Case 32-4
2020年10月28日 完成
クラスで話題になるも、最終的に心配の眼差しへと変わっていった。
心中で釈然としないまま、八朝はいつもの部室へと向かう……
【4月27日16時30分 篠鶴学園高等部・第二異能部部室】
『誰もいないねー』
能天気なエリスの呟きも空しく溶けていく。
ホワイトボードには全員出払っている旨のチェック……完全に行く必要が無かった。
『帰っちゃう?』
「いや、教師に言った手前、勝手に帰るのは不味い」
と、八朝が謎の論理で帰宅を拒否する。
因みにこの選択は正しかったようだ……何しろ鍵を渡した教師がもうすでに帰宅しているからである。
『ここも懐かしかったりするの?』
「まあ……な」
あの時は謎のがさ入れの後でファイルなどの並びがおかしくなっているが、本来は部長の几帳面さが反映された配置となる。
このように右から古いのに並んでおり、ましてや破り捨てられたページなどもない。
『にしてもページがね……
ここに泥棒が入るなんて想像できないや』
「同意する」
先ほどテキトーに捲っていたページも独自の電子魔術で改竄も破棄もできないようにロックされているものが混じっていた。
あの時部室に入ったのは一体誰だったのか……想像がつかない。
『ひゃあああ!』
「……どうした?」
『ど、どうしたって蛇へびへび!』
確かにエリスの指示している方向に1匹の白蛇がいた。
「それがどうした?」
『え!? ふうちゃん怖くないの!?』
「島に沢山いたからな
部屋に入った時もこうやって枝を使っ……て……」
ふと昼休みの不発だった記憶が引っかかる。
あの時も確かに家の中に侵入した蛇を追い出していた。
(てっきり『本物』の方の記憶だと思っていた)
そんなことを思っていると、次第に劣勢になっていく。
とうとう蛇に腕を巻き付かれてしまう。
『ふうちゃん……ホントに大丈夫なの……?』
「……こりゃ駄目だな」
蛇が牙をむいている。
RATを掴んで病院に連絡しようとする。
……一向に鋭い痛みも、毒に侵される嫌な感じもしない。
『ふうちゃん、何か指し示しているみたい』
確かに蛇が執拗にある方向に引っ張っている。
その先には一つの学生鞄があった。
この鞄を見つけた人へ
①まず、17時までに白い蛇を探してください
②屋外なら深い茂み、屋内なら女子トイレに向かって鞄を投げ入れてください
③絶対に中身を見ないでください
『……最後だけ、血文字だね』
破った奴を呪い殺すという、これ以上にない意思表示であった。
とりあえずここは屋内なので、エリスに部室を頼むと八朝は一番近い女子トイレに向かう。
向かっている途中でエリスの揶揄うようで不機嫌な返事を思い出し、ふと気づく。
(逆の方が良かったんじゃね……?)
目の前には件の女子トイレ……時すでに遅し。
上部に投げ入れられるスペースがあったので、そこに向かって鞄を投げ入れる。
すると蛇も腕からするりと抜けて女子トイレの方へ入っていった。
(……誰もいないと有難いんだがな)
部室に戻ってくると、エリス以外に一人増えていた。
「あら、お帰りなさい
エリスちゃんから話は聞いたわ」
「……今度からはエリスにお願いするよ」
「とんでもない……今まさに貴方にお願いしたいことなのよ」
部長から話を聞く。
先ほどの注文の多い鞄についてのものであった。
「他の人に頼んでも『蛇は嫌』って
でも貴方は大丈夫だったんでしょ?」
「まぁ、慣れているんで」
「ということで頼めるかしら?」
いつも同じところにあるというのなら、能力鑑定の折でも特に問題はない。
承諾しようとしたところに扉が勢いよく開けられる音が飛び込んでくる。
「……鳴下さん?」
彼女は第二異能部の先輩であった。
能力は神経毒による操作……即ち2時限目の八朝達を止めた毒の矢の持ち主である。
「絶ッッッツ対に嫌ですわ!!
あなただけは特に死んでもお断わりですわ!!」
そう言い残して鳴下が扉を壊す勢いで閉めて去っていった。
まるで台風に襲われたような状況下で、部長がいつも通りの涼しい顔を崩さない。
「で、どうするの?」
この状況で懲りずに部長が聞き返す。
これを引き受けるためには2時限目のアレを解決する必要がある……言うまでもない。
「お断りし……」
そう言い切るよりも早く口を掴まれる。
異能力者の身体強化による握力で顎が割れそうな程の苦痛を味わう。
「よく聞こえなかったわ、もう一度」
……北欧神話に似たような匣があったな、と現実逃避する。
結局のところ、無限ループを脱するためにはそうするしかなかったのである。
次でCase32が終了します




