Case 32-3
2020年10月27日 完成
丸前との演習に勝利した八朝。
だがエリスに纏わる煽りを受けて、自分諸共相手を屠り去ろうとしたところを降ってきた毒の矢で全てがお流れとなる……
【4月27日12時40分 篠鶴学園高等部・教室】
「戻ってきましたか八朝君!」
「ああ、心配かけた」
先程目を覚まし、特に異常が無い事を告げると保健室の先生からそのまま授業に戻るよう指示を受けた。
教室に戻って来るなり鹿室から声を掛けられる。
「ええ、あの場にはいませんでしたが無茶は程々に」
「そうだな」
「にしても2時限目のお前凄かったよな」
話しかけてきたのは、このクラスの中心的存在である沓田であった。
彼の一声で離れているグループもこちらに寄ってくる。
「ん、何の話だよ?」
「アレだアレ、属性スキル演習での八朝の大立ち回り」
「あーアレね、確かに格上相手に勝ったもんな」
「そこじゃねーよ
八朝もだけど相手の丸前もヤバかっただろ」
皆の反応が鈍かったらしく、今度はこちらの方を向いてくる。
お前なら分かってくれるよな、と言わんばかりの態度に八朝が困惑する。
「ああ、どちらも『並列』をモノともしなかった辺りですね?」
「そうそうそれそれ
丸前の超高速展開もだが、アイツの能力細分化の技術もヤバかった」
「恐らくは丸前君の方も、八朝君の細分化の応用ですね」
鹿室の答えに納得がいったらしく沓田と話が弾み始める。
漸く全容を把握した取り巻きが、今度は八朝に話しかけてくる。
「ねぇねぇ、君の能力って前までランダムな状態異常付与だったのに、アレどうしているの?」
「発動前にやってる詠唱を使って切り分けてる」
「やっぱそうかー」
我が意を得たりと、早速八朝の詠唱の真似を始める。
だが特に何も起きず、いつも通りの依代が出るだけだった。
「これ、結構前から試してんだけど上手く行かなくてな」
「そりゃそうだ
何でも良いワケでも無くて、ある程度体系化されたものじゃないと上手く行かない」
「た……体系化?」
『グーチョキパーとか干支とかだね
ふうちゃんだとタロットカードから取ってるよね』
エリスの説明に納得できたらしく、八朝もつられるように首肯する。
「にしても、お前それ以外のも出来たりするの?」
「X級がランクアップした時に、その能力をある程度言い当てたりとか辺りだな」
「え!?
お前それもできるのかよ!」
「なんかまるで『お告げ人』みたいだね」
そう言われてもパッとしない八朝に、言い出しっぺが説明を始める。
曰く、夢の中で能力のお告げを受け、その通りに能力を使うと強くなる……というものらしい。
「別のクラスの友達が『お告げ人』で強くなったって」
「いいなぁ……で、お前もそれっぽいの出来るの?」
「出来るのは出来るが、そういうのは第二異能部に通してくれると有難い」
「そこを何とか!
コイツつい最近Q級になったばかりで右も左も分からないの、だからお願い!」
エリスと相談して、事後承諾という形で引き受ける事にする。
最初にエリスの分析魔術で星辰が『ε.Car』と確定した後霧で依頼人の庭場を包む。
「……一番強いのは火傷の『戦車』と■■の『正義』
依代が剣って何だこれ……本来なら焼き鏝の筈なのだが」
そこまで言うと庭場が真っ青になる。
曰く、Nomの機能で依代の形を変えるまでは焼き鏝型であったらしい。
「それでそっちにしたらどうなるってワケ?」
「多分だが、相手や場に属性を付与する能力だろう
試しに雷の天気予報のアイコンでやってみるといいかもしれない」
庭場が慌てて辰之中を起動し、試してくる。
数秒して戻ってきた彼の顔に驚愕が張り付いていた。
「……マジで雷が落ちて、床が吹っ飛んだんだが?」
「ならいいじゃねーか」
「よくねーよ! ってかマジかよお前!?」
この騒動を目にした野次馬達が更に集まってくる。
喧噪で不調になったのか八朝が頭痛を訴えて蹲る。
「お、おい大丈夫か?」
『大丈夫大丈夫
こうやって他の人の能力を分析すると、頭痛と一緒に過去の記憶が戻って来るし』
エリスの素直な返しに何故か言葉を無くすクラスメートたち。
異常を察した沓田がやって来る。
「お前ら散れ散れ
病み上がりだし、第二異能部に通してくれって言ってたし、また後でな」
クラスメートたちが元の輪に戻っていく。
頭痛から戻った八朝が渋い顔のまま……今回は不発であったらしい。
「……助かる」
「ま、お前も今日みたいに無理すんなよ」
そこで漸く沓田の表情に気付く。
怒りと、本気で心配してくる表情……恐らく沓田が話しかけてきた本当の理由だろうと察する。
「あの時、奴も自分も纏めて殺すつもりだったろ?」
「……」
「いや、気持ちは分からなくもないがやりすぎだ
まさか唯一マトモだったお前が、ここまで無鉄砲な奴だと思わなかったぞ」
確かに殺意は否定しない……だが、彼の非難も道理が通っている。
八朝が何も言い返せず、俯くしかない。
彼の肩を叩いて沓田が言い放つ。
「だから、そうやって無理すんなって
そうしたら今みたいに少しぐらいは手伝ってやれるし、何よりエリスちゃんが一番そう思ってるだろうよ」
そうして沓田も元の会話の輪に戻っていく。
鹿室と時間を潰す間もエリスは一言も話すことは無かった。
続きます




