Case 42-1:病毒を操る能力(Ⅱ)
2020年12月20日 完成
市新野の介入により、職員からの襲撃を退ける事に成功する。
だが、この戦いで錫沢の方が限界を迎えていた……
【5月25日14時16分 篠鶴地区・篠鶴タワー付近】
迅速に駆けつけて来た職員に事情を説明し、下手人を連行してもらう。
その際の身分証明で市新野の端末を確認した時、奇妙な事が起こる。
「あれ……?
異能力の画面がちょっとおかしいですね……」
「すみません
僕、『月の館』から退院したばっかりなので……」
「あー……『被保護者』ね、了解です」
被保護者とは、『月の館』にいたというスティグマから異能力者を守るために設けられた情報保護制度である。
市新野の二台目の端末を確認すると、急いで業務に戻っていった。
「それより、八朝さんは一体何を……」
「ああ、実はな……」
市新野にこれまでの経緯を話す。
端的に『病欠騒ぎの犯人が分かった』だけの話なのに、市新野は盛んに相槌を打つ。
「成程、でしたら僕も手伝います!!」
「いや、だが……」
「こんな事態1秒たりとも放置できませんよ
錫沢さんだって八朝さんがいなかったら……」
確かに、現在の病欠者が錫沢と同じ状況であれば一刻の猶予もない。
だが彼が現在学校の外にいるのは『八朝達を連れ戻せ』という大義名分がある筈である。
これまでの話からしても、大義名分に対抗できるほどの説得力は無いと考えている。
なのに市新野はこんな調子である。
ふと、隣の錫沢を見ると恐怖で顔が真っ青になっていた。
「大丈夫か?」
「ひっ!
だ……大丈夫ですわ!」
「……」
八朝がエリスに何かを話しかけようとして、錫沢に縋られる。
「待ってくださいまし!
私は大丈夫ですから……これぐらい!」
「いや、すまん
刃傷沙汰に慣れてる俺の方がおかしかった」
錫沢を落ち着かせようとして頭を撫でる。
その間も、不自然に冷静な自分への疑問が募っていく。
「錫沢は千早ちゃんを守ってくれ」
「ですが……!」
「大丈夫です、彼には僕が付いていますから」
まだ何も言ってないのに市新野が胸を張って答える。
見ず知らずではあるが、電子魔術だけでは起こし得ない超低温空間に錫沢が納得する。
「わ、分かりました
八朝さんをお願いします」
そうして、八朝から離れた錫沢がとぼとぼと帰路についていった。
「それでどうしましょう?」
市新野が改めて八朝の犯人倒しのプランを聞く。
「一応、犯人の情報は異能力含めて知ってる
問題は『オズの魔法使い』よりも闇属性電子魔術だ」
ゴーレム作成能力と悪魔召喚を繋げるものとして闇属性電子魔術を位置づけているが、具体的なものまでは分からない。
闇属性電子魔術が全属性に有利な点を考えると、余りにも不安要素が多過ぎる。
「闇属性電子魔術って……まさか十死の諸力なんですか!?」
「そうらしいな」
「そんな……」
市新野が八朝の追っている者の正体に気付き、思わず顔を伏せる。
だが、彼が纏っている雰囲気が錫沢のそれと全く異なるような気がして不安感が募る。
「……もう一つ注意したいが、目的はあくまで逮捕だ。 前みたいに殺そうとするなよ?」
「……前、ですか?」
市新野の疑問に、自分が『巻き戻す前』の話をしていたことに気付く。
しまったと思い、もう頭を抱えるしかない。
「だ、第一僕にそこまでの力は無いですよ!」
予想に反して市新野が追及してこなかった。
考えを整理するために、今後のプランを詰め合わせる。
「目標は谷座の無力化だ
だが、奴は悪魔召喚という『秘術』と闇属性電子魔術、それにゴーレムによる物量作戦も可能だ」
「しかし、逆に言うと奴は魔力消費が激しい能力しか使用しない
そこで俺たちはひたすら奴の能力発動を妨害し、息切れを待つ」
八朝は致命的な悪魔召喚や闇属性電子魔術。
市新野は生成されたゴーレムを文字削り無しでの破壊を任せる。
「分かりました
同郷出身のコンビネーションで止めてやりましょう!!」
市新野の恐れを知らない返しに頼もしさを感じる一方、不安感もある。
彼を見て思い出すのは『迷宮』で仲間になった異世界転生者達の姿。
そう、彼は転生者並……いや、あの箱家以上に地に足が付いていない。
転生者よりも転生者らしい市新野の決意に、一瞬遅れながらも頷き返す。
ここまで読んでいただきありがとうございます
DappleKilnでございます
思えば彼ら、随分と修羅場に慣れてますね
確かに篠鶴市は見えないところでいざこざのありそうな治安極悪都市ですが
こんな普通の高校生が……ですよね?
彼らが慣れている理由、それは一体何なのでしょうか?
それでは引き続きよろしくお願い致します。




