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Case 37-5

2020年11月28日 完成


 集まった情報から、あの化物(ナイト)の一応の正体に辿り着く。

 主目的が解決したタイミングを見計らって鳴下(なりもと)が『巻き戻す前』の隠された部分を追及してきた……




【5月11日19時00分 磯始地区・弘治の隠れ家】




 彼女に話していない『巻き戻す前』の話は以下の3つとなる。

 まず弘治の正体は鳴下(なりもと)どころか如何なる相手にも明かせない、次に犠牲者の情報であるがこれは本人にも覚悟を決めさせれば大丈夫である。


 最後に三刀坂(みとさか)関係であるが、これは八朝(やとも)が話したくなかった。


「包み隠さずとは言うが、残りは生き死にと三刀坂涼音(みとさかすずね)の件だけであろう」

「……」

「どうした、眷属よ

 それなりの仲にはなっていたような気がするが……」

「……彼女は覚えていなかった」


 その一言で空気が一気に重くなる。

 一人だけ雰囲気から取り残された鳴下(なりもと)が困惑しながらも憮然とした表情となる。


「何ですの三刀坂(みとさか)さんの事について?」

「……すまない、これは話したくない」

「そうですの?

 では生き死にについて……そういえば犠牲者については色々と省略されていたのは気になっていましたわ」


 案外あっさりと引き下がる鳴下(なりもと)

 続いて提案した内容は、この場では彼女とエリスが対象になる話である。


鳴下(なりもと)、エリス……覚悟はできているか?」

『えっ? わたしもなの!?』

「ああ、エリスもだ」

『……よくわかんないけど、わたしは聞きたい』


 エリスから強い決意を伴った返事が為される。

 視線を鳴下(なりもと)に向けると、無言で首を縦に振る。


「それじゃあ、時系列的に最初は鳴下(なりもと)であるが

 5月2日のミチザネ(アルキオネⅢ)襲来の際の眷属である七つ目級(影踏み鬼)に殺された」


 あの時は今でもフラッシュバックのように蘇る。

 率先して逃げるべき第二異能部の面々が『影踏み鬼』に一歩も引かずに挑み、無惨に殺されていった悲劇を……


 詳細まで聞いた鳴下(なりもと)が自信満々の表情となる。


「貴方、何か勘違いしてますけど

 この街を守るために抗うのは寧ろ名誉でありますわ! 私も仮にそうなれば率先して……」

「何が名誉なものか……

 あの死に様は今でも悪夢として蘇る……残された者の気持ちを考えた事は無いのか?」

「……!」


 八朝(やとも)の八つ当たりを真に受けて項垂れる鳴下(なりもと)

 『すまなかった』、というフォローが致命的に遅すぎて鳴下(なりもと)の耳に入っていなかった。


『ねぇ、それじゃあわたしももしかして……』

「エリスはもっと後だった

 10日後の5月12日に、恐らくは箱家(はこいえ)能力(ギフト)で……」

『ふうちゃん、もういいよ

 ごめんね……最後まで傍にいれなくて……』


 こんな時まで相手を想う言葉を掛けるエリスが痛々しく見える。

 だが、日付で気付いた弘治が改めて問い質す。


「眷属よ、5月12日とは明日ではないのか?」

「……心配には及ばない

 あの時はミチザネ(アルキオネⅢ)で社会不安に陥って七殺(ザミディムラ)等の犯罪異能力者が暴れまわっていた」

「な……七殺(ザミディムラ)って十死の諸力フォーティーンフォーセスですの!?」


 鳴下(なりもと)が信じられないような顔となる。


「……少なくとも、それに関しては鳴下(なりもと)は関係ない」

「ですが……」


 この顔は恐らく余計な事を考えている表情かもしれない。

 そんな予感がして声を掛けたのだが、ショックが大きすぎるらしい。


「今日はこの辺りで」

「駄目ですわ、最後まで聞かせてくださいまし

 私が選択を間違えないようにもっと話を……」

「そこが既に間違えている

 ……アンタは何も間違っていない、寧ろ間違えているのは犠牲者の筈のアンタに八つ当たりしている俺の方だ」


 それ故にこれ以上偏った『巻き戻す前』の話を聞かせることはできない。

 捨て台詞のような八朝(やとも)の呟きで鳴下(なりもと)が遂に追及の手を止めてしまう。


「……では、一番公平な我がその後の顛末を語るとしよう」


 篠鶴市を滅ぼした側というある意味で一番偏った存在の弘治が続きを語る。

 匿名とはいえ、彼の行った悪行まで開陳する様子に八朝(やとも)が冷や汗をかきながら見守る。


「その『愚か者』というのは今はどうしてますの?」

「無論、我が滅ぼした

 ミチザネ(アルキオネⅢ)を攻撃するよう篠鶴機関に進言した日に我が手で葬った」


 初めて鳴下(なりもと)が花開くような笑みを浮かべる。

 確かにあのファインプレーは八朝(やとも)側から見ても目を見張るものがあった。


「あの時は本当に助かった」

「何を言うか眷属よ……我が大願成就の為にはミチザネ(アルキオネⅢ)が邪魔だったというだけの話だ」


 弘治が何か裏のある表情でそう言い切る。

 と、ここで鳴下(なりもと)が今更な質問を投げかけて来る。


「あの……

 私、『巻き戻す前』でありましたらもう死人でありますのよね?」

「ああ、だからもう違う未来になっている

 そういった意味でも『巻き戻す前』が意味を為してない可能性もあるんだ」


 その最大にして最初の相違点に錫沢(すずさわ)の依頼で倒しきれなかったEkaawhsの生死である。

 恐らく、あの時点から致命的に別の未来へと分岐したのだろう。


「……私にも……だったらエリスさん……」


 鳴下(なりもと)から不穏な独り言が聞こえた気がする。

 だが要領を得ない内容であったので数秒後に忘れてしまった。


 その後鳴下(なりもと)だけ帰されると、改めて弘治から質問される。


「眷属よ、未だに我が妹との約定を守っているのか?」

「……この身体が本物(アイツ)のモノである事には変わらない

 俺が生きている以上は本物(アイツ)の事も諦めることはできない」


 八朝(やとも)の決意に弘治が黙って首肯する。

 すると、テーブルに置きっぱなしのある紙片(メモ)を持ってきて渡される。


「水瀬神宮が……どうしたんだ?」

「そこの権禰宜を務める錫沢一族は、元々口寄せを生業とする呪術師であったぞ」

「……!

 助かった!」


 八朝(やとも)は簡単に挨拶をすると弘治の隠れ家から出ていった。

 記憶を失っている三刀坂(みとさか)なら尚更、今一度死者の声を届かせる必要があるのかもしれない。


『ふうちゃん!』

「ああ、化物(アレ)との対決の前に一つ用事が出来たな」

『そうだね

 でももう遅いから今日は家帰ろっか』

「……そうだな」


 八朝(やとも)達もそのまま帰路に就くしかなかった。

これにてCase37、水子の尻尾回を終了いたします


今回出て来たキーワードは『天稚彦伝説』『錫沢一族』の2つであります


この二つには相関が無い?

果たしてそう言い切れるのでしょうか?


そもそもあの化物に対する分析結果は『魔術師』の逆位置

いつも通り、何か裏があって然るべきでしょう


次回は『妖精の核』です

それでは引き続きよろしくお願い致します

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