Case 35-2
2020年11月13日 完成
翌日、遠海神社で最後の話し合いの場を設けるという同意を得た八朝達。
鳴下は諸事情で別行動となったが、さらに一人の協力者を連れて神社へと向かう……
【5月1日20時00分 遠海地区・遠海神社】
「……」
「…………」
案の定沓田と鹿室の間に剣呑な雰囲気が漂っている。
最終目標が討滅と救済で水と油なのは八朝も承知していたが、ある理由でどうしても必要な人員であった。
「それで、お前は情報屋か」
「ああ、以後お見知りおきを
ついでに『炎の英雄』の英雄の件は」
「そこまで気を遣うな
必要だから呼ばれたんだろ、アイツに」
沓田が八朝に一瞥する。
言外で『まぁ、信じてやるよ』と言われた様な気がしたが、気のせいなのだろう。
「それで、ここで何を話すんだ?」
「ああ、昨日も言った通り作戦目標の確認と統一の為だ」
「……因みに俺は『あの理由』じゃ絶対に受け入れないからな」
沓田が釘を刺した理由は、昨日の連絡の時に聞いた八朝の作戦目標であった。
『炎の英雄』として桁外れの力と『鳴下神楽』による異能力への一方的なメタ性能。
八朝は彼に『炎の英雄から正気を取り戻す』と告げたのである。
当然沓田は『出来る訳がない』と一蹴。
そして八朝もそれを承知の上で鹿室と弘治を呼び寄せたのである。
「ですが僕は彼の決意に賛同します
『魔王の呪い』は全て祓わねばならない」
「その理想論に俺を巻き込んでんじゃねえ
……八朝、何か言い訳でもあるんだったらさっさと言いな」
乱暴な言葉遣いの割に八朝に向ける威圧感は抑えられている。
彼の信用を借りるようで心苦しいが、そう言ってられる場合では無かった。
「まず、『炎の英雄』は俺らが万全の態勢を整えても勝てない」
「は……?」
突っかかろうとする沓田に弘治が資料を渡す。
それを見た沓田が驚愕の声を上げる。
「な……『木精の加護』に『瘴気使い(火傷・幻覚)』『登竜門』だと……!?」
「ああ、『炎の英雄』は汝が知らぬうちに強化しているのだ」
RATにプリセットされている分析機能では対象が所持している素質をスキルという形で列挙させる。
この三つのスキルが意味するものは即ち『羽化寸前』……6つ目級へと進化する恐れがある事を意味している。
そして前回行った砂塵消防もまた効かなくなってしまっていた。
「それで非常に心苦しいが
『炎の英雄』が正気を取り戻し、沓田への攻撃を躊躇する瞬間を狙う」
「な……!?」
今度は鹿室が反応する。
余りの外道すぎる策に怒りを露にしたのだろう……だが、思いもよらぬ声が掛かる。
「……確かに良い作戦だがそいつは無理だ
俺の父さんはそんなにヤワじゃねえ……俺の母さんが『フリアエ』だと分かった瞬間に殺したぐらいだからな」
彼が口にした『フリアエ』も『十死の諸力』と同じく犯罪者組織であった。
『炎の英雄』という一見人格者にも見えかねない称号の裏で、冷徹な判断力に裏打ちされた強さを持った武人であったらしい。
「貴方達それでも人ですか!?
『炎の英雄』も『魔王』の犠牲者なら、最後まで助ける手段を……」
「それが出来るなら最初からやってる!!」
沓田の悲痛な叫びに鹿室まで思わず閉口する。
だが、八朝と弘治は別の感想を抱いていた。
(……余りにも一方的過ぎる)
依頼の事もであるが、父親への評価も同様に一方的であった。
恐らく沓田は父親への気持ちを消化しきっていない可能性がある。
弘治の方へ向くと、彼がその考えを察したのかこくりと頷いてくる。
「だから、出来る限りは正気に戻す
出来ないと判明した瞬間に逃げて態勢を立て直す、大まかにはこの通りで進める」
八朝が提示した終了条件に沓田も鹿室も無言で首肯する。
続いて『出来る限り』と提示した3つの対策について説明する。
・『炎の英雄』が操る炎を弘治の能力で吸収・消火する
・沓田と鹿室は最善と思う手段で対応
・一時的に『炎の英雄』を輪の力で『人間』の反応に変える(3回まで)
「待て、汝はそれも可能なのか!?」
「七殺で実証済みだ、アンタにはそれで十分だろ」
「ああ……十分すぎるな」
恐らく元『十死の諸力』であった事から察したのだろう。
だが、この方法で正気を取り戻すのは『異世界知識』がある八朝でも難しい。
「取り敢えず、3回やって駄目なら逃げるって事だな」
「ああ、理解してくれて助かる」
そして鹿室が思惑通り黙り込む。
八朝の提示した不完全な方法でなく、完全に人間へと戻すための手段を必死に考えているのだろう。
「決行は明日の10時でよろしいか?」
「ああ、構わん……そこで終わらせてやる!」
続きます




