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Case 36-1:神経毒で相手を操る能力Ⅱ

2020年11月19日 完成


 それはまだ学校も始まらず、第二異能部にも報告していない休日の半ばの日。

 八朝(やとも)は篠鶴駅で珍しい人影を見かける……




【5月4日12時00分 篠鶴地区・篠鶴駅1F】




「……市新野(いちしの)か?」

『ん?

 あっ! ホントだ点滴台の人!』


 エリスの大声に反応したのか市新野(いちしの)がこちらを振り向く。

 常に点滴を必要とする程の後遺症(レフト)を持ちながら一人で出歩くのは大変に珍しい。


八朝(やとも)さんと、エリスさんですね」

「ああ、珍しいな

 アンタが一人でブラブラしてるなんて」

「ここで『館』の人と待ち合わせなんですよ

 あっ、時間もまだまだあるしあそこで少し話しません?」


 八朝(やとも)達は近くの喫茶店に入って雑談を始める。

 昨日のテレビの話や細菌学校で起きた事、ごく当たり前の話題に花を咲かせる。


 ふと、何か思いついたように八朝(やとも)が話題を変える。


「そういや最近思い出した事なんだが

 俺とアンタは近所同士だったらしいな」

「……ああ、やっと思い出してくれましたか!」


 一瞬変な間が空いたが、どうやら『炎の英雄』の言った事は真実であったらしい。

 同じ学校の、同じクラスで、しかも家が隣同士とまで市新野(いちしの)が言及してくる。


「あの頃は楽しかったなぁ……

 まだ思い出せてないと思うけど、京都の修学旅行の時とかさ!」

「班まで同じだったのかよ」

「だって親友だからね」


 屈託ない笑顔でそう言い切る。

 だが、そこに不穏な影が割って入る。


「お前、さっきから一滴も飲んでねーじゃねぇか?」

「すまない

 お代はここに置いておく」


 八朝(やとも)が席を立とうとした所、男は行く手を阻む。

 男は嫌に目につくほどの愉悦の顔をこちらに向けている。


「迷惑な客ほどカネで解決しようとする……

 そんな輩には正義の鉄槌を下さないとな!!」


 男の端末(RAT)によって辰之中が展開される。

 人の声が消え去った冠水の廃墟の中で無機質なクリック音が忙しなく響く。


 即ち電子魔術(グラム)の連続発動による物量攻撃(グラムストーム)


(taw)!』

『Hpnaswbit!』


 多彩な電子魔術(グラム)の雪崩とエリスの障壁魔術が衝突する。

 見た目以上の威力が無い……恐らくこの男の作戦は『電子魔術(グラム)化物(ナイト)をおびき寄せて殺す』なのだろう。


「単なる一般人の俺に成す術ないなんて、異能力者が聞いて呆れるよな!」

「……ッ!」


 男の安い挑発に市新野(いちしの)が反応する。

 窮地に陥った八朝(やとも)が、打開策を探そうと市新野(いちしの)を見る。


 市新野(いちしの)電子魔術(グラム)を専門にしている事は知っている。

 だから、そうならざるを得ない彼の能力(ギフト)とは一体……?


「ッッッッッッッ!?」


 そう思ったが最後、今までと比べても数段酷い記憶遡行の頭痛に襲われる。

 (taw)消費(こわ)される衝撃と合わせて、思わず先程飲んだコーヒーを吐き戻してしまう。


『ふうちゃん!?』

「……ッ!

 いや、もう大丈夫だ!」


 記憶遡行の筈なのに何も思い出せない……

 それとは別に市新野(いちしの)がめいいっぱい空気を吸い込んでいる様子を見てしまう。


市新野(いちしの)! 殺すな!!」


 一瞬自分が何を言ってるのか意味が分からなかった。

 市新野(いちしの)すらも戸惑った表情になっている。


「……??

 いや、すまない変な事を……」

「分かりました」


 市新野(いちしの)が変な返しをする。

 驚愕続きで相手が激怒している事を失念してしまう。


「殺すだと!?

 やっぱり異能力者共は……!」


 相手がこれまでの低威力電子魔術(ローグラム)作戦から切り替えたらしい。

 エリスが展開する障壁との衝突音がひときわ大きくなる。


『ふうちゃん! このままだと……!』

「ああ、耐えてくれ!

 何なら8つ全部持って行ってもいい!!」


 八朝(やとも)が苦痛で揺れる意識の中で打開策を考える。 

 五行における相侮は素質が無くて使えない、■■(yad)で眠らせたら解除時に面倒臭い事になる……


「大丈夫です、僕に任せてください」


 市新野(いちしの)がお腹に手を当てて、エリスすら認識できない発音の固有名(スペル)を唱える。

 風鳴り一つ鳴った後、衝突音の代わりに相手の男が倒れ込む音が聞こえてくる。


「気を失っただけです、じきに目覚めますのではやく逃げましょう」


 八朝(やとも)市新野(いちしの)の後を追う形で現場から立ち去っていく。

 点滴台を持つほど病に侵されている身体で速く走る様に、異能力の身体能力補正の強さを体感する。


「……ああ、助かった」

「それと

 今日の事はオフレコでお願いしますね」


 消えゆく辰之中の星月夜の中で市新野(いちしの)が微笑んでそう言った。

ここまで読んでいただき、誠にありがとうございます

DappleKilnでございます


タイトルからも分かる通り今回は鳴下の話となります

(でも36-1は市新野の話なんだけどね)


そう言えば、彼女の『用事』とはいったい何の事だったのでしょうか

この疑問からお話が始まります


それでは引き続きよろしくお願い致します

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