Case 37-3
2020年11月26日 完成
隙間時間を使って化物をピン留めにし、討伐しやすいよう工作する。
ついてくる鳴下が邪魔してくるのだろうと思っていたが、思いの他大人しい様子であり……
【5月11日18時10分 南抑川地区|(辰之中)】
『二匹目完了!』
「お疲れさん」
エリスの端末の画面にハイタッチをする。
いつもせがまれていたのでやってみたが、思った以上に手が痛かった。
『だ……大丈夫……?』
「……少しここで休もう
にしても二匹目は苦労したもんだ」
八朝が十数分前を振り返る。
ここに至るまでに三匹もの化物に逃げられてしまっている。
それもこれも鳴下が原因であった。
『態々電子魔術を使うよりも弓矢を使った方が効率が良い事ですのよ!』
意気揚々と八朝からひったくった巨大待針を矢にして弓を弾き絞る。
だが矢尺よりも20cmも長く、尾羽が無い巨大待針では狙いが定まらず、その度に化物に逃げられた。
現在鳴下は自分の弓矢の腕を疑ってしまい、確認の為に離れている。
『気持ちは嬉しいんだけどね』
「そんなにも依代は不味かったのか?」
『ううん、そうじゃなくてふうちゃんの負担が減るからね』
現在エリスが電子魔術を放つには八朝の依代を砕かなければならない。
本当なら罰則で卒倒する筈の所を後遺症の『気絶無効』で踏み倒している。
だが、罰則を食らうたびに苦しそうな顔をする八朝の様子をエリスは見逃さなかった。
「もう慣れたよ、あんなの」
『ほんとかなー?』
「あら、お久しぶりですわ」
一瞬鳴下かと思ったが、それにしては奇妙な言葉に八朝とエリスが顔を見合わせる。
改めて声を掛けて来た人物をよく観察する。
「ああ、あの化猫退治の時の依頼者か」
「ええ、そうですわ」
鳴下と瓜二つの口調に困惑しながら会話を続ける。
「あれから能力の様子はどうだ?」
「ええ、アドバイス通りに様々な存在と話しかけ続けて、7つほど契約を結びましたわ」
両手に七つの指輪が嵌っている。
この数だけ彼女は『魔法』を放つことが出来る。
彼女の異能力は『別存在との会話』と『契約による魔法の行使』。
謂わばソロモン王の魔術と瓜二つの能力であった。
「動物は何とかなりましたが、化物とは未だに上手く行きませんね」
「そう簡単に化物が手懐けられたら誰も苦労してないさ」
「違いありませんわね」
そう言った八朝の胸中にある敵の影がチラつく。
いつでも例外は存在し、そんな例外ほど他人を犠牲にする道を選び取ろうとするのである。
「貴方は化物斡旋を続けているのですか?」
「危険だからもう辞めた」
「ふふ……嘘がお上手ですわね」
別に完全な嘘という訳でもない。
それを知ってか知らずか彼女が八朝に微笑みかける。
「私、貴方の事を尊敬していますのよ
あの時の事もそうですが、こうやって誰にも見られずとも私のように苦労している方を救いに……」
突然に耳を引っ張られる。
どうやら鳴下が戻って来たらしい。
「先を急ぎますわよ」
「待て!
時間まであと20分ぐらい……」
「あら、鳴下ですらない人……すっかり乱暴になられましたわね」
化猫の時の依頼者が挑発するような笑みを浮かべる。
「貴方も神宮から追い出されたのに暢気ですわね」
「私は『錫沢』であろうともそうでなくても私でありますのよ」
意外な素顔に驚く暇もなく、彼女に簡単に別れの挨拶をする。
未だに怒気を隠し切れない鳴下に追いつく。
「一体何が……」
「錫沢瑠香……私の腐れ縁ですわ」
それは同い年の切っても切れぬ関係の相手に使う言葉と安易に言えぬ雰囲気を纏っていた。
曰く、水瀬神宮の権禰宜である錫沢は鳴下家とも関係が深く、年の近い彼女らは社交の場面で何度もエンカウントしたという。
「あの女……事あるごとに私に因縁をつけやがって全く苦労しましたわ
『あら、神楽の一族の裔にしては随分と感情豊かなお方ですわね』って!!!」
「そ、そうか……」
「で、す、の、で!
あんな底意地の悪い女と話すのはオススメしませんわ!」
どうやら地雷ワードのようなのでこれ以上は触れないことにした。
取り敢えず時間が押しているようなので急いで弘治の元へと向かって行った。
続きます




