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Case 37-4

2020年11月27日 完成


 1ヶ月ぶりにある依頼者と再会する。

 少々会話した後、時間が押してしまったので弘治の家へと急ぐ……




【5月11日18時30分 磯始地区・弘治の隠れ家】




「やあ待っていたよ眷属……と、鳴下(なりもと)(すえ)

 そこにかけるといい、汝らにコーヒーを振舞おう」


 弘治がキッチンへと行ってい居る間に鳴下(なりもと)に1滴も飲まないよう忠告する。

 最初困惑した鳴下(なりもと)も、淹れられた実物(コーヒー)を見て一瞬で察する。


「これ、毒ですわよね?」

「否、毒ではない

 神前にて相応しいものに潔白を明かし、それ以外には神罰が下る霊薬である」

「それ盟神探湯と言いません?」


 冗談が済んだところで弘治からの報告を受ける。

 エリスの分析データ、各種写真、魔力のサンプル等、詳細に調べてくれたが予想外の答えが返って来た。


「残念ながら一切不明である」

「……理由を聞きたい」

「何一つとして相関しなかったのだ」


 弘治が首を横に振ってお手上げの表情となる。

 そういえば部長の所ででもバラバラなデータは判明したのに結びつかないという怪現象が起きていた。


 この場合は決まってある言葉で結ばれる。


「これは汝の領分であるな」

「そう言われてもな、俺も同じような状態なんだ」

「『神託』は終わったのだろう

 それでも分からぬのか?」

「『魔術師(bet)』の逆位置だったよ、誤解とか詐術って意味だ」

「確かに真新しいデータでは無いな」


 何も思い浮かばず、二人して魘されるように黙り込む。

 そんな時に鳴下(なりもと)が割って入ってくる。


「あの、そもそも前提がおかしいと思いませんか?」

「何がだ?」

「貴方の言った『長柄橋の人柱』の事です

 雉の逸話で最初に思い浮かべるのは『雉の鳴女』では?」

「……記紀神話を知っているのか!?」


 篠鶴市中の人々が存在すらも知らないという記紀神話の言及で驚愕する八朝(やとも)

 聞けば彼女のおばあ様……即ち鳴下家現当主から寝物語に聞かされていたらしい。


「『雉の鳴女』……?」

「昔話の一つですわ

 結婚しても8年も連絡を寄こさなかった息子(天稚彦)に、様子を見るよう遣わした鳴女が息子(天稚彦)に殺される話ですわ」


 かなり乱暴なあらましであるが大体の要点は押さえている。

 因みにこの後、弔いに来た嫁側の弟が夫に似ていたと夫の父母が縋り、これに怒った弟が(もがり)の納屋を切り倒している。


 だが、これでもあの化物(ナイト)の洗脳能力を説明することはできない。


「その神話が相関しているとでも言うのかね?」

「そこまでは(わたくし)も……」


 弘治に訊き返されて、予想通りに言葉に詰まってしまう鳴下(なりもと)

 せめて助け舟を出そうと呟いてみる。


「あの刃から青銅の反応が出れば『神度剣』確定なんだがな」

「出たぞ」


 弘治がさも当然そうに八朝(やとも)の疑問に肯定する。

 八朝(やとも)が反応する前に弘治がある分析結果の紙を寄こしてくる。


「銅とスズ……間違いなく青銅だ」

「ああ、故にかみ合わないんだ眷属よ」


 弘治が頭を抱えてそう呟く。

 先ほど言っていた『何も相関しない』の一例なのだろうと彼に話を促させる。


「何がかみ合わないんだ?」

「眷属よ、合金で強化されたとはいえ青銅では柔すぎる……これでは頸椎が断ち切れぬ」

「そういうものなのか?」

「ああ、商殷で出土した青銅斧なら可能だ

 だが鋏形では細すぎる! 腕ですら刃が反って二度と使えなくなるぞ!!」


 今度は鳴下(なりもと)が話に追いつけず、視線をおろおろとさせる。


「それだけで本当に神度剣と分かるのですか?」

「大方、荒神谷遺跡や稲荷山古墳出土七支刀からの類推だろう、眷属よ」

「そうには違いない

 それで一つ、あの化物(ナイト)の倒し方に行き当たったのだが……」


 八朝(やとも)がこれまでの話を踏まえて対策法を説明する。

 但し、八朝(やとも)も根拠が弱い自説の主張に段々と尻すぼみとなっていく。


 やがて溜息一つで呟く。


「……せめて猫が出ていれば」

「居ましたわよ

 貴方達には見えませんでしたが、神楽の修行で身に着けた見鬼であの化物ナイトの周りに猫が現れたり消えたりしていたのを見ました」


 その言葉と共に八朝(やとも)に記憶遡行の頭痛が一瞬襲い掛かる。

 これであの化物(ナイト)を言い当てた事を確認する。


「どうして言わなかったんだ?」

「鬼が見えると言われましても、常人の貴方がたは信じなかったでしょう?」


 確かにそうかもしれない。

 いくら異能力によって幻想と現実の境界が曖昧になったとしても、異能力には異能力の現実があり、彼女の場合はその範疇外である。


「それよりも貴方がたには約束を果たしてもらいます」

「……何だね、神楽の(すえ)よ」

「今度こそ包み隠さず『巻き戻す前』を明かしてもらいます」

次でCase37が終了します

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