Case 41-3
2020年12月17日 完成
錫沢に掛けられていた呪いを解呪した。
場が落ち着いたところで、ここにやってきた理由へと話題がシフトする……
【5月25日12時50分 磯始地区・錫沢の家】
「そう言えば、ここに何があるんですの?」
鳴下からの疑問でようやく本題へと入る。
その前に錫沢にある疑問に応えてもらう為、エリスに例の写真を表示させて渡す。
「錫沢……この張り紙に見覚えは?」
「うーん……真ん中の文字が違いますけど」
「それはこんな感じか?」
八朝がメモに『牡羊座』と『木星』を表す記号を記して渡す。
それを目にした錫沢が納得したような声を上げて首肯する。
「これが一体何なのですの?」
「ああ、これは占星術における『タームの表』における組み合わせで1番
……つまりは、先程の大家が10番だったから、組み合わせると以上のようになる」
そしてエリスにあの『水星の魔方陣』と組み合わせた篠鶴市の地図を表示させる。
「これは……?」
「ああ、これを使った事件に俺は遭遇したことがある
谷座が『巻き戻す前』にて悪魔召喚に用いた水星の魔方陣だ」
鳴下が『谷座』の言葉に反応する。
だが、そこについていけない錫沢から割り込みが来る。
「何なんですの?
『谷座』に『水星の魔方陣』と『巻き戻す前』……」
「一体何が起きているんですの!?」
彼女も『谷座』の術式の被害者なので、今追っている事件概要について説明する。
はぐらかそうとした『巻き戻す前』についても催促されたので大まかに説明をする。
「……事情は分かりました
まずこの事件の犯人ですが、件の谷座元也で間違いありませんわ」
「……その心は?」
「谷座は私の父が狼藉を働くまでの『番外』でした
父は死者を呼び寄せると嘘を吐いていましたが、本来の『番外』は別の世界の知恵を招聘する力ですの」
曰く、谷座家は口寄せの術でこの世とは異なる知恵を身体に降ろし、本にして記載していた。
これであの社殿内に並んでいた本のラインナップに納得がいった。
「そして息子の元也君は私の幼馴染ですの
彼は得意の『悪魔学』をよく私に話してくれましたの……特に『オセ』の事を」
彼女と谷座の意外な関係性に驚く暇もなく、証言を噛み責める。
これであくまで仮説でしかなかったあらゆる推理に信憑性が付いたのである。
「それで、谷座はどこですの?」
「『巻き戻す前』は64番に対応する水瀬海岸だった。 今回の64番は……」
64番のセルの中に『篠鶴駅』と分かりやすいランドマークが存在していた。
さらに何かを考えようとして、インターホンの音が割り込んでくる。
「あのー……お見舞いに……」
応対した錫沢の声に驚いたのか、ドアを開けるなり掌藤妹が抱き着いて泣く。
「これは……
成程、貴方でしたか……」
更に老齢の男性が入ってくる。
「誰だ?」
「これは失礼いたした、八朝様
私は鳴下雅様にお仕えする唐砂と申します」
どうやら彼が鳴下の言う専属執事らしい。
「貴方様は本家でも話題となっております
錫沢の七含人を破った鳴下一族ならぬ秘術の使い手、と」
敢えて『秘術』という言葉を選んできたあたり、鳴下家の情報収集能力に舌を巻く。
そして今度は掌藤妹が反応する。
「七含人!?
お姉ちゃんは!?」
「無事だ。 寧ろ彼女がいなかったら俺は死んでいたかもしれん」
『それに千早ちゃんの事を心配してたよねー』
多分これ以上説明する必要があるので唐砂に一つ依頼する。
「唐砂……一つ頼んでいいか?」
「言葉遣い……と言いたいところですがお引き受けいたします」
「今から話すことは『篠鶴機関』に聞かれたらマズイ……それで……」
「ええ、把握致しました
お嬢様たちも努々心得て下さいませ」
そして八朝が『錫沢英丸呪殺事件』の概要を話す。
鳴下と掌藤妹は驚いた顔をしていたが、錫沢だけ明らかに違う。
彼女の自制心が無ければ『ざまあみろ』と聞こえてくるような、そんな表情だった。
「成程、それで貴方様の噂が棟梁会議にて上がったのですね」
唐砂については鳴下家とパイプがある以上当然の反応であった。
「余り長く放置すればいずれ魔方陣を起動される
学園のみの病欠騒ぎを『疫病騒ぎ』にされるまえに、今から止めに行く」
八朝の決意表明の途中で鳴下の白蛇化が発動する。
悲鳴を飲み込んだ掌藤妹を気遣い、輪でマフラーに変えて首に巻く。
一瞬唐砂の感心する声が聞こえた気がする。
「……私も行きますわ
元也君が道を踏み外す前に止めますわ」
錫沢の答えに八朝が了承する。
「わ、私も……」
「千早ちゃんは駄目だ」
「な……どうしてですか!?」
小学生だから、というありきたりな理由よりも『姉の心配』の方を先に想起する。
だから、この場で一番頼りになる人にもう一度頼み込む。
「唐砂……さん……」
「皆まで言わなくても承知いたしました
これでも鳴下の末席……必ずや掌藤千早様をお守りいたします」
彼に掌藤妹を託し、錫沢と共に篠鶴駅へと向かった。
続きます




