Case 33-4
2020年11月2日 完成
2020年11月3日 時間帯修正
沓田から『炎の英雄』の成れの果ての討伐協力を依頼される。
先日の化物との関係を調べるために図書館へと向かう……
【4月30日16時45分 篠鶴学園高等部・3F廊下】
『……』
「……」
しばらく何も言葉が思い浮かばない……恐らくエリスも同様なのだろう。
異能力者最強と名高い『炎の英雄』、ましてや依頼者の父を殺せとなるとショックは大きい。
『化者化って単なる噂じゃなかったんだね』
エリスが呟いた『化物化』とは異能力者が化物に変じてしまうという巷の噂であった。
条件は1つ、C級になることだけである。
篠鶴市の異能力者にC級がいないこと、加えてC級を目指した者が必ず行方不明になること。
このような篠鶴七不思議にも載らない眉唾物のジンクスが実在するとは思いもしなかった。
だが、つい最近心当たりが1つあった。
「……七殺も化物だったな」
『あっ! そういえば……!』
あの七殺も反応は化物であったが、化物化の噂とは2点異なっている。
・ヒトとしての意識を保っていたこと
・位階がT級だったこと
特に2点目の位階の問題は噂の根幹に関わる違いであった。
『ねぇねぇ……これでお父さん救えるんじゃ……』
「エリス、勘違いするな
依頼者は『討伐』してくれと俺らに頼んだんだ」
生前の『炎の英雄』がミチザネを1度は退けたという話はあまりにも有名である。
そこから推測する討伐対象の強さは、既に何人かの異能力者を捕食していてもおかしくない。
異能力者が最も嫌う『同族殺し』をやってのけた相手への慈悲とは私刑の先駆けでしかない。
しかも依頼者はその息子であり、世間体から考えて殺す以外に道は残されていない。
「とは言え何か情報が聞けるかもな」
八朝が苦虫を噛みつぶしたような表情になる。
相手は『巻き戻る前』で大量殺戮をしでかしたあの七殺の筈が、あんな状態の彼女に殺しの相談は心苦しい。
『……やだよぅ』
エリスが八朝の真意を知らずに言語化してしまう。
それでも八朝は自分の両頬を叩いて、折れそうな心を奮い立たせる。
「……その前にできる事はやっておこう」
八朝が方向転換して、ある教室の方へと向かう。
だがその途中で知らない上級生から呼び止められる。
「おーい君! 八朝風太君だね!」
「……そうだが、何か?」
「よかったぁ……
それじゃあコレ頼むね!」
投げ渡されたのは先日見かけたあの血文字のメモが張り付いた学生鞄である。
「頼むと言われても……」
「言いたいことは分かるよ!
でも雅ちゃんは君をあんまり悪くは思ってないよ、だからお願い!」
両手を合わせて拝み倒される。
そのままでは土下座しそうなので了承するポーズは取った。
「……一応やるが、これは他の女子に頼んだ方が良いのでは?」
上級生がばつの悪そうな顔をする。
おそらくは全員から断られたのだろう。
「……にしても全員して単なる白蛇を怖がり過ぎなのでは?」
『ふうちゃん、知らないの?
『天使の日』事件の別名……』
そう言われても八朝には思い当たる節が無い。
その表情を察したのか上級生が説明する。
『死の白蛇』事件
あの大量変死事件の7日前に犠牲者の大半が『白蛇を見た』と証言している。
その噂が『天使の日』事件をきっかけにあるジンクスへと成長した。
白蛇を見ると7日後に死ぬ呪いに掛けられる。
そしてその7日の間も白蛇や幽霊等を何度も見て苦しめられる。
(……なんだその質の悪い呪詛は)
八朝は聞きながら嫌な気持ちを覚えた。
舌打ちを堪えている間も話が続く。
やけに詳しすぎる……そんな嫌な予感が次の言葉で的中してしまう。
「実は私のおかあさんも『死の白蛇』で……」
「……それ以上は大丈夫だ」
大方、死に瀕した人間が演じる狂態というのは親しい人間に強い恐怖と悲嘆を与えていく。
これも化物化と同様に『先の噂をきっかけに自らそううなるよう行動してしまう』案件の一つである。
そして鳴下が避けられる理由にようやく納得がいった。
「部活急がなくて大丈夫か?」
「あっ!? 忘れてた!!!」
そのまま上級生を帰させる。
一瞬上級生が振り返ったような気がするが、八朝達も図書館へと急いでいたので気づけなかった。
次でCase33が終了します




