Case 32-5
2020年10月29日 完成
部長から厄介な仕事を引き受ける事になった八朝。
今日も七殺の足取りを追う……
【4月27日17時44分 篠鶴地区・駅北商店街】
『人型の化物か? 榑宮にうじゃうじゃいるだろ、一体どうした?』
『様子のおかしい化物……そういうのは聞かないですね』
『俺だって十死の諸力の根城の場所知りたいし!』
……。
…………。
………………。
『なかなか見つからないね』
「そうだな」
聞き方が悪いのか思った以上に情報が集まってくれない。
だが相手が十死の諸力の幹部となると、意図的に隠すしかない。
『こりゃあ弘治か掌藤さんに聞くしかないよね』
「……出来るなら弘治だけは避けたい」
八朝が苦しそうに返答する。
彼がもしも記憶を保っている側であるなら、計画を頓挫させた八朝は不倶戴天の敵扱いとなるだろう。
今の不完全な状態で叶う相手ではない。
『それじゃあ、おかあ……掌藤さんに聞いてみる!』
エリスが八朝から『報酬は何でもいい』と聞くと、早速掌藤に連絡を入れる。
ほどなくして滞空高度がほんの少し下がる。
「その様子だと不発だな」
『うん……知らないって』
「それで、支払いもヤバそうだな」
ギクッと言わんばかりに浮き方が不完全になるエリス。
小声で聞いたその額に溜息しか出なかった。
「……貯金分の半分以上か」
『ご、ごめんごめん! 何でもするか……』
「まぁ手切れ金と思えば安いか、エリスもよくやってくれた」
今度は幽霊でも見るかのような気配を感じる。
八朝にしても心外甚だしいが、返す言葉も無い。
『ふうちゃん……変わった?』
「別にいつもの事だろ」
『いやだって2週間前も同じ事して毒で追いかけられたし!』
「……」
頭痛はしないが思わず頭を押さえてしまう。
あの時は確か資金運用も考えていたからカツカツだったと思い返す。
『へ……変なの食べてない?』
「食べてないし、怒ってもないから心配すんな」
『???????』
思った以上に信用されていなかった。
それはそれで悲しいが、だからといって事態が動くわけでもない。
『それで、今日も安全な場所から探すの?』
「……いや、今日は危険な場所から探してみよう
沈降帯が展開されている所をピックアップしてくれ」
エリスが軽く返事して検索作業を始める。
もう6日以上経過して、同じ所に留まり続けるには危険となっている。
移動するにしても直線で、そして異能力者が逃げてもらうために沈降帯を使用しながら移動する必要がある。
『あれ……?』
「何かあったのか」
『えーっとね……移動しているのと、10年前から展開されているのが……』
「10年だと……!?」
画面を見ると、エリスが言っていたものに目印が付いている。
前者のものは北抑川から東北東方向、後者は七殺と最後に会った篠鶴駅付近。
いや、何故誰もこんなのに気付いてないのか!?
『明らかに怪しいけど……』
「いや、この二つから探ってみよう
ここから近いのは篠鶴駅のか……」
八朝が篠鶴駅の沈降帯へと急ぐ。
目的まで数メートルのところでまたもエリスが口を出す。
『待って!
これ……沈降帯が二重になってる!!』
聞いたことのない状態であったが、エリスが言うなら事実なのだろう。
……ここに入るのは危険かもしれない。
(……いや、七殺がここに居るなら彼女の方が)
八朝は決意を固める。
「エリス……俺の事は放っておいていいからできるだけ多くのモノをスキャンしてくれ」
『でも……』
「俺も警戒しながら進む」
八朝が意を決して沈降帯へと侵入する。
二重になっているという特異な形であるのにも拘らず、水が干上がっている以外に特に異常はない。
だが、エリスが予想通りの反応を呟く。
『……火属性の魔力残渣が凄く濃い』
それを聞いた八朝が霧を展開する。
他人の異能力から影響を受けるぐらいに弱い霧なら簡易的な分析が可能というものである。
霧の中から歯車状の半透明な結晶がぽろぽろと落ちている。
「火傷の反応が強い……確かに火属性だな」
『ねぇ……ここまで濃いと本当にヤバくない』
エリスの言う通り想定以上に危険なものかもしれない。
だが、時すでに遅かった。
『■!』
エリスと共に近くの瓦礫の中に隠れる。
その先で二つの人影が争っていた。
火を噴く人影と、長い獲物を手に中距離で戦う者……七殺に違いない。
『ど、どうする!?』
「もう少し周りを調べてくれ、頼む!」
エリスが吃驚したような反応を一瞬見せた後、エリアスキャンを再開する。
ほどなくして結果が伝えられる。
『火と水と鉱物……それと猛烈な酒気も』
「……八岐大蛇か」
これ以上に無いほど分かりやすい手掛かりであった。
日本における河川とは神の似姿であり、その河川に加え鉱物と火の象意を同時に満たす『踏鞴場』の意味を持つ神霊は八岐大蛇以外に存在しない。
そして酒も彼が死ぬ直接の原因であった。
『そ……それ私も知っているんだけど!』
無理もない、八岐大蛇は鬼を除いた日本最大の化生として有名なのである。
ただ、それが人型だとは聞いたことが無いが……
言外で撤退を薦められているが、このままだと七殺が危ない。
火尅金、そして漏星たる河川の意味を持つ相手に七殺は勝ち目がない。
「エリス……言いたい事は分かるな?」
『でも……!』
「大丈夫だ、考えがある」
八朝がエリスに作戦を説明する。
八岐大蛇の性質を無視したものではあるが、理にはかなっている。
『……分かった
でも無茶はしないで!』
「ああ」
八朝が身を隠しながら八岐大蛇を倒すイメージを構築する。
使う枠は3つ……■■と■■そして■■
『我より袂を分かち、果ての天球へと至れ』
生命の樹においてS字型に構成するそれらは単独では意味を為さない。
事実、失敗の証である霧化がもう既に発生している。
「エリス、頼む!」
『Vrzpyq!』
エリスが初級水属性電子魔術で動かしたのは炉の方である。
それを回転させると、つられて霧化した部分も回転を始める。
『汝は東風なり
されど悪霊には非ず、聖霊の名の下に災いを!』
さらに詠唱を重ねて砂嵐を1区画全体を包むほど成長させる。
こんなことをしても何ら八岐大蛇にダメージは与えられない。
代わりに彼が放っていた火が唐突に消え失せる。
バクダン酒火災には水よりも砂の方が有効である……粉塵爆発が起きなかったのは奇跡ではあるが。
『ふうちゃん!』
「ああ!」
八朝が長物を持っている方へと駆けだす。
『え!?』
「遅れたな……でももう大丈夫だ!」
驚く七殺の手から薙刀をひったくり、予め用意していた輪と溶け合わせる。
薙刀にも変化はない……上首尾である事を確認した後七殺の手を握ってそこから逃げ出す。
「エリス! ルートを!」
『りょうかーい!』
エリスが指し示した最短ルートで沈降帯から抜け出す。
七殺が驚いたようにその場に立ち尽くす。
「あれ……これって空……」
「ああ……これで七殺の反応だけ化物から人間に騙せた!」
『凄いよねホント
あたしも七殺の沈降帯が消えるまで……』
と、そこで八朝が抱きしめられている事に気付く。
一瞬でそれから解かれ、呆然と七殺を見つめるだけとなる。
「ありがと!
絶対に絶対に忘れないから!!」
七殺が去った後も暫く動けず呆けたままであった。
その様子を見つめる一つの影がいた事に気付かず……
「……」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
使用者:鳴下雅
誕生日:6月26日
固有名 :Wvisfef
制御番号:Sln.193237
種別 :S.VENTO
STR:5 MGI:1 DEX:2
BRK:0 CON:3 LUK:2
依代 :弓矢?
能力 :神経毒による身体操作
後遺症 :蛇化(申刻のみ)
xxxxxxxx xxx
Chapter 08-b 狂乱 - Bacchanalia
END
これにてCase32、蛇の序章回を終了いたします
(ちょっと詰め込み過ぎた感……)
八岐大蛇が人型とか普通にあり得ませんよね?
それと次回で登場する化物化……
これはCase35まで続く話の序章となります
そして主人公の影に■■も現れています
次回は『英雄の子』となります
それでは引き続きよろしくお願い致します




