Case 36-4
2020年11月22日 完成
2020年11月22日 誤字修正(時刻)
学園地下迷宮の化物と遭遇し、尻尾まいて逃げ出す八朝達。
『巻き戻す前』でも使っていた洗脳能力が健在であったことを思い知ったのであった……
【5月7日17時33分 篠鶴学園高等部・某所】
「な……それも『巻き戻す前』ですって!?
どうして早くおっしゃらなかったのですか!」
「いや、第二異能部の事は些事だと思って……」
鳴下が呆れて大きなため息をつく。
彼女が『巻き戻す前』の話を聞いていたことを、八朝が今の今まで忘れていたことで起きた悲劇であった。
「……そういえばあの時は急かし過ぎましたわ」
鳴下があの時『炎の英雄』と『後遺症』と色々な出来事に追われていた。
それを知っていたが故の失敗に八朝が謝罪を口にしようとして、鳴下に止められる。
「何だ?」
「ええ、貴方も事情がありましたものね
その代わり、今度は些細なことも含めてゆっくりと話してもらいます」
頭を抱えて、明示されていない質問に答える鳴下。
その会話に部長が割って入ってくる。
「あのー……すみません
つまりは、貴方達では奥の化物を倒せないってことですよね……?」
「……」
確かにその通りであった。
戦力になる鳴下は洗脳の被害に遭い、無傷の八朝では討伐どころではない。
「私の精進が足らず、申し訳ありませんですわ」
「い、いえ! そこまでしなくても……」
鳴下の綺麗な謝罪に、部長の方が縮み上がってしまう。
「そういえば『洗脳』を受けてよく耐えられたんだな
俺の『記憶』ではどんな奴も一瞬で洗脳されたのに……」
「ええ、私の『鳴下神楽』には心を平静に保つ鍛錬もあるのです
あのレベルの『洗脳』なら1度は防げますが、それ以上は難しいですわ」
鳴下がサラッと常人を超えた鍛錬をしていることを明かす。
普段の言動から、あまり上手くいっていないものだと失礼な想像をしてしまう。
「おばあ様の友人……『眼』の達人である銀鼬の柚月であれば風のように受け流せたものを……」
「柚月?」
その名前に心当たりがあった。
だが彼女が語るおばあ様の時代は今から100年以上前の話である、見た目で既に矛盾している。
「どうしましたの?」
「いや……身近にそんな名前の奴がいてな、と」
鳴下に天ヶ井柚月の話をする。
所々で考え込む様子で、どうやら何か思い当たるところがあるようだ。
「何か気になるのか?」
「え、ええ……『断罪者』の話と似ているところがありまして……」
「いや、似てるも何も本人だ」
その言葉で肩を掴まれる。
真剣な顔をしているとは分かっていても、纏っている雰囲気が恐ろしい。
「それは……本当ですの?」
「ああ」
「一度『断罪者』の戦っている姿を見たのですが、あれは間違いなく『鳴下神楽』の技でした」
あまりにも都合がよすぎる符合が成立してしまった。
思わず頭を抱えそうになる、別の意味でも厄介な相手であったからだ。
「今すぐにお呼びしたいのですが、どうしましたの?」
「……そいつは無理だ
柚月は超が付くほどの人見知りでな」
同じ家に居ながら一度も挨拶を交わしたことが無いと告げると、鳴下が今日で一番大きなため息を吐く。
あまりにも一進二退の酷い状況に、八朝まで頭を抱えたくなる。
「あのー……」
終ぞまで八朝達にも部員たちにも無視された部長が力なく呼ぶ。
廃部確定の雰囲気に全員が呑まれてしまう結果となった。
【5月11日12時40分 篠鶴学園・天文台前】
『ふうちゃん……あの言い方されたら気になるじゃん、やっぱ』
「そう言われてもな」
八朝が力なく呟く。
余りの憔悴に、周りの人間が避けて通る程である。
この天文台周辺は風景が良く、学園内随一のデートスポットとして有名である。
そして昼休みにご飯をそこで食べると言った瞬間クラス内が地獄と化した。
『え、ふうちゃんって彼女いたの!?』
『そういえばよく上級生の鳴下さんと一緒にいるって』
『きゃー』
『何だと貴様!?』
『お前……友達だと思ってたのに』
『……月夜ばかりと思うなよ』
黄色い声と、憎悪の声に挟まれて立つ瀬を失ってしまう。
本来は、家でよく天文系のポスターを眺めてることが多い柚月の行動から逆算して導き出した答えの筈なのに……
『同棲……だと……!?』
黄色い声が、そのまま毒ガスへと変質する。
この酷い勘違いから八朝がクラス中の敵となってしまったのである。
今は幻惑が効いており、見つかっていはいない。
だが視界に何人か見知った顔が見える……昼飯はどうするつもりなのだろうか?
『これ天文台に入れなさそうだね』
「……裏口があればいいんだがな」
『にしても、あの時に成功したらこんなことにはならなかったのにね』
八朝は今朝、駄目元で柚月と会話しようと努力した。
挨拶、天気、最近の話……全てがスカって涙目にさせる結果しかならなかった。
無論、マスターにぶん殴られている。
「……な、何としても協力を」
『あまり無茶しないでね……』
次でCase36が終了します




