Case 42-3
2020年12月22日 完成
オセの特徴を利用して篠鶴駅構内に侵入することに成功する。
だが、同時に解釈不能な記憶遡行に襲われ、時間を無為に消費させてしまう……
【5月25日14時59分 篠鶴地区・篠鶴駅(辰之中)】
記憶遡行から回復し、ゴーレム達についていくこと数十分。
ついにエリスが言う『必ず通る一点』に辿り着く。
(これ……は……?)
市新野が一際異様な光景に目を剥く。
それまでの冠水も泥濘も無く、剥き出しの平らな岩石の上に巨大な竜巻が鎮座している。
(カンザスの竜巻……やはり遅かったか)
それは『巻き戻す前』の世界にて谷座が放った魔術。
『オズの魔法使い』に登場する竜巻と銀の靴(瞬間移動)を兼ねた、単純にして最強の攻撃手段。
因みに、ゴーレムが通る一点は丁度八朝達が立っている場所の目の前であった。
(これも……紋様……
八朝さんが言った魔法円)
(待て、不要に魔法円の中に入るな!)
だが、忠告が遅かった。
魔法円の中に入るや否や透明な壁が魔法円を覆い、市新野を閉じ込めた。
「な……!?」
更に異様な事に、魔法円を守るように付近のゴーレムが魔法円に集まってくる。
「僕の予想ではキミが入ると思ってたよ」
「……生憎、錫沢に全く同じ手を食らった事があるからな」
突如現れた人影が、八朝の返しに怒気を滲ませてくる。
谷座元也……十死の諸力の第八席と名乗る幹部の一人。
「そうですか……
つくづく僕の予感がゴミだと実感するよ!!」
谷座の周囲の地面が不規則に隆起し始める。
異能力によるゴーレム作成、或いはそれを利用した地形操作。
いつの間にか谷座の立っていた場所は数メートルも高所となり、その周りを銃剣兵士のようなゴーレムが取り囲む。
「キミを倒すために僕の全力を捧げよう!!」
八朝の戦力を過剰評価した谷座のゴーレムによる一斉掃射が始まった。
八朝は疎か、強力な異能力者でさえ粉砕しかねない土弾の嵐。
毒づく代わりに、今しか使えない秘術の詠唱を捧げる。
(十の幻日よ)
それは鳴下が放った烏落としの詠唱の圧縮版。
詠唱の中途で弓矢の弦を鳴らし、飛来する土弾を全て粉砕する。
「……ッ!」
「生憎だが、今の俺には鳴下神楽の加護があるぞ?」
神経毒に侵されたような痺れが、これ以上に無く頼りに感じる八朝であった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
そんな話は聞いていなかった。
今、目の前の鳴下家でもない彼が、神経毒の補助もなく烏落としを発動させた。
(な……なんですのこの人は……!)
それからは、まさかの互角に渡り合う戦闘が続いた。
烏落としでゴーレムの突撃を跳ね返し、少しでも八朝が制止するものなら地形操作による下からの攻撃を画策する。
エリスの障壁魔術に隠れ、二度発動した土弾の嵐をやり過ごす。
そんな中鳴下がある事に気付く。
(あれ?
そういえば『巻き戻す前』の話では……)
序盤は確かに今のようなゴーレム作成&地形操作による攻撃が主であった。
だが、オズの召喚が成功した後では『竜巻』と『瞬間移動』を多用していたと八朝から聞いた。
(あくまでゴーレムは、俺たちが一撃でゴーレムを倒す仕掛けを逆利用した囮でしかなかったんだ)
だが、一向に相手は『竜巻』を使用せず別のところに留めている。
もしかすると、あの『竜巻』こそが谷座の真の狙いなのではないのか?
(Wvisfef)
初めて神経毒を完全掌握の為に用いる。
この攻撃が一旦止んだ瞬間を利用して、烏落としの照準を竜巻の中心に向ける。
『十の幻日よ』
清冽な弦音が、魔力を裂いて『竜巻』へと猛進する。
その一撃を最も遠くにいたゴーレムが身を挺して止め、その反動で竜巻に吸い込まれバラバラになっていく。
『え……?』
エリスは呆気に取られているが、八朝は何かに気付いたらしい。
掌握から手放しても、弓矢の狙いを竜巻から離さない。
それからは八朝の迎撃が竜巻を邪魔するゴーレムのみの効率的な戦法に変わる。
「おのれ……!」
明らかに谷座が焦っている……どうやら竜巻は本当に壊されたくないらしい。
そのまま戦闘は続くが、これ以上展開が進むことは無かった。
そして十数分後、突如として相手の攻撃の勢いが弱まり始める。
『ふうちゃん』
「ああ!」
ゴーレムが0になった瞬間を狙ってもう一度竜巻に烏落としを仕掛ける。
短縮版の詠唱でも竜巻の風が消えてなくなり、中に隠れていた影が姿を現す。
「まぁ、もう守る必要は無いんですけどね」
それは正に教科書通りのエジプト壁画そのまんまのフォルムをした化物であった。
余りにも幼稚園児の書いた落書き並の顔横正面に鳴下は脱力するが、対する八朝が絶望の表情をしている。
『ねぇ、あの化物……目が無いんだけど』
「さぁ御覧に入れましょう!
これこそは篠鶴地下遺跡群に秘された守り人の一柱」
谷座が揚々とした口調で宣言する。
あの化物の魔力は……間違いなく地下迷宮にいた水子の魔力と同じ……
「目無し級・壊乱の呪い」
続きます




