Case 40-4
2020年12月13日 完成
2021年3月2日 一部修正
水無神社社殿に集う七含人と、その統括となる錫沢英丸。
ここに、彼らによる悍ましい侵奪の儀が幕を広げる……
【5月22日18時59分 水瀬地区・水瀬神社社殿】
錫沢は口寄せの一族と知られているが、事実ではない。
こうして常人を魔法円で拘束し、その所有物を魔術的に奪っていく。
何度も言うが、これは召喚魔術のうちの『契約』の工程の変形であった。
ならば、彼らは殊更に『順序』を気にしなければならない。
例えば今行っているように……
・特別な方法でくじ引きを行い、順番を定める
・被召喚対象と『交渉』を行う
・(恐らく)書面などに『交渉内容』を残すことで侵奪の効力が初めて成立する
これを犯す事は彼らの言う『我らが神』が許容しないだろう。
即ち、ほんのわずかには猶予が存在しているのである。
(ふうちゃん……どうして……)
(すまん……)
この混乱した状態で何を言っても言い訳にしかならないだろう。
今は如何にしてエリス達を守るかが問題である。
まず、弁舌を使って欺き返すであるが論外である。
そもそも彼らに人の道理が通っているかどうかも怪しいぐらいである。
次に、儀式の主催である『我らが神』の消去であるが、これは複合小径で可能である。
だが『我らが神』の正体が今だ掴めない事、更に複合小径の発動自体が博打という問題点を抱えている。
最後に七含人を含めて状態異常に巻き込むという手もあるが、これこそ博打である。
「それでは『似姿のジンクス』から始めましょう」
錫沢英丸の一声で儀式が本格的に始まる。
その一連の言動が、カラクリ仕掛けの音を立てて書面に記載される。
魔法円の中に『似姿のジンクス』が入ってくる。
彼女の一言目に八朝が面食らってしまう。
「お前の『アルキオネの鱗』を全て貰う」
この場の全員がどよめく。
言い換えるなら、八朝の位階をX級にしてしまう契約内容であったからだ。
だが、問題はそこでは無かった。
「おお、流石は『似姿のジンクス』ですね」
「初手で全能力剥奪とかナイスプレーすぎてウケる」
「こちらからは『次の錫沢英丸』を引き渡す」
今度は別の意味で騒然となった。
意図を理解した八朝が、誰よりも早く反応する。
「引き受ける」
「……ったぁ、なんじゃそりゃあ!!」
八朝と同じく反応の早かったフードの男が骨折の能力を発動させる。
再び呼吸困難で発声を縛ってくるが、そうしなくても発声できる言葉がある。
『tqwqibsxaynwoq
e nwb gqsw ew 『djorcquwkkpjjhqiv』 pl 『sqsw r pqnwdk』 dp vbj afjoe mp ilnqj q hahv
』
『koa abnx dq lekkk uqhw nuq qw uolfpk ok ped aakxk lqoa jf uxnk』
「何を言ってるかわかりませんが答えは『引き受けない』!!」
今更反応で来た錫沢英丸であるが、もう遅い。
そもそも彼に『錫沢英丸による交渉』に口出す権利はない。
『ie he k laoq』
こうして八朝と『掌藤』による欠席裁判が効力を為した。
そして次の番となるフードの男の口を掌藤が妖精化して掌握する。
「よくもやってくれましたね……この疫病神が!!」
錫沢英丸が懐から符呪を取り出して八朝を呪縛しようとする。
今の八朝には状態異常は存在しないが、無くても使える事を掌藤は知っていた。
『勅令を為し、この身に勝利を!』
八朝が互いの握り拳を合わせ、再び小径の複合発動に挑む。
これまでの天球との位置関係から間接的に呼ぶ手法でなく、小径を利用した直接喚起。
CON:?→1
その変化に気付くよりも早く、身体強化による神速の間合い詰めから力任せに殴る。
錫沢英丸の胸部に拳がめり込むも、相手にはノーダメージ。
逆に返しの符呪の拘束を受ける。
「本当にお馬鹿な人なんですねぇ!」
「それじゃあ、『口寄せ』を引き受けるってのは……!」
「はて、何の事でしょう?」
「代金はどうした!?」
「これは……お布施として受け取った筈なんですがねぇ」
「ぎゃはははははは! オッサン相手に口寄せ希望とかお前○○かよ!?」
フードの男の血の吐くような哄笑に共鳴する錫沢英丸。
だが、これで発動条件が揃ってしまった。
罪状 :刑法246条(詐欺の罪)
STR:0→1
『特赦』
「『わぅへっと』と奇妙な鳴き声を……ぐぅっっ!」
急に呼吸が浅くなり胸を押さえて苦しみ、顔面蒼白と喀血まで引き起こす。
所謂フレイルチェスト……肋骨損傷によって引き起こされる胸壁動揺。
先程からフードの男がやってみせた能力の意趣返しである。
「何をした!?」
「教える訳無ぇだろ、カス」
掌藤が新たに作成した戦闘用の妖精でフードの男の頭をかち割った。
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