来たが、エリスも同様に魘されている。
(一体何が……!)
この場で唯一無事な八朝が辺りを見渡す。
だが、エリスや鳴下のように魔力が見えず、何も手掛かりを得られない。
(落ち着け……これが奴の攻撃なら手掛かりがある筈だ!)
必死に攻撃を観察していると、蹲っていた筈の谷座が起き上がる。
脂汗を滲ませてこちらを向く彼から、何故だか懐かしさを感じた。
「もう、僕にはこれしか……」
錫杖の音が鳴り響く。
化物からドーム状の薄白の衝撃波が放たれ、巻き込まれた谷座から何かが砕ける音がし、そのまま倒れ伏す。
そのまま化物が彼の身体を跨ぐと、無数の肉と骨が潰れる音が響いた後地面に真っ赤な花が咲いた。
「……ッ!
■■!」
あの衝撃波に誰も触れさせてはいけない……!
迎撃する筈のタイミングで放ったのは分析用の霧であった。
衝撃波が市新野の目の前まで来た瞬間、激しい衝突音が響く。
「な……何だあの杖は!?」
それは二つの意味での指摘であった。
化物の真上から降ってきた謎の杖が衝撃波と火花を散らしながら拮抗する。
そして先程放った霧が衝撃波に触れるや否や明確に『灯杖』の形を取って崩れ去っていく。
「貴様!!
その体たらくで千早様を守るといったか!?」
いつの間にかすぐ近くに雨止の姿があった。
やがて杖の落下力が勝り、衝撃波が縮小して化物の身体に罅を入れる。
どうやってあのゴーレム地獄を突破したのか分からないが、これ以上に無い援軍であった。
「……いや、お前のお陰でアレに勝てる道筋が見えた」
「だったら手を動かすがよい」
雨止がそう言った瞬間、再びあの金色の光が襲い掛かる。
「ぐあっ……なんだこれは……!」
「恐らく『邪視』だ
視線を投げかける事で相手を呪う、それがあの化物の力だ」
雨止の影が揺れた後、他と同じように倒れ込む。
だが、またも無事であった八朝が今度は化物へ向かって駆け出す。
『タウミエル』
それは死の木において『ケテル』の別側面として語られる虚ろの天体。
『ケテル』が万物の源たる一者の力であれば、『タウミエル』は統一不全を引き起こす二つの力。
魔法的なイメージに『王の横顔』とあるのは、人に見えないもう一方が常に神へと向けられると説く。
また、悪魔学に精通した谷座が呼べたのが更なるヒントを加える。
あの化物の邪視とは即ち『悪魔化』
異能力の闇の側面を強制的に作成し、それによる統一不全で異能力そのものを使えなくする。
(だが残念だったな……
異教の神ならまだしも、俺はお前の同門だ!)
八朝が放つ『カバラ魔術』とあの化物の『邪視』は同じ宗教から発生している。
彼が『悪魔化』の邪視をものともしない理由もここにある。
『うーん……』
漸く邪視から回復したエリスに初速度変更魔術を要請する。
だが、化物はその隙すらも見逃さない。
『■■!』
『■■■■■』
『……ッ!
Vrzpyq!!』
最後の力を振り絞って初速度変更魔術が発動される。
その勢いに振り回されないよう灯杖をしっかり握り込み、大上段で振るう。
『■■■!』
またあの化物の衝撃波が展開される。
だが、初速度変更魔術の支援がある灯杖の振りが、衝撃波に打ち勝つ。
「……らぁッ!!」
化物が危険を察知してバックステップし、灯杖の一撃を躱す。
確かな確信と共に灯杖を構え直す。
(俺なら勝てる……!)
体勢を立て直した化物が杖を掲げ、再びあの衝撃波が放つ。
次でCase42が終了します




