Case 01-2
2019年9月19日 改修完了
2020年5月4日 第二次改修完了
2020年5月19日 第三次改修完了
2020年7月13日 第四次修正完了
2020年12月12日 ノベルアップ+版と内容同期
2021年02月03日 上記修正内容と同期
2021年02月10日 上記修正内容と同期
2021年03月29日 内容変更
2022年02月28日 内容変更
【TIMESTAMP_ERROR 転生の間?】
目を開けると四方八方を真っ暗闇に囲われていた。
ここがどこだか身に覚えがない。
今がいつなのか、基準すら思いつかない。
そしてこれは一体何なんだ。
すると、何もなかったここに初めての声がもたらされた。
『おお、勇者よ!
死んでしまうとは情けない!』
随分と軽いノリで死亡を宣告されてしまう。
自分にとっての唯一の認識をこう扱われるのは何となく悲しい。
『故に不出来な貴様の魂は410番目の売却処分に出され』
『我等の世界の所有物となった』
『即ち、これは貴様の世界における異世界転生なのである』
声の主は数人いたらしい。
それよりも『異世界転生』とはいったい何なのだろうか。
ところで『俺』は本当に人なのか?
『安心するがよい、貴様は間違いなく人間だ』
どうやらそうらしい。
どういう訳か『それでよかった』と心の中で安堵している。
『大枚を叩いて導入された貴様には』
『魂の枯渇が止まらぬ我らの世界の役に立たねばならぬ』
『故に……』
云々。
天の声擬きからの長話が始まるが、悉く何を話しているのか判らない。
それより自分が何なのか思い出したほうが有意義なので聞き流す事にした。
だが、どれだけ頑張っても何も思い出せない。
辛うじて会話ができるほどの意味記憶はあるが
過去の思い出……即ちエピソード記憶が皆無なのである。
(赤ちゃんかよ)
何も分からないまま話が進んでいくのも無性に腹が立つ。
腹いせにこいつらの正体を探ろうと少ない記憶から掘り起こそうとする。
「……ッ!」
突如鋭い頭痛が走る。
何かが引っかかったのだろうか、手繰り寄せようとする。
◆◆◆◆◆◆
Ghmkvと唱えるべし
其は汝を指し、汝の主を指す
主は偉大なり
■■にて息吹を放ち
我らに無限の光を与う
もし、光でなく祟りを望むなら
■■を破かせ……
◆◆◆◆◆◆
一部聞こえるのに解釈できない部分がある。
だが、何故か聞き覚えがある……しかも段々と思い出す。
(■■は確か■■■■文字で『署名』……『啓典』……?)
無から沸き上がった『知識』に当惑していると……
『『『『喝!!!!!!!!』』』』
全方向から脳を殴りつけるような怒声が発せられる。
あの声の主が一斉に俺への嫌悪感を表明したらしい。
「……少し、黙っててくれ
今思い出している最中なんだ」
『その割には流暢に喋るではないか』
『であれば問題は無かろう』
『我々の都合を優先させるがよい、廃棄物風情が』
尚も言い募る声の主達。
その割には口を開くたびに疑問が増えるだけ。
『貴様は我らの世界を救うべく!』
『魔王を倒せ!!』
『それが貴様の使命である!!!』
もう彼らに構う必要もない。
幸いにも道筋が示されたのである。
『Ghmkv』
躊躇なく小声で唱えると
またも意識を沈める頭痛に覆われていく……
◆◆◆◆◆◆
『やだ、お別れしたくないよ』
駄々っ子のように泣きじゃくる女の子の声。
振り回す程に綺麗な黒髪がどんどん乱れていく。
『お父さん!
あと一人ぐらい乗っても沈まないよね!!』
無言で返す。
残念ながら女の子の意には沿わない。
『ふうちゃん!』
大丈夫だよ。
後で絶対に追いつくから、これ。
『■■だよ』
握る小指同士の感触がどうしようもなく暖かく……
◆◆◆◆◆◆
(ふうちゃん……
何故だか懐かしい響きだ)
それを皮切りに記憶が蘇っていく。
八朝風太、xxxx年9月12日生まれの青年で『鷹狗ヶ島』に……
『『『『喝!!!!!!!!』』』』
またも中断される。
喝を過小評価し過ぎたらしい。
『我々の許可なく何をしている』
『記憶なぞ必要ないだろう』
『貴様は使命のみを果たせばよい』
そう言われても『魔王討伐』が何なのか説明してくれない。
そもそも『魔王』が一体何なのか何も見えてこない。
……いや、彼らにそんな期待をするだけ無駄だろう。
「記憶喪失相手に無茶を言いやがるよな
そこはまず『記憶を取り戻せ』からなんじゃないのか?」
声の主たちに1ミリ程度の期待を込めて疑問を投げかけてみる。
『魔王を倒せ!』
『『魔王を倒せ!!』』
『『『魔王を倒せ!!!』』』
……全く会話にもなっていない。
どうやら先程の懸念は正しかったらしい。
「そもそも俺は廃棄物ではなく八朝風太だ」
「ついでに言うと本当だったら高校に通ってる
まぁ、金は好きだな……それさえあれば使命?とやらも聞いてやr……」
『『『『喝!!!!!!!!』』』』
もう何度も聞いた天の声擬きの駄々っ子である。
そう言えば、もう一つ試していないものがあった気がする。
「魔王を倒せか、お断りだ
ついでに使命も俺が『勝手に』決めさせてもらう」
「俺の使命は『記憶遡行』
つまり……失った記憶を全て取り戻す事だ!」
そう宣言すると真っ暗闇の空間を埋め尽くすように光球が現れ始める。
火、水、氷、雷、烈風、怒涛、閃光、轟音、瘴気、金剛石、特異点、魔法陣、スノーノイズ、刺々しい水銀、焼けた汚泥、魔力の猛り、擦れ合う数多の薄刃、嫌な音を立てて人体を咀嚼する血の塊。
ありとあらゆる滅びのカタチが八朝の姿を捉えて離さない。
『身の程知らずが』
『やはり不良品であるか』
『煩わしくあるが』
『使命に相応しく、一から改良してくれよう』
星々がバクンと脈動し、次々と八朝に向かって落ちていく。
近づく毎に大気全体が混ぜ返されて重く高い二重の鳴動を撒き散らす。
『お前はその傲慢さ故に』
『滅び去る』
「そうかい
アンタ等が409個も無駄にした理由が良く分かったよ」
『戯言を抜かすな
貴様はその410番目となる……滅べ!』
『それは困るなぁ』
突然暗闇が叩き割られ
崩落点から眩い白光が降り注ぐ。
亀裂が全ての星を捉え
そのカタチを犯し潰していく。
『……!! ……! ……』
星々の輝きが鈍るたびに
天の声擬きの声も徐々に聞き取れない代物に劣化していく。
まさに死したかの如く無音となった。
『あり得ぬって言ってもさ
偶にはそんな使命でもいいんじゃないかな?』
逆光に覆われたシルエットが光の漏れ出る空よりゆっくりと降り立つ。
地に足を付けた瞬間、暗闇が一瞬で吹き払われ真っ白な空間に様変わりする。
急激な変化に追いつけない八朝の視界を鋭く明滅させ、きらきらと捻り込む。
『という事で、きみのその使命を受け入れよう』
そこにいるのは少年であった。
金髪黒眼でカーキー色の襤褸を身に纏い、頭上に光輪と背中に1対の羽根。
どう見ても作り物にしか見えない天使のような何かであった。
続きます