Case 41-5
2020年12月19日 完成
2020年12月20日 序盤修正・異能力情報追加
榑宮住人を巻き込んで執拗に追い回す篠鶴機関の職員。
あの時の緘口令を強いて来た職員だという指摘に、態度が豹変する……
【5月25日14時00分 榑宮篠鶴境界・篠鶴6番橋】
先程まで狂騒に溺れていた者だとは思えない程の静寂。
研ぎ澄まされた殺意の目が、八朝へと注がれる。
「……のせいだ」
職員は不明瞭な声で返す。
悪手だが聞き返そうとして、職員の剥き出しの殺意を浴びる。
「お前が死体漁りを盗み聞きしたせいで明日から無職なんだよどうしてくれるんだ!!!」
それは余りにも不幸な話であった。
あの時に八朝が『巻き戻す前』の話をしなければ起こり得なかった。
同情しようとして、ふと何かに気付く。
(待て……本当にそれだけなのか?)
八朝が考えたのは、職員の浅ましい殺人の理屈ではない。
秘匿事項に匹敵する『死体漁り』の漏洩に対する罪が解雇で済んだ話である。
篠鶴機関は同じく秘匿事項に該当する『伝令の石』に関しては、単純所持だけで射殺か『月の館送り』となる。
……誰が、この職員に解雇を命じたのか?
「……な!
おい、貴様話を聞いていたか!!」
再び真空斬撃波が炸裂する。
だが先程とは異なり、落ち付いて烏落としで電子魔術を迎撃する。
残り迎撃回数はもって3回。
一つの依代を長時間使い回した経験のない八朝にとって、また一つ予測できない事態が圧し掛かる。
「ほらこれだよこれ!!
最近のガキは年上を一切敬わず、俺様の愛の鞭すら拒否しやがる!!」
連続二回の真空斬撃波。
次はエリスの障壁魔術が間に合い、障壁全てを使ってしのぎ切る。
魔力による火花が飛び散っている中、男の叫びが続く。
「お前、これが『篠鶴機関』だったら即懲罰房送りだぞ?
全く世の中の厳しさを知らないガキ共らしい余裕っぷりだよなぁ!!」
どうやら彼にも恨む理由は存在していた。
だが、道理がどうしようもなく捻じ曲がっていた。
「だから俺が代わりに躾をしてやるよ!
世の中を舐め腐ったクソガキ共を皆殺しにしてなぁ!!!」
八朝は、その栄えある最初の生贄だという事らしい。
最後まで聞く程でもない職員の理屈に、今度は呆れて物が言えなくなった。
「人の話は正座して聞くんだよ!!!」
マイクロバーストが発動し、八朝達を地面に縫い留めようとする。
とっさの判断で躱したが、恐慌状態の錫沢と距離が離れてしまう。
「しまっ……!」
弓矢を輪に変えたがもう遅い。
続く真空斬撃波が錫沢の喉元を捉える。
『Eaams!!』
『⋀rζ0…+!!』
耳障りなハウリング音と共に、砂煙が八朝達の視界を覆う。
この時、八朝は2つの賭けに出ていた。
一つは輪によって注意をこちらに向ける事、もう一つは学校にほど近いこの場所の特性である。
土煙が晴れると、後者が的中していた。
「な……んじゃこりゃあ!!!」
「大丈夫ですか八朝君!?」
真空斬撃波が市新野の『運動相殺魔術』の立方体に捕らえられている。
錫沢には傷一つないが、放心して地べたにぺたんと座り込んでいる。
市新野が自前の模造刀を職員に向けている。
「一体何が起きたのですか!?
彼、どう見ても篠鶴機関の職員……」
「俺たちはコイツに殺されかけた!!」
「な……!?」
この時、相手の動向を気にし過ぎて言葉足らずだった事を悔やむ。
漸く正気に戻った職員がこんなことを言い始めたからである。
「そ、そんなはずがありません!
私……この目で見ましたよ! この男があの女の子を殺そうとしてたところを……!!」
ここまで虚言癖が激しいと、寧ろ清々しいレベルである。
だが、現場に駆けつけてくれたのが市新野で本当に助かった。
「……八朝さんの属性は水です
そして僕の電子魔術で捕らえたこれは、どう見ても上級風属性電子魔術ですよね?」
一瞬でバレた保身を引っ込め、市新野にも同じ視線を投げかける。
「お前もかよ、死ね!!」
真空斬撃波が、虚しく音だけ響き渡る。
不審に思った職員が何度も端末画面を依頼だたしく叩く。
「無駄です
貴方の端末に不純物を混ぜました」
本来は壁抜けや罠に用いる中級水属性電子魔術を使った妨害である。
端末から出てくる誘導の魔力に全属性の魔力を混ぜ込み、電子魔術そのものを失敗させる。
そして、そんな微細な調整を可能にする体質が、職員の罪を暴き立てる。
「貴方からは非能力者の血の粒子が見えます……殺しましたね?」
「それがどうした!!!」
「では僕が『篠鶴機関』に代わり、貴方の刑を執行する!!」
激昂し、小銃を向ける職員に市新野が剣を構えて迫って来る。
正義に酔っているのか殺しに躊躇が無い……
「エリス!!」
エリスにありったけの霧を渡し、新たに使えるようになった電子魔術の使用を命じる。
対象は、この場で最も高速で移動する物体。
『Sgnadap!!』
壁抜け魔術を市新野の模造刀に向けて放つ。
それでも壁抜けが間一髪間に合わず、数センチ程度職員の胸を抉る。
「ぐあああああああッ!!」
即死には至らないが、重傷程度で踏みとどまることに成功する。
急いで八朝が錫沢を介抱し、篠鶴機関の医療担当に連絡する。
市新野は職員の身体から模造刀を引き抜くと、その刃を執拗に拭っていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
使用者:?????
誕生日:8月11日
固有名 :Sudbs
制御番号:不明
種別 :O.ERROR
STR:※ MGI:※ DEX:0
BRK:0 CON:1 LUK:1
依代 :鞭
能力 :病原性微生物作成
後遺症 :多臓器不全|(消化器)
備考
・※=10
xxxxxxxx xxx
Chapter 41-b 感染 - infection
END
これにてCase41、なんかヤバい職員の回を終了します
そう言えば彼に対する処断も所々で不自然に手厳しい
普通の解雇なら2週間の猶予があるし、それはこの異世界でも同じこと
彼は一体『誰に』解雇を命じられたのでしょうか……?
次回は虚ろの王冠(後編)であります
それでは引き続きよろしくお願い致します




