Case 35-6-2
2020年11月18日 完成
Case35-5にて選択肢②を選んだ方はこちらからお読みください
正気を取り戻した『炎の英雄』が殺してくれと譲らない。
だが目の前のリーダーが殺そうとしない……
【5月1日10時30分 篠鶴地区・駅北商店街(辰之中)】
「……」
「……」
どういう事だろうか?
『巻き戻す前』を知っているなら、今の『炎の英雄』の身に一体何が起ころうとしているのかを……
「どうしたんだい?
皆してそんな顔をして」
「俺は……俺は……!」
あの沓田も殺しに躊躇している。
先程に続いて無力感に打ちひしがれている……これでは隠していた本心が蘇るのも時間の問題だ。
そしてその感情に当てられた眷属がどう決断するのかも目に見えている。
「大丈夫です!
一度が駄目なら二度三度『人化の呪い』を当てれば……!」
鹿室がポケットをまさぐる……まさか……!
「待て! ここで使用したら……!」
鹿室が『伝令の石』を掲げ、再び人化のルーンバインドを使用する。
同時に全ての端末が『通報』のアラート音を響かせる。
ここで我が篠鶴機関に捕まってしまえばおしまいである。
「……ッ!
眷属、誠に申し訳ないが……!」
「……ああ、逃げてくれ」
眷属の許しを得て、我は蜻蛉に自らを仕舞ってここから逃走する。
振り向いた視界の向こうで眷属達が言い争っているが、それどころでは無い。
後ろに早く気付かんのか……!
……。
…………。
………………。
あれからどれだけの時間が経ったのだろうか。
もうここが篠鶴市のどこなのか分からないぐらいに破壊し尽くされている。
あの日『炎の英雄』が8つ目級に変じた。
アルキオネⅣ・煙霧のオロチ
爆発性の毒霧を吐き、劫火で全てを焼き尽くしながら爬行する。
我はあの時の判断を今でも悔やんでいる。
(ああ、知っていたとも。
八朝と直接刃を交えた者に一体何が起きるのかを!)
『巻き戻す前』で2件の不可解な変化。
Ekaawhsが鏡に潜る能力を獲得し、丸前が自らの力で『闇属性電子魔術』を覚醒させる。
それ以外にも眷属に関わった者が、軒並み強くなっていっている事実。
眷属が日頃口にする『異世界知識』……そしてアルキオネ0の使徒……
眷属が無意識かつ無差別に異能力を強化してしまっている事実に……
(今更悔やんでも仕方がない、もうここには我しか残っていない)
あの一夜で、篠鶴機関すらも瓦解した。
それほどまでにあの『炎の英雄』は強かったのだろう、見ていてて小気味良かった。
我が復讐はここに完遂し、見事異能力者はこの世から消尽した。
だが……この胸に残る感慨は一体何なのだろうか。
憎き機関長もいない
頭のイカれた第五席も死んだ
どころか我等を貶す学園の屑共も死んだ
榑宮での断末魔は心地よさすら覚える
鳴下の山の上から見た惨状に歓喜で震えた
この世に天罰は存在したのだと!
でも……
我が妹も毒霧で窒息死
眷属は覚醒の場に居合わせて即死したのだろう
そして我が両親の墓もこの家も焼き尽くされた
もう我には何も残されていない……
「ようやく会えたぞ、塵め」
そこに流麗な女の声が聞こえてくる。
一瞬生き残りに出会えたのかと思ったが、そんな訳は無かろう。
「貴様が我が門弟達を見殺しにしたことを見ていたぞ」
「『妖魔』如きが」
毒でも吐きたくなる。
コイツでなく『炎の英雄』に人語を介する力があれば、こんな事態にはならなかった。
「よって貴様を極刑に下す、その首ごと星光で焼き切ってくれよう」
見上げると、夜の帳が明るすぎる北極星の光で消し飛ばされている。
青どころか真っ白な空に、いつか見た太陽の表面のイラストのような火球が姿をさらしている。
妖魔天象・客星
上には上がいるものだと思い知る。
「やれるものならやってみるが良い地を這う虫の妖魔!
我が力は光! 貴様の呼び寄せた星すらも食らう言語の光と知れ!」
固有名から蜻蛉を生み出す。
蜻蛉が蜻蛉を生み、やがて雲霞の如き数量になっていく。
星を食らい、光を吐き、大地を穿つ。
だがその一切が妖魔にかすりもしない。
「弱い
蚰蜒よりも無価値な貴様に、生きている意味があるのか?」
妖魔の一撃が左胸を抉る。
続いて腹のど真ん中、左足首、倒れた所に下腹部を貫く感触。
最早服が己の血で真っ赤に染まる程の惨状である。
「地獄に落ちるがよい」
光の消えた視界に眩い熱が飛び込む。
大地が恒星表面を接触し、衝撃波を伴いながら地球を圧し潰していく。
身体はその他の土と同じようにヒラヒラと舞いながら砕けていく。
死の瞬間まで、全身を焼き尽くす苦しみから逃れる事は出来なかった……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
DATA_LOST
xxxxxxxx xxx
DEADEND10 煙霧 - Methanol Disaster
END
という事でこちらがDEADENDでした
いやー何話も前の伏線を突如起動させるのって楽しい()
といっても、今回の事件では最初から不殺は無理でありました
依頼者も望んでいるし、社会的影響を考えたら生かしておくわけにはいかない
ある意味で討伐こそがWin-Winの関係となってしまいました
もしかすると、部長が言っていた『無力』とはこのことなのかもしれません
それでは今後の話も読んでいただけると幸いです




