Case 36-3
2020年11月21日 完成
鳴下を見つけ出し、成り行きで学園地下迷宮に挑む事になった八朝。
だが彼はそこに立ち塞がっている敵を『巻き戻す前』の世界で思い知っていた……
【5月7日17時15分 篠鶴学園高等部・某所】
「まずは例の『赤い壁』に手を触れてください!
時間は無いですよ。あと45分なんですお願いします!」
地底探検部の部長から急かされる様に赤い壁に触らされる。
あの時と同じように赤い壁をすり抜けてしまう。
余りの呆気なさに部員はおろか鳴下まで絶句し、騒然となる。
騒がしくなって彼らの眼中から外れ始めた頃、ふと耳元にエリスの小声が聞こえている。
(そういやふうちゃんって渡れずの横断歩道を無視できたよね)
(それとこれの関係はイマイチ分からんがな)
改めて触れる事の出来ない赤い壁の感触を確認する。
ふと、鳴下からの視線を感じて振り向くと、恐ろしい表情と対面する。
「あなたも……なんですの……?」
声音は表情と反してやや悲しめ。
真意を知ろうとして話しかけるも、それよりも早く割り込んできた地底探検部部長に邪魔される。
「そうと分かれば話が早い
さぁさぁお願いします!」
「ま、待て! まだやると決めたわけでは……」
鳴下と共に赤い壁の向こう側に押し込まれる。
既にいつもの余裕ある表情に戻った鳴下が一言返す。
「ほら、さっさとやってしまいましょう」
「待て、俺はやらない」
八朝の酷すぎる返答に頭を抱えつつも、平静を取り戻そうとする。
「訳を聞きましょう」
「ああ、助かる
この先の化物と女性を出会わせてはいけない」
「どういう事かしら?」
「洗脳されて首を刎ねられる」
それを聞いた鳴下が少し考えこむような仕草をする。
ようやく衝撃から復帰したエリスが割って入る。
『え、どうしたのホントに?』
「ああ、信じられないならソイツの特徴を当ててやる……
3メートル位の嬰児で、頭が無い代わりにハサミになっている、違うか?」
「ええ、そうですわ」
平静を装っているつもりであるが、驚愕の色を隠せていない。
そしてエリスも過去にそんな化物と出会ったかどうか調べて、凍り付いたように落下する。
「っと!
一体どうしたんだエリス?」
『……ふうちゃん、これ見て?』
鳴下と共に画面を覗き込んで今度こそ表情が凍り付いた。
識別名:不明
位階:|0つ目級
備考:
男女の仲を引き裂く呪いを所持
発見日:■■■■年5月5日
『一昨日ってずっと家にいたよね、何で!?』
「落ち着きなさいエリスさん
八朝の改竄って可能性も」
『そんなの無理だよ!
この端末の更新権限はあたしにしか与えてないのに改竄なんてできないよ!』
今、さらっと恐ろしい事実に突き当たった気がするがそれどころでは無い。
エリスの慌て方が異常だ……その証拠に端末の身体がいまもブルブルと震えている。
『あたしも嫌……
あの化物に会いたくない!!』
「どうしたんですの!?
貴方までそんなに取り乱して一体何なのですの!」
「大体私が一人で行った時はそんな力使いませんでしたわ」
その言葉に八朝が驚愕する。
あの時の事から一人でも女性が居る場合は洗脳されて頭のハサミで断首されるものだと結論付けていたがそうではないらしい。
一度、確かめる必要がある。
「エリスはここで待っていてくれ」
『でも……!』
「大丈夫だ
少し確かめたい事があるからな」
そして鳴下の方を向く。
何故かその顔が、呆れのそれでなく待ちわびたかのような表情であった。
「決心がつきましたのなら、先を進みましょう」
「ああ」
エリスを置いてあの広場へと向かって行く。
そしてあの頭ハサミ赤子の化物の姿を確認する。
「貴方には後ろから支援してもらいます
私は烏落としで削り取ります」
恐らくは八朝に効きすぎる烏落とし対策としてこのようになったのだろう。
無言で首肯し、各々柱の陰に隠れて合図を待つ。
『………………。 ……。 …………め。 ……。』
清らか過ぎて魂すらも砕きかねない烏落としを合図に戦闘が始まる。
化物の左腕が抉り取られ、その痛みに泣き叫ぶ。
『■■!』
その上空から火傷の歯車を落とそうとして、撃ち落とされる。
その犯人であろう鳴下の方へ向くと、案の定こちらに狙いをつけていた。
おもむろに矢筒から矢を一本取り出し、自分の手に矢を刺した。
「何してんだ鳴下!!」
「……五月蠅いですわ
ぐずぐずしないで速く逃げますわよ!」
鳴下に思いっきり手を引っ張られ元来た道へ引き返していく。
赤子がこちらを追ってくるが、鳴下の足に追いついていない。
途中でエリスと合流した時、鳴下の呟きが聞こえた気がした。
「貴方の話の方が正しかったですわね……」
続きます




