Case 41-1:病毒を操る能力(Ⅰ)
20220年12月15日 完成
七含人、もとい錫沢英丸の襲撃から数日が経過した。
平穏な日常に戻ったのかと思っていたが、学園中に妙な噂が流れ始める……
【5月25日10時30分 篠鶴学園高等部・教室】
「お前、散々な目に遭ったんだってな」
「まぁそうだな」
午前の授業の合間の小休憩。
恐らく暇を持て余したのであろう隣の席からこんな感じに声を掛けられる。
「えーっと確か……肋骨折られて、職員からこってり絞られて……」
隣の席の人から言われて、改めてあの日の事を思い出す。
掌藤がフードの男に重傷を負わしたのが原因で職員から事情徴収を受け、家に着いたのは日付の変わる寸前であった。
勿論連絡なしだったので、マスターからの鉄槌は既に受けている。
「奇跡的に大事には至らなかったよ、安心しろ」
「そっか」
隣の人はこれで満足したが、それ以外の人はそうでもないらしい。
「ねぇねぇ、水瀬神社だよね? 口寄せの秘術は?」
「何かそこに『異能部』の人が居合わせたって噂があるけど、本当かい?」
「ねーねーお土産はー?」
最後のは論外であるが、おおむね事後処理は徹底しているらしい。
『錫沢英丸に関わる事柄は一切口外するな』
あの日、唐突に職員からそう言われ掌藤が激怒した。
八朝としても柏海のような被害者がいる以上は看過することはできない。
その旨を職員に話すが……
『証拠は?』
職員はそう言って取り付く島すらない。
考えてもみれば錫沢英丸の悪行も七含人も、単なる噂でしかない。
事実、現場からは八朝達の魔力以外が検出されなかった。
『今回に限りは錫沢一族も同情して君達を特別に見逃してくれるらしい』
その言葉は掌藤の地雷ワードであった。
妹が人質に取られた屈辱を、職員に晴らそうとする彼女を必死で押し止める。
『邪魔するなッ!!』
『死体漁りに殺されるだけだぞ!!』
それを聞いた職員が恐ろしい視線を向けた事を覚えている。
掌藤もこの異常事態を察知したのか引き下がってくれた。
『何にせよ、キミ達には約束を守ってもらわねばならない。 もし破れば……』
猟銃の充填音を響かせて脅してくる。
凡そ治安維持の責務を持つ人々がしてはならない脅迫行為に眉を顰める。
あの日の『見逃し』は、今思い出しても胃の中が最悪になるレベルで歯切れの悪い終わり方である。
(今後何も起きないと良いが……)
ほぼ実現される見通しのない希望を心の中で呟くと、朝のHRで遅刻した担任の教師が入ってくる。
「申し訳ありません、所用で遅れてしまって
それでは出席ですが、今日は次地さんが病欠ですねハイ」
クラスの中が微妙にざわめき出す。
これで3日連続で新たな病欠者である。
しかもこれがこのクラスのみならまだしも、どうやら別クラス・別学年・どころか教職員に至るまで起きている。
現在、この問題に『異能部』が本腰を入れて調査を開始するらしい。
昨日の昼休みにやって来た異能部部長が俺を見るなり何かを言っていた気がするが思い出せない。
何かが起き始めている……
(エリス)
(うん、これは鳴下も呼んだ方が良いかもだね)
【5月25日12時40分 篠鶴学園高等部・第二異能部部室】
「待っていましたわよ八朝さん」
ドアの目の前で待ち伏せされて思わずたじろぐ。
手を引かれた先には依頼情報を整理するためのホワイトボード。
そこには多彩な情報が躍っていた。
「これをどこから……?」
「ご近所の○○さんや、肉屋の○○さん……」
次々に人物名が飛び出して頭が混乱しそうになる。
だが、それだけ彼女が近辺住人の信頼を得ている証であり、予想以上の説得力が付いてくる。
「ん、何だこの目撃情報?」
「良い所に目を付けましたわね
確かにこれだけ時間が午前2時と圧倒的に遅いですわ」
それは昨日起きた異音騒ぎの件であり、資料によるとガラスの割れる音。
現場がアパートで大家が確認しに行ったところ窓ガラスは割れておらず部屋は一切荒らされていない。
「そこの表札には『谷座』と書かれていましたわ」
錫沢英丸の遺言の相手と完全一致した。
この谷座元也は『巻き戻す前』では神出来に危害を加えた十死の諸力の幹部。
「それで、この事件は谷座が起こしていると?」
「貴方の『巻き戻す前』の記憶が正しければそうなりますわ」
「谷座に関しては間違いようが無い
だが、奴の能力は召喚魔術関係だ……今回の病欠騒ぎとは無関係なのでは?」
ふと考えこんだ鳴下が、徐に一枚の符呪を懐から出す。
一音の口訣と共に符呪を起動するが、あの錫沢英丸程の術式の精彩さが無い。
結果として周囲に黒い染みのような汚染領域が生まれる。
「私は……符呪は得意で、ありません……でした
……ですから、未熟な者の、符呪はこのように、周囲を蝕みます、の」
彼女の背中をさすって体調悪化を気遣う。
やがてエリスによる洗浄が完了すると鳴下が続きを話し始める。
「召喚、というものは私には理解できません
聞けば霊を呼ぶと……であれば符呪と大差はありません」
「彼の能力は暴走している
錫沢の『口寄せ』を新たに得たのであれば、不思議じゃありませんこと?」
これほどまでに彼女が頼れる存在に見えた事は無い。
だが、だからといってこれが完璧な説明だとは思っていない。
「御託は分かった
どうやって足取りを追うんだ?」
「まずは大家さんから話を聞きましょう、早くしないと蛇になってしまいますわ」
「いやもう無理だろ明日にしろよ
それに地底探検部の依頼も忘れたとは……」
鳴下は既に話を聞いていない。
ある意味で八朝以上の猪突猛進に、再び先行きの不安が募っていった。
お疲れさまでございます
DappleKilnであります
フツーに授業サボろうとしているけど本当に大丈夫なのか……?
鳴下という人物は、それ程までに無鉄砲な人物でもあります
今まではそれが裏目に出ていましたが
さて、今回はどのような結果になるのでしょうか
それでは引き続きよろしくお願い致します




