Case 37-1:魔法を作り出す能力Ⅱ
2020年11月24日 完成
白蛇|(鳴下)を説得し、安全かつ効率のいい場所に移すことに成功する。
授業が終わり、昨日の特殊な化物の件で部長へと報告しに行く……
【5月11日16時20分 篠鶴学園高等部・第二異能部部室】
「あら、遅かったわね」
「途中倉庫整理を頼まれてな」
「そのマフラーは?」
「酷いニキビが出来てな、それを隠すのに使ってる」
部長と軽く会話を交わし、今の今まで作成していた報告書を渡す。
目を通すなり、部長が即座に口を開く。
「昨日のはすでに聞いているわ
お疲れ様ね、洗脳能力のヤツと当たってしまって」
『そうだよまったく!
男女でいたら洗脳して、片方しかいなかったらダメージ無効化ってそれなんてチート?』
曰く、昨日鳴下が口にしていたあの化物の情報には誤りが存在した。
男と女、その片方しかいない場合あの化物に一切ダメージが通らなくなる。
それを確かめるために一度あの地下迷宮に挑んで、こうして遅れてしまったのである。
「ええ、報告ありがと
本来、0つ目級は出会い次第通報なんだけど、それじゃあ杣根部長がゴネるわね」
杣根とは地底探検部の部長の名前であった。
その様子がありありと想像できてげんなりしてしまう。
「それで話が聞きたかったんだが、どうだ?」
「残念だけど私も特殊級は初めて遭遇したの、一切分からないわ」
「……そうか」
思考も何もせず部長がきっぱりと言い捨てる。
経験と記憶が全ての彼女にとって憶測は塵に等しいものであったからである。
なので彼女が思考できるようエリスに情報の開示を指示する。
『あの化物から解読した文章なんだけど
なかずは雉も射られざらまし、って所だけは解読できたよ』
「形は違えど、有名な諺ね」
所謂『口は災いの元』という意味を持つ『雉も鳴かずは撃たれまい』の元ネタであった。
だがあの化物と一致しない結果に三人して押し黙る。
「こういうのは貴方の得意分野じゃなくて?」
「そう言いたいんだが、『射られざらまし』ではなく『とらえざらまし』なら意味が通ってたと思ってな」
「それの何が違うの?」
「元々その言葉は大阪の長柄橋の人柱に関する逸話からきている
前者の方はそれを口にした人柱の妻も入水、そして後者は人柱の娘が緘黙を破った際に生まれた言葉だ」
意味は通るといったが、結果だけであり水子の部分が無視されている。
今一ピンとこない八朝に、部長が別の話を振ってくる。
「大阪といえば、確かあそこは最初にミチザネが浮上した地点ね」
「そうなのか?」
『ふうちゃん……そこ、ちょっと前の授業で習ったところだよ……』
相変わらずの記憶の曖昧さに部長とエリスが呆れの溜息をこぼす。
そうは言っても覚えてないものは仕方がない。
(記憶遡行……本当に大丈夫かな……?)
今の記憶さえあやふやなのに、壊れている過去の記憶が取り戻せそうかと言われたらそう言うしかない。
エリスの心労を察したのか部長が口を挟んでくる。
「貴方、本当に記憶を取り戻したいのなら今の記憶も大切にするのよ」
「ああ、分かった
それと浮上地点は大阪のどこなんだ?」
「……それは習わなかったわね」
恐らく受験に必要が無いから省かれてしまったのだろう。
しばらくして、共用のデータベースから見つけ出したエリスがたどたどしく返答する。
『えっと……大阪のコウ……ノ?』
「交野だな、ふむ……」
先程の『射られざらまし』を口にした場所とされる禁野の里は交野郡に属していた。
思わぬところからの符合であるが、両者に相関関係はない……つまりは何の意味もない連想でしかなかった。
「作業中に邪魔したな」
「ええ、別に構わないわ
それとは別に一つ忠告があるの」
いつも通り……よりも少し重い口調で部長が事実を告げる。
「今の貴方の位階であるS級はO級と同じくステータスが不安定よ
何かの拍子にBRK値が0になって『館送り』になるレベルで後遺症が重くなる可能性があるわね」
その証拠に今の八朝のCON値は正常範囲の5を超える数値となっている。
それほどに不安定な位階なのである。
しかも、マフラーに変じさせている鳴下が今しがたBRK値の減少に苦しめられている。
彼女が言い出すまで部長にも黙っているが、いずれかは報告しなけらばならない。
「ああ、肝に銘じとくよ
なるべく早くT級に昇格するよう努力する」
手をひらひらさせて部室から立ち去る。
部長は挨拶一つも返さず、机の上の書類軍との全面抗争に再び身を投じていった。
いつもありがとうございます
DappleKilnでございます
タイトルでピンと来た人がいるかもしれませんが
まとも序盤で出てきたあるキャラの再登場回です
ついでにあの水子の化物の調査回でもあります
早速暗礁に乗り上げていますが、このぐらいでへこたれてしまえば討伐は夢のまた夢
次にどんな手を打つのでしょうか?
それでは、引き続きよろしくお願いいたします




