Case 34-5
2020年11月7日 完成
部長に啖呵を切って依頼に邁進する八朝。
当初の禁を破って鳴下を連れたまま弘治の隠れ家へと向かう……
【5月1日15時30分 磯始北東部・弘治の隠れ家】
「やあ我が眷属よ! 息災であったか?」
「まあな」
意外にも警戒心0の態度で接してくる弘治に目を丸くする。
相変わらずの毒入り神明裁判コーヒーを振舞ってくれる。
「いきなり来たのには些か驚きはしたが、その貌……只事ではないな」
「すまんが、只事だ」
「ほう?」
弘治が目を細めてくる。
あの事件の時と同じように、目の前の敵を滅殺する視線で返す。
ならばこちらも、弘治の弱点を以て応える必要があった。
『■■』
「それは……!」
八朝が弘治の光変換を魔力の霧で妨害する。
だが、まだ安心はできない……相手は『炎雨』と称される優秀な電子魔術師である。
弘治の反撃に備えるも、一向に相手が何もしてこない。
その表情には敵意は一切なく、狼狽えたような……まるで幽霊を見ているかのような……
「……そうか
汝は『天使の石』事件を覚えているのだな」
「な……!?」
あの退魔師に続いて弘治まで巻き戻す前の記憶を持っていた。
「我も『神隠し症候群』を患ったのだと思っていたのだが……
いや、その貌そしてこのタイミング……ミチザネであるな」
どうやら話さなくてもお見通しであったらしい。
早速土産話で『創造神』の『巻き戻し』と、今回受けた依頼の概要を伝える。
沓田には悪いが、あの化物を倒す情報の為にその正体にも言及する。
「成程……
ミチザネが来るまでに『炎の英雄』を倒すというのだな」
「だが、一つ勘違いしているな」
八朝が固唾を飲んで返答を待つ。
相手はあの十死の諸力の、しかも幹部なのである。
そんな表情を察したのか、何故か弘治が表情を解く。
「安心するがよい
汝が来る数時間前にこの件を篠鶴機関に通報した」
「何……!?」
驚愕する八朝の前にある資料の束が送り付けられる。
それは日本の海上戦力とミチザネの比較と、それによる戦況の推移を予想したものである。
結果は、あの時と同じように今日中に敗北する。
そして敗北時に『滞空』する軌道計算も、8割以上の確率で篠鶴市に向かう事も書かれている。
「どうやってこれを……?」
「我には万能を体現する石があるではないか、それを総動員した」
「待て……それは確か復讐の……!」
八朝が慌てた様子で事実を確認しようとする。
どういう原理か『ページを捲るネックレス』を無視しながら弘治が口を開く。
「汝はそれも勘違いしているな
我はあの時に完膚無きまで汝に敗北した……であれば復讐も考え直しが必要だ」
それは実に弘治らしい答えであった。
人道主義に突然目覚めたわけでもない返しに八朝が表情をほころばせる。
「そら、テレビを見るがよい
……じきに我が努力が結実するだろう」
弘治がそう言った瞬間、あの時空歪曲の感覚が襲い掛かる。
それは大量破壊兵器が起動した合図であった。
大地を揺るがす轟音から数分後、テレビ放送にしては珍しく慌てた様子の報道が割り込む。
『速報です
八丈沖にて謎のエネルギー体が落下し、ミチザネの『雷雲』の消滅が確認されました!』
『現在八丈沖海戦参謀部が事実関係の……』
余りにも呆気なくミチザネが沈静化させられた。
そして弘治がいつもの口調に戻る。
「ではこれで急ぐ必要は無いな
そこの白蛇の女と共に去ると良い、以降は連絡にて受け付けよう」
「いや、本当に済まないが17時までここに居ても良いか?」
「それは如何に?」
「白蛇って事でな……ここしか場所が無くて」
その程度の状況説明であったが、弘治が快諾したことで以降この部屋で待っていた。
17時の直前に涼音用の部屋を貸してもらって、そこに白蛇と着替え用の鞄を置いて扉を閉める。
ほどなくして怒気を纏わせた表情で八朝の元へとやって来た。
「これは一体どういうことですの!?」
「いや、どういう事も何も……」
「どうして私に教えてくれなかったのですの!!」
それは先程の密約の件であった。
よく見ると鳴下が悔し涙を浮かべていた。
「常義叔父様の件も心苦しいですが
今は貴方達の言う『巻き戻す前』です……全て話してもらいます!!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
DATA_DELETED
xxxxxxxx xxx
Chapter 14-b 破魔 - Exocising
END
これにてCase34、鳴下の日常回を終了いたします
この瞬間に彼らの共有する『巻き戻す前』の世界と決定的に乖離してしまいます
その時になってようやく知る事となると、本当に間が悪いとしか……
そして今回も主人公は大人数を以て化物に挑もうとします
さて、彼が啖呵を切るほどの思惑は実を結ぶのでしょうか?
次回は『雨の中の決戦』
それでは引き続きよろしくお願い致します




