Case 35-1:箱を炎上させる能力Ⅱ
2020年11月12日 完成
『巻き戻す前』を覚えていた弘治の通報により、ミチザネに甚大なダメージが与えられる。
そんな彼らの記憶を巡って鳴下が説明を要求する……
【5月1日17時40分 磯始北東部・弘治の隠れ家】
「……俄かには信じ難い話ですわね」
「だが、ミチザネは『巻き戻す前』の通りこちらへと向かっていた」
今一納得のいかない様子の鳴下。
弘治の為した悪事は省いて説明したのが説得力を失わせているのだろう。
だが、それにしては沈黙の時間が微妙に長かった。
『鳴下ちゃん、どしたの?』
「……いえ、何でも
少し考え込み過ぎましたわ」
見知らぬ相手からちゃん付けされて眉間を押さえながら答える。
やってしまったな、と思ったところに鳴下からの視線が突き刺さる。
「……何か?」
「貴方、私に聞きたい事があるんじゃないですの?」
「ああ、そうだな……」
改めて沓田義実並びにその子である『炎の英雄』についていくつか質問する。
剣呑な雰囲気にも拘らず答えてくれた情報を整理すると以下の通りとなる。
・鳴下家は長女相続で、義実には相続権がそもそも無かった
・義実は異能力を持たず、その子の常義が異能力を発現させた
・だが『火を操る能力』のみで、あのような強さを得るのは不可能
「不可能というのはどういうことだ?」
「言葉通りの意味ですわ
常義おじさまが現役の時代に『鱗』なるアイテムは存在していませんでしたわ」
「……アルキオネの鱗無しに強くなんてなれるのか?」
「ええ、ですから今から例外をお見せいたしますわ」
そう言った鳴下が突然矢を刺してきた。
その瞬間に全身の力が消滅し、崩れ落ちそうになる。
『ふうちゃん!?』
「大丈夫、死にはしないわ……何なら貴方の失った『攻撃力』を取り戻させる事も出来ますわ」
その言葉が真実と悟ったのは、僅か数秒先の未来であった。
動けない筈の身体が放った流れるような一撃と、付随する霧の衝撃波によって空き缶が真っ二つに裂かれる。
それはSTRが0の八朝では不可能な所業であった。
「成程、これが門外不出の『鳴下神楽』」
「ええ、『竜の三貌』の一つ……『尾』によっておじさまは火の能力を瞬間的に強くした」
「これが『炎の英雄』の正体よ」
弘治が『鳴下神楽』の流麗さに初見で見惚れる。
すっかり神経毒の呪縛から抜けた八朝も信じられないような目で己の手を見つめる。
(八岐大蛇ってのはそういう事か)
八朝がエリスの分析結果を思い出してそう思い浮かべる。
大蛇は生贄を求める側面から神としての信仰があり、そして一般的な龍の谷・川に加えて踏鞴を司っている。
即ち彼の『火を操る能力』と『鳴下神楽』が習合した結果が八岐大蛇であった。
そして、それとは別の疑問も浮かんでくる。
「これがあれば少なくともX級の死亡率を減らせられるのだが……」
「貴方も同じことを言いますのね」
鳴下が呆れた声音で返してくる。
だが、その割には表情が硬く引き締まって……何かに耐えているような……
「『鳴下神楽』は門外不出
本来であれば殺す相手にか見せないのですが、その反応では知らなかったようですわね」
「知らないって何の事だ?」
「……なんでも、ありませんわ」
鳴下が再び口を噤み始める。
これ以上は進展しないと察した弘治が本題へと戻す。
「汝は『炎の英雄』を倒すと言っていたが、我も同行して構わないか?」
八朝は突然の申し出に思考が空白となる。
彼がフリーズしたことを察したのかエリスが代わりに応対する。
『うーん……沓田くんが駄目って言うと思うけど……』
「ああ、何なら物理的に言いふらさぬと誓うぞ……そこな鳴下の娘の力で」
鳴下がいきなり指名されたのにも拘らず表情を1ミリも動かさない。
「気付いていらっしゃったのですわね」
「門外不出の秘儀に、神経毒の能力
我なら秘儀を目にした相手に記憶破壊の毒を打ち込むだろう」
『鳴下ちゃ……』
今度は間に合ったらしい。
エリスが文句代わりに端末の角で何度も頭を打ってくる様子に鳴下が苦笑する。
「別にちゃん付けでも構いませんわ、もう慣れましたし」
「そうか……いや、記憶破壊ってのは」
「ええ、できますわ」
鳴下が自信満々に言い切る。
沓田を説得する材料が出来て八朝が心の裡でで安堵する。
「……弘治、本当にそれでも良いのか?」
「勿論
偶には娑婆の空気を味わいたい……それにな」
八朝に目配せをしてくる。
流石『情報屋』ともいうべきムーブに呆れ半分、期待半分の表情で返す。
『それじゃあ沓田くんに連絡するねー』
「ああ、頼んだ」
お久しぶりです、DappleKilnです
リアルの事情ですみませんでした
今回は『八岐大蛇』こと『炎の英雄の成れの果て』とのバトルです
順調に仲間を集める事に成功してますが、何かお忘れではないでしょうか?
彼は依頼通り討伐するのか
啖呵通りに『救出』の道を選ぶのか
Bルート最初の分岐回が始まります
それでは引き続きよろしくお願い致します




