Case 34-4
2020年11月7日 完成
スーパーで鳴下に会う事に成功する。
だが、彼女が太陽喫茶まで付いてくる事だけは想定できなかった……
【5月1日14時55分 太陽喫茶・テラス席】
「ふうちゃん、おかえり」
「ただいま」
大型連休の最中という事もあり、店の手伝いをしている咲良とばったり会う。
手を放してくれない鳴下がしきりに物陰へと促してくる。
何を悟ったのか咲良が揶揄う様な顔になっていく。
「おとーさんには内緒にしとくねー」
そのまま本当に人の少ない物陰まで引っ張られる。
あのエリスですら何故か言葉数が少なくなっている。
「一体何だってんだ?」
「……後は頼むわよ」
謎の言葉と共に、彼女の姿が突然消滅した。
持ち主を失って地面に広がる衣服の下から白い蛇が一匹姿を現す。
「ああ、そういう事か」
ここで漸く八朝は鳴下の事情を察する。
後遺症の中でも最悪と名高い『畜生化』
彼女の場合15時から17時まで白蛇に変化するものであるが、この白蛇というのが実に厄介なものである。
「……『天使の日』事件、か」
現状この事件のトラウマから逃れ得る異能力者は『神隠し症候群』患者を除いて存在しない。
その彼らも蛇に慣れていない都会の人間であるため、実質彼女を安全に匿えるのは八朝のみ。
『どうする? これじゃあ家にも帰れないんじゃ……』
「荷物を置くだけだからコレで大丈夫だ」
八朝が幻惑の輪を用意して、蛇をアクセサリへと誤認させるようにした。
それと彼女の衣服をエリスに仕舞わせて、もう一度太陽喫茶へと戻っていく。
「あれ? さっきの女の子はどうしたの?」
「ん? ああ、ちょっと急用ができたらしくてな」
「それとその首飾りも……」
「ああ、さっき買ってきたものだ
それとコレ……胡椒とか切らしていただろ?」
八朝が要件を畳みかけて咲良の気を逸らそうとする。
だが、咲良も表情を余り変わらない。
「うん、まぁ良く分からないけどありがとね」
「それじゃあ俺、もう一度図書館行ってくる」
「気をつけてねー」
「ああ、それと明々後日まで外に出ない方が良い、出来るなら地下に籠っててくれ」
「? うん」
無駄な努力であるが、せめて身内だけでも助けたい。
どうやら咲良には伝わらなかったが、時間は迫っていた。
【5月1日15時20分 篠鶴学園・L棟1F】
『ふうちゃん、どうしてここに戻って来たの?』
「部長にもう一度会いたい
……もしかすると、会えるのが今日で最後になるかもしれない」
『ふうちゃん……』
それは呆れの声音も含んだエリスの返しであった。
気にせずに館内を探し回ると、奥の方の区画で部長を見つける。
部長も気配に気づいたらしく、立ち読みしていた本を閉じる。
「あら、また会ったわね」
「まあな……ちょっと言い忘れていたことがあってな」
「何かしら」
「今日中に八丈沖海戦で負けて、ミチザネがこちらにやってくる」
その時の部長の顔は今でも忘れられない。
証拠を何重にも忘れた陰謀論を振りかざす相手に最大級の憎悪を向けて来たからである。
「それが一体どうしたの?」
「……というのはさておき、部長はわざとミチザネに殺される気なんだろ?」
さらに憎悪の粘度が高くなる。
その感情に嫌気を指したのか再び本を開いて無視しようとする。
「知っているからな……!
悪魔の魔術で影の牛鬼の攻撃程度なら解呪出来たのに、そうさせなかった事を……!」
巻き戻す前の部長が殺された時の事を思い出す。
あの時の第二異能部は武装こそはしていたが、魔力残渣の反応から一切能力を使用していなかった。
思えばあの死から連鎖的にいろんな人々が死んでいった。
部長の非合理的な命令への怒りと、自分の不甲斐なさが混ざっていく。
「他の命を犠牲にする策なんて到底受け入れられない」
「だったらどうするの?
それが最も難しい事を貴方こそ知っているのではなくて?」
相変わらず部長の険しい表情が取れてくれない。
だがそれが目的ではない……これは部長への宣戦布告であった。
だが、わざわざ八朝の話に乗ってあげている真意をここでは知ることが出来なかった。
「たった『難しい』程度で諦めるつもりか?
俺は絶対に嫌だからな……死んでも結果を掴んでやる」
「……勝手にしなさい」
八朝は部長の返事も聞かずその場から去っていった。
エリスのおろおろとした雰囲気が伝わってくる。
……ああ、彼女もあの時の犠牲者の一人だった。
『ふ、ふうちゃん……一体全体どうしちゃったのホント!?』
「いや、今まで言えなかったことが言えて漸くスッキリした」
『え!? え……?』
エリスが話についていけていない。
しかも八朝が向かっている先で更なる驚愕に襲われる。
『ちょっと待って!
そっちって弘治くんの隠れ家なんじゃ……』
「ああ、そうだな
アイツの言った通り『最短』で大蛇退治を終わらせてやる……どんな手段を使ってでも」
次でCase34が終了します




