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Case 33-3

2020年11月1日 完成

2020年11月3日 時間帯微修正


 結果的に八朝(やとも)は2回戦敗退となった。

 沓田(くつだ)から放課後話があると言われ、屋上へと向かう……




【4月30日16時35分 篠鶴学園高等部・4F屋上】




「おう、早かったな」

「部長がテキトーだったんでな」


 屋上には沓田(くつだ)が缶コーヒー二本持って待っていた。

 そのうちの一つを投げ渡される……時間がかかることを見越して冷たい方であった。


 カバンからプラスチックのコップを出して、半分を注いでエリスに渡す。

 相変わらず何もないところから減っていく怪現象に沓田(くつだ)が苦笑する。


「それで話というのは?」

「ああ、そうだよソレだ

 お前向けの仕事の依頼でな……」


 依頼内容は端的に言うと『ある化物(ナイト)討伐協力』というものであった。

 相手が5つ目(メローペ)級、火の能力を持っていること……これ自体は特に珍しいものでもなかった。


「ああ、あとコレに関することは他言無用で頼む」

「それはどうしてだ?」


 聞き返しても沓田(くつだ)は無言を返すばかり。

 相手もその態度が不信感を募らせている事を自覚しているのか、表情が珍しく強張っている。


 ……プライバシー関係で後ろ暗いものの気配がする。


「まだ話していなかったが、つい最近から俺は非戦闘系の依頼しか受け付けないようにしてんだ」

「そうか……

 俺の能力に即興でメタれる分析力があって、仕事には義理堅いお前だから頼んだんだがな……」


 どうやら沓田(くつだ)は今日の勢力調査での八朝(やとも)の実力を評価していたらしい。

 ただ、八朝(やとも)の中では『手も足も出ず負けた』と認識しており、疑問を覚える。


「そんなにヤバい相手なのか?」

「ああ、他に頼んだ奴はどいつもこいつも話を聞いてくれなくてな……殆ど口だけだった」

「……やはり、そういうのは俺よりも鹿室(かむろ)の方が適任なのでは?」

「奴だけは駄目だ

 『魔王』『魔王が』とか言って約束を守らねぇ」


 沓田(くつだ)が缶コーヒーを飲み干して吐き捨てるように言う。

 そういえば沓田(くつだ)鹿室(かむろ)は何かと衝突していたなと思い出す。


 だが、それでも思惑ぐらいは伝えたほうがいいかもしれない。


「たとえ以前の俺でも、さっきの話だったら問答無用で鹿室(かむろ)も引っ張ってくるぞ」

「……そういや、お前ってそういう感じだったけな」


 おそらくは噂話等も考慮して沓田(くつだ)がそう返したのだろう。

 これで八朝(やとも)も『後ろ暗いことを平気でやる奴』と断じてくれるだろう。


「でもやっぱ頼みたいわ」

「……さっきの話を聞いていたか?」

「聞いていたとも

 お前が第二異能部に嘘言って俺に協力してくれたからな」


 実は事前に沓田(くつだ)八朝(やとも)に『他言無用』と釘を刺していた。

 部長に『暫く前に頼まれた仕事ができない』と言った時はどれほどの嫌味を言われるのかと思ったが、一言で許可してくれた。


 不敵に笑う沓田(くつだ)八朝(やとも)が観念する。


「……はぁ」

「お、そういやお前にはコレが必要だったの忘れてたわ」


 開いている手にお札が渡される。

 およそ学生が気軽に手渡してはいけない額に、あのエリスでさえ絶句していた。


「因みに、そいつは頭金だ」

「……随分と景気良いな」

「そりゃこんなもん頼むしな……しっかしお前もどうしてコレに拘るんだ」


 沓田(くつだ)が呆れ半分の口調を垂れる。

 八朝(やとも)は表情も変えずに依頼料を封筒にしまう。


「当たり前だ

 タダでやる仕事に責任感なんぞ生まれやしない……コレは依頼人が俺を信じてくれた証だからな」


 彼の『だから友達ができないんだぞ』という思惑には乗りたくもない。

 後で羞恥で死にそうになる言葉だが、今の八朝(やとも)にはそれぐらいの反論しかできなかった。


「……だったら、全力でやってくれよ!」


 沓田(くつだ)から標的の情報を共有する。

 受信したエリスが秒で吃驚したような声を上げ、そして画面を見た八朝(やとも)も思わず呟いた。


「こりゃあ、随分とタイムリーだな」




 識別名(ネーム):■■■■■■■

 位階(ランク)5つ目(メローペ)

 備考:

  火炎系及び失明、酩酊の能力

  体内に高濃度のメチルアルコール系の物質を検出

  元異能力者の可能性大




「なんだ知ってたのか、話が省けて助かる

 じゃあ改めて……化物化(メローペライズ)した俺の父さんを殺してくれ」


 ある意味で墓標(メトセラ)以上の敵を前に、封筒の重みを実感した。

 『炎の英雄』の成れの果てを表す画面から八朝(やとも)は目を離すことができなかった。


「……」


 それは彼を刺すように観察する誰かの視線に気付けない程に……

続きます

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