Case 38-5
2020年12月3日 完成
箱家の鎮圧……即ち『月の館』送りを成功させる。
だが、間髪を入れずに掌藤と鳴下の間で問題が起きているとの知らせが入る……
【5月14日17時44分 北抑川地区・十字の道(辰之中)】
その日の掌藤と鳴下の会合先は抑川地区の北端……即ち十字の道であった。
だがここは話し合いに適さない程開けており、地域の逸話によると妖魔と鳴下家との最終決戦の場でもある。
八朝達が辿り着いた時には、まさしく昔日の逸話が再現されていた。
「おねえちゃん!
何してるの!?」
「あんたには関係ない話よ!」
妹からの静止を無視し、道に転がっている草木路傍の石、羽虫に至るまで妖精化させて鳴下にけしかける。
それらを烏落としの一音で吹き飛ばし、更に毒矢を番える鳴下。
放たれた毒矢は掌藤の妖精化によって直ちに妖精となり、鳴下を睨む。
『■■!』
駆けだした妖精に鈍足を与える帽子を投げつける。
元が矢であったが故に、鈍足の状態異常が常人よりも深く浸透し、堪らず妖精化まで解除される。
「鳴下
これは一体どういう事だ?」
「どういう事も何も、彼女が今回の事件の犯人でしてよ!」
「何だと……!?」
正直、今回の鳴下の話は一切信用していなかった。
最も近い妹からの証言、『巻き戻す前』と記憶を共有する親衛隊……彼らの言を否定する要素は無かった。
「何処にその根拠があるってんのよ!!」
再び妖精の大群をけしかける。
もう妖精の核となるものを使い果たしたのにも拘らず、先程の倍の数で攻勢を仕掛けて来る。
……待てよ、妖精の核?
「その顔はどうやら気付きましたわね
貴方みたいな迷信じみた人ならともかく、普通の人の箱家がノーヒントで妖精の核なんて発想に至る訳が無いでしょう?」
それについては『ゲーム』で大半の人が学習していると反論したかったが、箱家に関してはその限りではない。
彼の家に訪問した時の雑談で、転生する直前の事故までその手の文化が厳しく統制されていたと彼自身の複雑な家庭環境を何故か語り出したのである。
あの時は相槌しか打てなかったが、この時になって掌藤の矛盾点を露にする鍵となった。
「それが一体どうしたってんだよ!!」
「貴方は13日に嘘の予定を教えた事は知ってますわ
私の知り合いが貴方と箱家が会っていたと話してくれましたわ」
一方的に妖精を蹴散らす鳴下に舌打ちする掌藤。
だが、鳴下の顔にも脂汗が滲み始めている。
「だから何よ!!」
その返答が、一番身近な彼女に対して致命傷となった。
「おねえちゃん……どういう事……?」
今にも泣きだしそうな顔で、懇願するように声を絞り出す千早。
それに対して、姉は余りにも残虐な顔で宣言する。
「いい加減鬱陶しいんだよ!
口を開けば『おねえちゃんおねえちゃん』って、だから嫌われてんだよ〇〇〇〇〇!!」
「!!」
口にするのも悍ましい罵声を浴びせかける。
泣き崩れた妹に、嗜虐心を刺激されたのか更に興奮して言い募る。
「お前が地底探検部に居るのも男漁りの為なんだろ?
それでいつまでも友達ができないとか脳味噌腐ってんじゃねーのか?」
「ま、〇乱〇〇〇〇真っ黒のお前にはお似合いの末路だろうけどな!!」
だが、そこに雷速の如き裁きが降り落ちる。
それを放った人物に向かって、かすり傷を拭いながら掌藤が睨みつける。
「テメェ……」
「ああ、今ので十分でありました
我らが主改め『ゴミ野郎』の貴様に千早様は渡さない!!」
「何だァお前?
豚箱が御所望ってんならお好きのどうぞ、ロリコン野郎」
「唯一の家族の苦しみにすら寄り添えない貴様に比べたら遥かにマシですよ」
千早の前に立ち、雨止があらん限りの罵声を浴びせる。
そして致命的な時が訪れた。
「我々、掌藤親衛隊はたった今を以て解散する
この録音、次の集会で流せば皆も納得するだろう……最後に言いたい事はあるか?」
「あるとでも思ったか勘違い○○コ野郎?
一生トイレの隅で弁当でも突っつきな〇〇」
決裂したまま雨止と掌藤が別れる。
十字の道に掌藤一人が取り残されていった。
「貴様に頼るのは癪であるが、こうするしかない」
「いや、だが……」
雨止が何を言いだすのかと思えば、掌藤妹を八朝の許に預けると言い出してきた。
しきりに『彼女が一番懐いているから』と苦渋の顔で繰り返すが、八朝としてもそういう訳にはいかない。
彼女の縋るような視線に、マスターに殴られる覚悟を決めようとする。
「でしたら、私が預かりますわ」
「へ?」
全員がとぼけた声で返す。
「私には執事がいますわ
幸いにももう一つ部屋があるし、一人分の食い扶持なら特に問題ありませんわ」
こんなところでお嬢様を発揮されても困るしかない。
だが、この中では一番マシな選択肢なのかもしれない。
やがて、異口同音に彼女の提案を受け入れる。
「ではよろしくお願いしますわ」
「え……あ、あの……よろしく……お願いします」
非常に無責任な事後処理が、これまた雑に決着がつく。
男二人、各々で自分の不甲斐なさを一生悔いる結果となった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
使用者:掌藤千景
誕生日:2月10日
固有名 :Igpvaim
制御番号:Sln.193237
種別 :T.TERRA
STR:2 MGI:2 DEX:5
BRK:4 CON:3 LUK:1
依代 :カメラ
能力 :妖精作成(自然歪曲)
後遺症 :不明
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Chapter 21-b 歪曲 - Distorted by
END
これにてCase38、掌藤姉妹の回を終了いたします
あのミチザネ事件以降の舞台裏でとんでもないことが進行していました
そんな悲劇の主役たる彼女たちが今回の話の主要人物でした
箱家逮捕により、エリスの死亡原因がまた一つ取り除かれました
ええ、一つだけなんですよね……
次回は『口寄せ』
それでは次回もよろしくお願い致します




