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Case 39-1:母性本能を擽らせる能力

2020年12月4日 完成

2020年12月5日 誤字修正


 箱家(はこいえ)掌藤(たなふじ)の事件から6日が経過した。

 そして、とうとう『あの化物(ナイト)』との決戦の時を迎える……




【時期不明・承前 篠鶴学園高等部・某所】




「ええ、では24日にお願いします」


 八朝(やとも)錫沢(すずさわ)家との日取りを完了させる。

 首が疲れているのか、無意識に頭を一回ぐらい回す。


『おつかれ、ふうちゃん』

「いや……別に疲れるような内容でもないだろう」


 八朝(やとも)が、既に手から離れたエリスに苦言を呈する。

 本当に内容も『世間話少々』『事情把握』『日程調整』『挨拶』のみで数分も要しなかった。


 それも八朝(やとも)が歴注を齧っていたおかげでもある。

 錫沢(すずさわ)家の担当も『卒業されましたら是非うちの下で働いてみませんか』と毎回冗談を言う程である。


「そう? なんか首回してたから凝っていたのかなって……」

「いや……?

 本当に何も無いんだが」


 頭に手を当てて考える。

 やはり思い当たる症状(フシ)はなく、風景がくるりと回る。


『ほらまた!

 ちゃんと寝ないと駄目だよ!』

「……後遺症(レフト)が無ければなぁ」


 八朝(やとも)には『気絶無視』の後遺症(レフト)によって寝る事すら許されない。

 本当は『そう演じていた』だけなのだが、あの創造神によって正式な後遺症(レフト)になってしまったのである。


咲良(さくら)ちゃんに相談してみたら?』


 エリスのアドバイスに八朝(やとも)が苦い顔になる。

 あの距離感皆無の咲良(さくら)がマトモな案を提示してくれる風景を想像できない。


「……添い寝とか言われるオチだろ」

『え、なにそれ気持ち悪』


 八朝(やとも)の精神に致命傷が入った瞬間であった。




【5月20日21時00分 篠鶴学園地下迷宮・第一の広間|(仮称)】



 

 識別名(ネーム):不明

 位階(ランク)〇つ目(アトラス)

 備考:

  ①顕著属性:分霊蛭子神・神度剣・洗脳・不服の主・祭祀・舞踏・呪詛

  ②状態:耐久値100%




 何度も標的の情報を確認する。

 これが正しければ、あの嬰児の形をした化物(ナイト)の正体が芸能の神だと断定できる。


 だが、何度もその結論に違和感を覚えてしまう。


(本当にそうなのか?

 蛭子神といえば商売の神……確かに西宮には百太夫神が併祀されてはいるが……!)


 百太夫神とは西宮神社に属する芸能集団『傀儡子』の氏神である。

 詳細は不明ながら、天神の眷属たる蛇神・白太夫との関係も言及されている。


 考えても埒が明かず、同行者の鳴下(なりもと)の方を見る。

 緊張はしているが、舌を出したりして空気を和ませようとしている……頼もしい限りである。


鳴下(なりもと)もそういう顔するんだな?」

「何がですの?」

『さっき舌を出してたじゃん、あっかんべーするみたいに』

「や、やだっ!」


 鳴下(なりもと)が恥ずかしそうに顔を押さえる。

 無意識の癖なのだろうか……これ以上言及するのは可哀そうである。


(エリス、止しとくか)

(うん、そうだね)


 エリスとのひそひそ話を終えると、今度は鳴下(なりもと)がこちらを指さしてくる。


「あ、ああ……貴方こそさっきから首を回したりしてお疲れですの!?」

「いや……別に疲れてなどは」

『やっぱりじゃん

 『気絶無効』で眠れないって素直に言った方が良いんじゃない?』

「え……?」


 エリスの冗談に文句を言おうとして、鳴下(なりもと)の反応を見てしまう。

 まるで、信じられないと言わんばかりに目を見開いている。


 そして、目を閉じて頭を抱える。


「いや、アンタこそ……」

「貴方……この戦いが終わったらウチに来ること」

「は?

 そんなの無理に……」

「い・い・で・す・わ・ね?」


 鳴下(なりもと)の剣幕に気圧されて、了承してしまう。

 それを見た鳴下(なりもと)が『よろしい』と鼻を鳴らして上機嫌である。


「それじゃあ杣根(そまね)の言う通り、今日中にパパっと倒しましょう!」


 そんな鳴下(なりもと)の士気を見て、さらに鼓舞されるようである。


「それと、先程は何を考えていましたの?」

「ああ、あいつの正体についてな

 何か怪しい部分があるような気がしてならないんだ」

「それは、どういうことですの?」

「神職の一族のアンタなら分かるかもしれないが

 神社に天神と稲荷が祀られていても、その天神の方に稲荷神のご利益が付くとは到底思えない」


 ご利益とはひいては祭祀神の人格そのものである。

 似通る、混ざるという事は往々にあるとしても、あの化物(ナイト)のように他方のご利益を借用するのはあり得ない。


「それは分かりますが、だから何ですの?」

「蛭子神は商売神だ……芸能の神は蛭子神でなく弁財天の領分の筈なのに何故あの化物(ナイト)は」

「しっかりしてくださいまし

 それは貴方があの時語った『仮面』でありません事?」


 その返しに八朝(やとも)が何も言えなくなる。

 あの閃き(ずつう)は正しかった筈だ……それを自ら否定するのは愚の骨頂である。


「ああ、そうだな

 だがあの化物(ナイト)への注意は怠らない事には変わりない」


 くるりと風景が半回転し、あの大広間に辿り着く。

 女性を洗脳する悪辣な〇つ目級(アトラス)級の威容が、中空であやされるように静かに揺れていた。

毎度お世話になっています

DappleKilnでございます


今回はとうとう決戦となります

何やら気になる点があるようですが、もう後戻りはできません


……次回予告と話が違う?

いえ、ちゃんとアレも関わる内容となっておりますのでご安心ください


それでは引き続きよろしくお願いいたします

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