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Case 34-1:■■■■■■■■■■■■■■

2020年11月4日 完成


 太陽を射殺す弦打ちを食らい、ボロボロのまま帰宅した八朝(やとも)

 その日はすぐに寝て、翌日に体調を回復させると再び図書館へと足を運ぶ。


 そして『あの日』まで残り1日を切った……




【5月1日9時30分 篠鶴学園・L棟(図書館)1F】




「初版本でございますね、少々お待ちください」


 受付の人が端末を操作して蔵書にあるかどうか確認する。

 やがて受付の奥へと消えていく……どうやら閉架の方にあったらしい。


 何分かして、数冊を抱えて戻ってくる。


「こちら原版ではなく写本になりますが、よろしいでしょうか?」

「原版は無いのか?」

「はい、原版は数十年前の事件で焼失してしまいまして……」


 そういえばこれも授業で習ったことを忘れていた。

 写本で構わないと返答し、どこか手ごろな席を見つけて本を置く。


『これすっごく大変そうに見えるんだけど……』

「その為に早く来たからな」


 とは言ってみたが、実物を目の前にして頭が眩みそうである。


 この中から化物化(メローペライズ)、或いは『炎の英雄』に抗う術を探し出さなければならない。

 さらに本文は暗号化されているのか殆どがアルファベットの羅列となっていた。


「これは……魔力言語か」

『あ、それならあたしが解号できるけど、この量はね……』


 エリスの言いたいことは分かっていた。

 だが今日までに終わらせないと明日には……


(いや、今は考えるのを止そう)


 八朝(やとも)が思い浮かべたのは巻き戻す前の5月2日、この日にミチザネ(アルキオネⅢ)が襲ってくる。

 だが巻き戻す前と異なり、朝のニュースが伝える自衛隊の趨勢は依然と変化がない。


 今は目の前の作業に集中しよう。


『なんか目星みたいなの無い?』

「……部長の言った通り化物(ナイト)調査の章があったぞ」


 唯一正常な日本語で記述されている目次で第二書に該当の章が見つかる。

 分量にして1/3冊ぐらい、エリスの安堵の溜息が全てを物語った。


「それじゃあ総動員して処理するから待っててね!」


 エリスに言われた通り暗号解読を一任して八朝(やとも)は別の本を探す。

 それは先日の化物(ナイト)から検出された『八岐大蛇』に関するもの、狙うは記紀神話やそれに付随する偽書達。


 だが……


(おかしい……一冊も見つからない!?)


 そもそもこの図書館……いや、篠鶴市中の『本棚』がおかしかった。

 本屋でも、テレビで映りこむ有名人の本棚も、そして新聞1面の書籍宣伝スペースにも『民俗』に関する本が一切見当たらない。


 試しに受付にその事をさりげなく聞く。


「もう一つ探してほしい本があるが」

「伺います、どのような書籍をお探しで?」

「記紀神話の原文が載っている本を探してほしい、取り敢えず最初に見つかった1冊でいい」


 受付の人が不思議そうな顔で端末に入力すると一瞬顔が険しくなる。

 そして奥にいる司書に相談する事数分、大変恐縮した面持ちで戻ってくる。


「大変申し訳ありません

 当図書館、並びに篠鶴市中の図書館でも該当の書籍が見つかりませんでした」

「いや、助かった」


 八朝(やとも)が立ち去った後、司書が更に奇妙なことを口にしていた。


「おかしい……」

「え、何がですか?」

「他の地区なら『記紀神話』みたいな一般的なワードで検索を掛けたら少なくとも十数冊は見つかる筈なのに……」

「マグレじゃないですか?」

「いや、前にいた図書館で丁度確認している

 一体全体どうなってやがる……」


 彼がこの謎を解明するのは先の話となる。

 それとは別に、八朝(やとも)が他のジャンルも試してみる。


 言わずもがな『情報科学』『宇宙論』『微小生物学』に関する書籍は全く見つからない。

 その隙間を埋めるように『異能力学』なるジャンルの書籍が陳列されていた。


(内容は……大体授業で習ったところの応用って感じか)


 それでも『異能力学集成』が論文集であるなら、『異能力学』特有の言い回しや、語られぬ前提があるかもしれない。

 数ある書籍から辞書タイプの本数冊をピックアップしてエリスの元に戻る。


『ごめん、まだ半分ぐらいしか……』

「いや、俺もコイツに挑むための準備をするから気にするな」

『でもちょっと気になるものがあって……』


 解読をしているエリスが言うのだから信用して話を聞く。

 彼女が電子魔術(グラム)で執筆したメモの該当箇所を読んでみる。




 第1117号報告

 サンプル:19■■年■■月■■日・北篠鶴地区

 形態:人型・眼窩と両掌と胸に光点

 特記事項:意思疎通可能・沓田氏より伝聞


 この化物(ナイト)は意思疎通だけでなく

 沓田(くつだ)氏を『妖魔』に勧誘してきたという


 その際に有用な証言を得たので以下に記す


  ・化物(ナイト)と妖魔は本質的には同一である

  ・条件は異能力者が一定以上強くなること

  ・そこに『神話』等の要素が侵入して初めて

   化物(ナイト)は『妖魔』へと進化し人語を得る


 私は驚いてその事を鳴下文(なりもとあや)に報告した

 程なくして篠鶴市中から『民間伝承』を削除する事に成功した




「な……民間伝承を全削除……だと……!?」

『うん、絶対に無理だよねそれ』


 言うまでもない。

 人々から噂を取り上げるだけでは単なる弾圧だけでしかない。


 そこから一歩踏み込んで仮に消滅まで追い込めたとしても、隠れキリシタンのように陰で継承される。

 だが先程の一幕から、あながち嘘では無いと確信してしまう。


「……話は変わるが、この沓田(くつだ)氏って『炎の英雄』の関係者だよな」

『言われてみればそうかも……』

「どうやら親交があるらしい……沓田(くつだ)で絞り込んでくれ」

『あいさー!』


 エリスがテンションを上げて大声で返事してしまう。

 八朝(やとも)が周りの視線に刺し貫かれながらエリスに小声で注意した。

いつも当小説を読んで頂きありがとうございます

DappleKilnでございます


いきなり何やら不穏な気配が……

『アルキオネⅢ』『記紀神話の不在』『鳴下文』


ええ、この篠鶴市は確実に外界と異なっています

段々とその姿が露呈していくでしょう


それでは『炎の英雄』前哨戦

引き続きよろしくお願いいたします

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