表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
190/582

Case 35-4

2020年11月16日 完成


 初動で八朝(やとも)の隠形と三人の陣形展開が完了する。

 だが相手は戦略的優位をものともしない木精の霧と異名に相応しき爆炎を振るって抗い続ける……




【5月1日10時20分 篠鶴地区・駅北商店街(辰之中)】




 『炎の英雄』に対して鹿室(かむろ)が用意した(ディザスター)h(ハダル)……即ち雹嵐であった。

 メタン・メタノールの爆炎と雹がぶつかり合い、辺りを瞬く間に橙色に染め上げていく。


 メタノールがソリンとして消費され、悪酔いの霧を徐々に薄めていく。


(これならいける!)


 鹿室(かむろ)が懐まで踏み込み、『炎の英雄』を両断せんと剣を振り上げる。


 そしてはめ込んだ3つの石……(ハダル)(ユル)(テュール)の光が反転する。

 h(ハダル)の左足からy(ユル)の弦が現れ、反対側にt(テュール)の剣を()び、新しい文字が赤く出現する。


 その一撃で切り裂いた部分が、化物(ナイト)が全身に纏う漆黒から生前の『炎の英雄』らしき元の色に戻る。


「な……!?」


 それは鹿室(かむろ)の理想論に懐疑的だった沓田(くつだ)でも分かる奇跡であった。

 だがすでに遅く、沓田(くつだ)が同時に放った『火吹箱』の蓋が無慈悲に閉ざされる。


「ぐあ……ッ!

 なにするんですか!?」

「す、すまねぇ!」


 間一髪防御のルーンで身を守った鹿室(かむろ)が抗議の声を上げる。

 爆発を耐えた『炎の英雄』は再び黒一色に戻る。


「さっきのは何だったってんだ!?」

「……恐らく、人化の呪いだろうな」

「おわっ!」


 何処からともなく聞こえた八朝(やとも)の解説に仰天する沓田(くつだ)


「……どういう事だ?」

「アイツの使う文字(ルーン)には複数の文字を組み合わせて使う(まじな)いが存在する。

 h(ハダル)y(ユル)t(テュール)の組み合わせから『人間』を意味するm(マンスル)を導き出したのだろう」


 上手く考えたなと、感心を漏らす八朝(やとも)に対して沓田(くつだ)は理解が追いついていない。

 その向こう側で鹿室(かむろ)の魔法剣から何かが零れ落ちるのを沓田(くつだ)が捉える。


「……ああ、3つの材料で新しい文字を作ったのだから、使用した材料(ルーン)はあのように力を失う」

「そういう事か……

 おい、鹿室(かむろ)! さっきの後何回使える!?」

「甘く見ないでください……!

 これでも元世界では『最強の退魔師』『イザナギ教の敵』と呼ばれたのです……この程度で諦めるものか!」


 その言葉からもう後がない事を二人が悟る。


「だったら俺に任せて今は温存しろ!

 丁度良いタイミングを作ってやるからそこで待ってろ!」

沓田(くつだ)君!? まさか……」


「ああ、今はお前の思惑に乗ってやる」


 再びトーチ(アーム)を『炎の英雄』に向け、立方体の星群(アステリズム)を多数作り出す。


八朝(やとも)! 合わせろ!」

「ああ!」


 時間経過で八朝(やとも)幻惑(samek)が解除されていく。

 夢から覚めた八首と八尾の威容、それら全ての先端に『火吹箱』の星群(アステリズム)を構築する。


(ティファレト)と袂を分かつ

 (イェソド)(パス)は『(samek)』!』

『火吹箱よ、映せ!』


 尾による剣の如き一撃・首からのエタノールの霧の追加を、狙いすました『火吹箱』の一撃で吹き飛ばす。

 どれだけ再生しようが、無い時間に叩きこめればいい。


『無明を揺蕩う二十二の呪いなり!』

『Vrzpyq!』


 八朝(やとも)(samek)の投擲が再び電子魔術(グラム)で加速される。

 ヒットと同時に再び『炎の英雄』が人型に戻る。


『……ァ』


『ァァァァァアァァァアァァァアァァアアアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』


 それは音による呪詛の如き威容であった。

 全員が『炎の英雄』の悲鳴に精神を掻き毟られ、思考に空白が生じる。


 再び『炎の英雄』を捉えた時には、弓弦が限界まで引き絞られてしまった瞬間であった。


「しまっ……!」


 ぴぃん……と高音が響き渡り、辺りを濃密に囲っていたメタノールの霧が吹き飛ばされる。

 八朝(やとも)達に到達する前に発火した霧が、まるで津波のように諸手を上げて迫ってくる。


『Hpnaswbit!』


 ドーム状に展開されたエリスの障壁魔術が炎の壁を捲り上げる。

 だが炎の壁に続いて押し寄せた魔力真空が障壁を紙屑のように吹き飛ばす。


『Wytglc! Wytglc! クソッ使えなくなってやがる!!』


 魔力の存在しない空間で星群(アステリズム)を組むことはできない。

 それは鹿室(かむろ)(ディザスター)、弘治の光変換・非同期通信網も同様である。


 今抗えるのは、依代(アーム)由来の能力(ギフト)という構造を持つ八朝(やとも)のみである。


「エリス……援護を頼む!」

「ふうちゃん!?」


 八朝(やとも)(taw)によってエリスに電子魔術(グラム)用の魔力を供給すると、灯杖(alp)を手に『炎の英雄』へ吶喊する。


 対する『炎の英雄』が矢筒から矢を抜き取ると、それを短刀のように片手で構えて迎え撃つ。

 双方の初撃目で、八朝(やとも)は矢を破壊することに成功する。


 だが、続く2撃目では灯杖(alp)が破壊される。


『ッッッ!!?!!?』


 目の前の視界が赤く爆散する。

 死んでもおかしく無いような苦痛によろけ、致命的な隙を生じる。


『Hpnaswbit!』


 エリスの障壁魔術が矢による突きを防ぎきる。

 未だに正常へと戻らない視界の中で、矢筒の内容物が想定以上に減っている事を確認する。


(三本の矢って事か……!)


 諺にも名高い強度によって相殺しきれずに灯杖(alp)が叩き折られる。

 水属性の『並列』によって強制的に最低ランクにされる八朝(やとも)依代(アーム)では太刀打ちが出来ない。


 ならば……!


「エリス!

 合わせてくれ!」

『了解!』


 もう一度灯杖(alp)を展開して、『炎の英雄』の薙ぎに水平の打撃で迎え撃つ。


『Vrzpyq!』


 エリスの初速度変更魔術(アクアグラム1)によって速度……ひいては威力を上げた灯杖(alp)

 今度は壊される事なく鍔迫り合いに持ち込む。


「……らあッ!」


 双方後ろに突き飛ばされる形で鍔迫り合いの呪縛から逃れる。


「次も頼んだ!」

『あいさー!』


 何度も何度も三本の矢に挑む。

 再びこの場に魔力が満ちるその時まで、一合を積み重ね続ける。

続きます

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ