Case 33-1:箱を燃え上がらせる能力
2020年10月30日 完成
2020年11月5日 題名修正
七殺を辰之中の外に連れ出す事に成功した。
同時に部長から頼まれた仕事もこなしながら、破滅の時は刻一刻と近づいていく……
【4月30日13時45分 篠鶴学園高等部・グラウンド】
今日の授業は演習ではなく勢力調査である。
端的に言うと生徒の戦闘力を把握するものであり、成績如何では異能部への推薦も有り得るというものである。
冗談ではない。
(ねぇ……異能部が十死の諸力の末端組織って本当なの)
(こればっかりは嘘とは言いたくない)
エリスの懸念も気持ちは分かる……だがそれのせいであの大惨事が見過ごされた。
勿論この授業も真面目にやってはいけない。
(今日も相手を勝たせるか)
そもそも八朝はこの授業へのモチベーションがなぜか低い。
寧ろ相手の力を如何に引き出させ、気持ちよく敗北することに主眼を置いているフシがある。
(偶にはちゃんと受けてみなよ、皆マジメにやってるんだし)
エリスの指摘通り、クラスメイトのほぼ全てが入念なチェックを忘れない程に意識が高い。
それでも真実を知ってからは余計に奴等に目立つ事をしたくはない。
(……本当に駄目か?)
(あたしもいきなりそれを信じろと言われて、はいそうですかは言えないよ)
(そうか……だが目立ちたくはない)
エリスとのヒソヒソ話の結果2回戦ぐらいで態と負ける事で両者妥協とした。
教師から言い渡された組で、所定の場所まで急ぐ。
相手は既にスタンバイしていたらしく、待ち構えたかのように話しかけて来る。
「おう、八朝待ってたぞ
……お前、相手の異能力に干渉できる力があるみたいだからな!」
既に警戒されていた。
やはり数日前のアレで目立ち過ぎたのが災いしたらしい。
「即『破壊』で終わらせる!」
依代である槍を構え、同時に『特別なモード』の辰之中が発動される。
彼の能力は『物質と水の可逆変化』というシンプルで強力なものであった。
この勢力調査の終了条件は以下の4つである
・破壊:依代を破壊することによる勝利
・優勢:終了(90秒経過)時に最後に攻撃した事による勝利
・中断:相手が不正行為したことによる勝利
・拮抗:終了(90秒経過)まで有効打がゼロ。双方敗退扱い
※妖精使用は不正行為に当たらない
「さぁ終われ!」
『■■■!』
右腕が赤く、左腕が青く光ると彼の能力発動の合図である。
同時に八朝が調査用に霧を展開させる。
無論、そのまま八朝が万物融解の渦に巻き込まれる。
「よっしゃ!
癖のある奴は速攻に限る!」
持論が正しかったことをガッツポーズと共に証明する。
後はこの鬱陶しい『旗型の破片を零す霧』が完全に破壊されるまで待つ。
一方八朝は渦の底よりも深い地中を漂っていた。
「中級水属性電子魔術が上手く行ったな」
『うん!
ホント何でだろ……いつもみたいに霧を食べただけなのに』
「いや、今回は輪を混ぜてみた」
それは生命の樹にて霧が遡る先で接続する依代である。
同じ『中庸の柱』に属する依代なら何かあるのではと試したら上手く行った。
『それであの破片は間違いなくアレだよね』
「■■、大アルカナの『死神』だな」
槍と混沌と渦潮。
一見しただけでも分かっていたが、この証拠によって確定した。
『我より袂を分かつ、汝の名は■■■!
死と共に足を止める、二十二の呪いなり』
右腕に刀印、それで左腕を撫でると出現した黒雷を纏わせたままにする。
見上げた先に瓦礫の無い空間が近づいてくる。
「エリス、今だ!」
『Vrzpyq!』
初級水属性電子魔術で地中から急浮上し、数メートル上空まで飛び上がる。
「!?
だが、無駄だ! そのまま落ちろ!」
『■■■!』
そして黒雷が彼を打ち据えると、今まで荒れ狂っていた渦潮が嘘のように急停止する。
どころか槍まで半透明になって触れられなくなった。
「な……!?」
彼の驚愕の呟きと、八朝がすっかり安全となったグラウンドに着地する音が重なる。
「そりゃあ、アンタが使っている槍が分かりやすく天沼矛だったからな
本当の依代である2柱の腕のどちらかを黙らせたら発動しなくなるさ」
八朝の講釈を実に悔しそうな顔で聞く。
……だが八朝側も何もしないまま80秒を無駄に消費してしまう。
「おい……まさかそこまでやっておいて『拮抗』で終わらせるつもりか?」
「いや、そもそも俺の能力はここが限界だ」
「んな訳ねぇだろ!
エリスちゃんがいるだろ! だったら電子魔術か何かで攻撃してはよ勝ちやがれ!!」
相手が不機嫌そうにそう叫ぶ。
確かにこのままだと2回戦にも行けなくなるので、エリスに初級水属性電子魔術指示した。
八朝の『優勢』勝ちで終了した。
そして、次の相手が沓田であった。
「お、珍しく勝ってんじゃねーか」
いつの間にか来ていた沓田に肩を叩かれる。
暗に『いつもみたいにわざと負けたんじゃねーんだな』と告げている。
「俺に他の奴と同じことやってみろ……灰にしてやるよ」
それは別に誇張でも何でもない。
彼の父は本土にてあのミチザネを一度は破ったとされる『炎の英雄』である。
「……」
八朝がもう逃げられないところまで来てしまい、無表情のまま固まる。
エリスの煽りと共に、沓田との間で知らない間に戦いの火蓋が落とされた。
いつも読んでいただきありがとうございます
DappleKilnでございます
今回からは新キャラの沓田君が中心の話となります
彼の父親が『炎の英雄』……そういえば前話に……
それと作中内の日付は4月30日
残り3日でアルキオネⅢが襲い掛かってきます
そんな混沌とした状況を主人公はどう切り抜けるのか
それでは引き続きよろしくお願い致します




