Case 33-2
2020年10月31日 完成
勢力調査の1回戦目は勝利で終了する。
だが次の相手は『炎の英雄』の子である沓田であった……
【4月30日13時50分 篠鶴学園高等部・グラウンド】
「ま、気張り過ぎないようにな……特にお前は」
沓田とすぐに会えたお陰で息を整える時間を確保することが出来た。
地べたに座り込むと、そのまま沓田が話しかけてくる。
「聞いたぞお前、瞬殺だったらしいな」
「半分以上棒立ちだったが?」
「違いねぇ、実にお前らしいわ」
沓田が笑い飛ばす。
だが、直ぐに双眸から手加減の気配が消え失せる。
「ま、俺なら死にかけでも反撃するがな!」
それは八朝のように『気絶無効』に頼るものでもない。
本物の強者が放つ威圧感に、棘で全身を刺し貫かれるような不快感が襲ってくる。
そこに教師からの合図、そして辰之中が発動される。
『Wytglc』
『Ghmkv』
彼の手に現れたのはトーチ型の依代。
それを八朝に剣のように向けると、直線状のエリアに無数の光る立方体枠が出現する。
「エリス! 障壁魔術……」
「今更もう遅い!!」
立方体枠が赤熱し、そのまま爆炎に包まれる。
文字通り全てを粉砕する爆発がこちらに向かって突進してきたのだ。
「……をせずに沓田を分析し続けろ!」
八朝が爆風に巻き込まれ、パキンと砕ける。
沓田が濛々と立ち込める土煙を眺めながらニヤリと笑う。
「早速やってくれたな」
この煙の向こうに八朝はいない。
あの『辻守』を破ったとされる光輪の幻覚が、噂以上のものだったことに更なる愉しみを覚える。
「だが、俺にはこれがある事を忘れてないか!?」
沓田がトーチを握り締め、赤色のオーラを立たせる。
火の属性スキルである『変容』、その発動の証である。
DEX:5→10
「捉えたぞ!」
ステータスの限界値である5を超えたDEX値。
人智を超えた感覚を以て輪の幻惑を正面から破る。
「『火吹箱』よ、開け」
DEX:10→5 STR:1→6
八朝が潜んでいる所を目掛けて、再び爆炎の道が押し寄せる。
先程の数倍以上の暴威が、狙いを過たず打ち据えようとする……
(ホントに!?)
それは最初の『火吹箱』の攻撃時、エリスが急かす様に叫ぶ。
既に分析魔術を走らせており、簡易的な結果がエリスの元へと届けられている。
(ああ、分析だけしてくれ
尤ももう時間は無い、一言で頼む)
八朝の言った通り、沓田から最悪の宣告が下る。
「捉えたぞ」
こちらを睨み殺すように向き直る。
向けられたトーチから発動前にも関わらず、総身を焼尽せしめる幻を見せられる。
エリスは究極の選択を迫られる。
分析結果
①窒素原子8つによる幾何学的な電子交換を確認……『仮想化合物・オクタアザキュバン』が該当
②魔術イメージの構築不能エラー。属性として風属性、火、契約、王国、方舟、■■のENIAC……
①は確定した分析ではあるが、八朝とは相性が悪い。
八朝の世界で『異世界知識』が放逐されたのは所謂『科学信仰』によるものであり、唯一彼が弱点とするものである。
②は全て伝えきれば八朝が逆転の手を出すかもしれない。
だが、不完全な上にバグデータが混ざっている状況を考えれば八朝を敗北させる要因になりかねない。
……。
①を伝える
②を伝える
(……ッ!
やっぱりここは無理でも『完全なもの』を伝えた方が!)
エリスが迸る気持ちをそのままに叫ぶ。
『ふうちゃん!
あの能力は『オクタアザキュバン』だよ!!』
それを聞いた八朝が一瞬手を顎に当てる仕草をする。
アレは思い当たる節があったときの動きである。
『……!
■■よ、■■よ! 汝らの繋ぎし天体を、その身を贄として輝かせよ!』
八朝が弓矢と輪を両手で圧し潰す。
同時に爆炎が目と鼻先まで近づく。
『Hpnaswbjt!』
エリスの六重障壁を全て犠牲にして防ぐ。
土煙が晴れた頃には、この空間中がほんのりと光り輝いているように見える。
「よく考えたな!
こんなに光り輝いては線が繋げられないな!」
沓田の称賛を待たずして、八朝が叫ぶ。
「エリス、今だ!
残りの力で畳みかけろ!」
その指示通りに初級水属性電子魔術で瓦礫を動かし、沓田に殺到させる。
火の属性スキル『変容』で再びDEX値を上げると、そのままに全ての瓦礫を回避してくる。
「だが、お陰で新たな境地が見えた……ありがとよ!!」
総毛立つような恐ろしさが沓田から投射される。
彼の手にはトーチが握られ、今度は黒線となった立方体枠が複雑に絡み合う。
『火吹箱よ、燃え上がれ』
STR:1→4 LUK:2→0 Nitrogen→Oxygen
今度こそ八朝に『火吹箱』の一撃が炸裂し、瞬殺される。
依代である『光る空』の破壊……沓田の完全勝利であった。
続きます
※Case33-1は今後修正されます




