表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
222/582

Case 41-2

2020年12月16日 完成

2020年12月17日 誤字修正


 錫沢英丸(すずさわえいまる)の不審死に、学校で広がる謎の病欠騒ぎ。

 独自で調べていた鳴下(なりした)に巻き込まれるように現場へと連れていかれる……




【5月25日11時40分 磯始地区・駅周辺】




「お茶淹れますね」

「いや、そこまで気を遣わなくても……」


 件のアパートの大家はもう既に話を聞かず、台所へと消えていく。

 こんなにもすんなりと事が進むとは思わず、未だ放心状態が治っていない。


 隣の鳴下(なりもと)は堂々と姿勢正しく座っているが、無理した様子が微塵もない。


「それで、今日はあの話でしたよね?」

「ですわ。 あの日何が起きたかもう一度よくお聞かせ願いません?」

「ええ、あの日は奇妙に寒かったことを覚えています」


(寒かった……?)


 確かに今は晩春で、時折風が冷える事はあるかもしれないがその日は寧ろ季節外れの暑さであった。

 これがもしも正しいのであれば彼女は霊障を受けた可能性……即ち谷座(たにくら)関係の事件に巻き込まれている。


 更に語った内容は以下の通りとなる。


 ・真夜中だというのに鍵の音やら物色する音が憚られず響いていた

 ・(当該部屋は数か月空室のままで)空き巣被害だと思いゴルフクラブを片手に様子見をした

 ・だが鍵は掛かっており、外の窓も特に動いた形跡もない

 ・だが、ドアの前に奇妙な文様の張り紙が為されていた


「奇妙な文様?」

「剥がしちゃ悪いかなって思って写してきました」


 それは一つの正円と、紙を埋め尽くすように直線が縦横無尽にびっしりと引かれていた。

 その中心に角の生えた丸と男性の記号(♂)が記されていた。


 そして張り紙の上に右に傾いたA、そして下には同じく右に傾いたVの字が落書きされていた。


「いや、剥がさなくて正解だ

 剥がせば(ユル)のルーンが起動して呪殺されていただろうな」


 八朝(やとも)の指摘に大家と鳴下(なりした)が驚いた顔をする。

 確かに魔術には疎い谷座(たにくら)には到底できそうもない芸当である。


 試しに現場まで行き、鏡を持ちながら張り紙を剥がしてみる。

 呪詛が鏡に反射し、ドアに取り付いた呪詛の魔力が蝶番が腐らせ、ガタンと倒れ伏させる。


 張り紙で隠されていたところには直線……即ち指摘通りの(ユル)であった。


「……本当に貴方を連れてきて正解でしたわ」

「そうは言うが谷座(たにくら)は符呪に慣れていないんだろ、どうしてこんなことができるんだ?」

「そうは言われましても……」


 これでは暴走どころか使いこなしている可能性さえある。

 だが、鳴下(なりもと)の証言と反しており別件の可能性さえある。


『ねぇ……この真ん中の記号って結局何なの?』

「牡牛座と火星の記号だな

 確かこの配置だと火星のデトリメントで凶象の筈だ」


 頭の片隅にあった占星術における天体の品位表を想起する。

 牡牛座における火星の品位はデトリメントと、最終度数付近にターム……


(待てよ、これは……)


 この記号と谷座(たにくら)の『ある要素』の符号に行き当たる八朝(やとも)


「一つ聞いていいか?」

「何ですの? 大家さんにでしたら手短に伝えてあげてくださいな」

「いや、アンタにだ

 この家の北から東方向に病欠騒ぎの被害者がいるか?」

「……いますわ」


 腰を抜かしている大家に呪詛は剥がしたと説明して落ち着かせる。

 そして別れの挨拶をして、鳴下(なりもと)の言う病欠被害者の元へと急ぐ。




【5月25日12時20分 磯始地区・鳴下(なりもと)のアパート】




「まさかとは言わんが、千早(ちはや)ちゃんか?」

「違いますわ

 癪ですけど、私の隣人を助けてくださいな」


 隣人、という言葉に更なるい嫌な予感が漂い始める。

 そして部屋の中には生気を失くして真っ青な顔になっている錫沢瑠香(すずさわるか)が臥せっていた。


「ま、まぁ! 八朝(やとも)さんですの!?」

「いいから貴方は大人しく寝ておきなさい!」


 鳴下(なりもと)が無理に起きようとする錫沢(すずさわ)を制止する。

 部屋の中には魔力の気配が一切なく、鳴下(なりもと)の賢明な祓いがあったことを物語る。


■■(taw)


 その部屋の中で(taw)を出し、彼女の異変の原因を探る。

 霧の中に本や仕掛け絵本の形……間違いなく(ユル)の原義であるイチイの木の(kap)であった。


 急いでアームを一点に集め、指を噛んで出血させ、その状態で布団に(ソウイル)を描く。


(Binner)より袂を分かつ四者(בדזח)よ!

 至高の母の名の下、北方の神秘となりて生まれ落ちよ!!』


 それは(呪詛)(ソウイル)を重ね合わせ、無害な(ダガズ)へと変化させるルーン・バインドの応用であった。

 八朝(やとも)詠唱(スペル)が終わり、霧が晴れると錫沢(すずさわ)に血色が戻る。


「あれ……全然苦しくないですわ」

「ああ、良かった

 鳴下(なりもと)が禊祓で時間を稼いでくれなかったら間に合ってなかった……!」

「な……私は別に死んでも良かったのですわよ!!」


 鳴下(なりもと)が顔を真っ赤にしてそっぽを向く。

 その後の溜息は自身家の鳴下(なりもと)らしからぬ安堵の反応であった。


「血で汚してしまってすまない」

「いえ、構いませんわ

 むしろ消さずに取っておきますね」

「それは流石に気持ち悪いだろ、クリーニング代を先に渡しておく」


 そんな冗談みたいなやり取りをして、取り敢えず全員が落ち着くまでその場で休憩した。

 未だに彼女を気遣う鳴下(なりもと)は、飲み物を用意しようする錫沢(すずさわ)を執拗に制止していた。

続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ