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Case 40-2

2020年12月11日 完成


 あの事件以来すっかり機嫌を悪くした鳴下(なりもと)は一言も会話してくれなくなった。

 とは言え錫沢家と『七含人』に関して、とある人物のもとを訪ねる……




【5月22日18時00分 南榑宮地区・麦島橋】




『ふうちゃん……

 待ち合わせもしていないのに本当にここで会えるの?』

「ああ、俺の記憶が正しければな」


 とエリスに言ってのけるが正直自信は無い。

 そもそもここは端とはいえ榑宮……異能力者を害虫か何かだとしか思っていない強硬派の本拠地。


 今から会う人の『傾向』を考えてここを選んだが、あまり長居はしたくない。


「……辰之中に逃げれればなぁ」

『駄目だよふうちゃん

 ここに張り巡らされてる監視プログラムが反応しちゃうから余計に危ないよ』


 実際この監視プログラムに引っかかった遠海地区在住の異能力者が家まで榑宮住民に追い回された事件もある。

 思わず正気を疑いたくなるような執念も、榑宮(ここ)では日常茶飯事なのである。


 すると、橋の向こうからやけにキョロキョロとしている人影が見える。


「……!」

「…………!」


 遠すぎて声が拾えない。


『んーとね

 "ここまで来たらもう大丈夫から"とか"そんな悪いよ"とかだね』

「……」


 会話内容から目的の人物であることを悟る。

 人影が一瞬こちらの姿を見るとビクッと反応される。


(不審人物と思われているね)

(心外だな)

(ほら、よく見てごらん

 ふうちゃんガチのストーカーにしか見えないよ)


 カメラ機能を使ってまで己の姿を画面越しに見せられる。

 確かにこれでは犯罪者にしか見えない。


 だが、このまま逃げられては埒が明かない。


「あの……

 私に何か御用ですか……?」


 気弱そうで、精いっぱいの勇気を振り絞った問いかけがやってくる。

 訊いてきたきた割には目を力一杯瞑り、体を縮めて怯えている。


「柏海綾子だな?」

「ひっ」


 取り敢えず『巻き戻す前』を覚えているかどうか知りたくて混ぜこぜにした応答をする。

 結果として考え得る限り最悪な展開となってしまった。


『ふうちゃん!!

 ごめんねー……この人悪気とかないからー』


 宙に浮いて人語を操る端末も彼女の恐怖を煽る結果となった。

 余りにも会話になりそうにないから一言挨拶して帰ろうかと考えていたその時、予想外の返しがやって来る。


「もしかして……『笑う卵(ヴィヒテルドライ)』を止めてくれた第二異能部の人ですか?」




 結論から言うと彼女も『巻き戻す前』覚えていた。

 それにしては怯えすぎな態度をしていたが、彼女曰く『遠くから見たら思ったよりも怖い』だそうである。


「それより今回は俺『笑う卵(ヴィヒテルドライ)』に関わっていないんだが、どうしたんだ?」

「あー……えっと……

 私と協力者の女の子と一緒に止めました」

「そうか、大事に至らず良かったな」


 そうは言うが今の今まで彼女の事件の事をすっかり忘れていた自分が呪わしい。

 このようにして『巻き戻す前』の事件を取りこぼしていくのである。


「いえ、逆に前の記憶を使って上手く止められて、ちょっと自信がついちゃいました」


 にへら、と力なく笑う柏海(かしみ)

 彼女の事は特に知ってはいないが、どうやら前に進められたようで心中で安心した。


「それより今日は何の用で?」

「ああ、それだがなアンタに一つ聞きたい事があってな」

「何でもいいですよ、恩人ですから」


 微妙に面映ゆい返しをされて困惑する。

 一呼吸程度のフリーズののち、本題へと入る。


「もしかして、アンタは『七含人』の一人なのか?」


 その言葉で彼女の表情が強張る。

 どうやら八朝(やとも)の懸念は当たっていたらしい。


『え……どゆこと?』

柏海(かしみ)は『巻き戻す前』に『笑う卵(ヴィヒテルドライ)』の管理人の末裔だと言っていた

 だから『七含人』という言葉でピンときた」


「『七含人』は篠鶴七不思議を管理する特別な異能力者なのでは、と」


 篠鶴市を他の町とは全然毛色の違う風景にしてしまった七つの風景。

 そんな複雑な仕組みがスタンドアローンで発動していくのは至難の業である。


 特に異能力者全員を管理する篠鶴機関では人手が足りない。

 であれば、誰かが管理しているのだろうと考えるのが自然である。


 そう考えていたところに『七含人』なる言葉が飛び込んできたのである。


「……貴方の言ったことで間違いありません

 でも、その言葉はもう二度と使わないでください」


 まるで懇願するように柏海(かしみ)が目を閉じる。

 まだこの段階では真相に至れていない……酷であるがもう一つ問いかける。


「……錫沢家の当主か?」

「!?」


 明らかに最大級の怯えの表情を取られる。

 やがて、振り絞るように呟き始める。


「私、あの人の事……嫌いです」

「それは錫沢瑠香(すずさわるか)も言ってたな……最低最悪だって」

「それどころじゃないんです!

 あの人『七含人会議』の時に私を舐め回すように見たりして……」


 証言内容は一言で『パワハラ・セクハラ』と言い表されるのも烏滸がましい程の外道行為であった。

 あの電話口の優しそうな声からは想像もつかない人物像に冷や汗すら浮かんでいる。


 初めて会った時に『七含人』でなく『七不思議の管理人』と明かした理由も頷ける内容であった。


「とにかくもう関わりたくないんです

 その言葉だけであの気持ち悪い人とばったり会いそうな気がして……」


 そんな彼女の言葉が真実となる。


 ふと、周りを見渡すと橋の上の開けた風景から静寂な社殿の中へと変化した。

続きます

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