Case 32-2
2020年10月26日 完成
属性スキルの実習を受けていた八朝。
教師を倒した丸前から勝負を挑まれ、しぶしぶ承諾する……
【4月27日10時14分 篠鶴学園高等部・グラウンド】
「異能力による演習ってなると許可が必要じゃないのか?」
「必要ない、俺を誰だと思ってやがる」
異能部はその『奉仕活動』を円滑に進めるために上記のような各種特権が与えられている。
八朝が思わず複雑な顔をしてしまう。
『さぁ張った張った!
ここで敗北条件をもう一度、どちらかが先に転倒したほうが敗北となります!』
野次馬のうちの一人が賭け事まで始めやがった。
そんな八朝の苦悩も知らず丸前が刀を鳴らして煽る。
「さぁ、さっさとはじめようや
貴様が来ないのならばこっちから仕掛ける!」
『Hpnaswbit!』
丸前の突進斬りと障壁魔術が衝突し、刀の方を弾き飛ばす。
「馬鹿の一つ覚えみたいに守りやがって……!」
ああ、記憶が正しいならここで丸前は距離を取って体勢を立て直すはずである。
彼にとって屈辱的な状況のはずが、その凶暴な笑みを崩していない。
そして、あり得ざる二撃目が打ち込まれる。
『え……!?』
エリスの表情と障壁魔術の強度が一瞬揺らぐ。
何度も何度も弾き飛ばしても、必ず剣撃になっている。
(冷静になってくれ……)
八朝達の取る戦い方においてエリスの障壁魔術は最も重要な部分となっている。
八朝は自分にも言い聞かせる形で相手の攻撃を注意深く観察する。
(エリス、依代の残渣が強いな)
(だよね。 ふーちゃんがあまり能力を使って……)
双方ここで丸前の無限攻撃のカラクリに気付く。
本当に刀がすっぽ抜けるたびに霧にして回収し、再び自分の手元に展開しているのである。
(エリス、奴の魔力切れまで耐えることは?)
(無理! あと3回が限界……!)
そう言っている間に1回目。
もう時間が無い……
①自分に凍結を掛けて、相手の『水を切る刀』を弾き飛ばす
②次の二撃目ですっぽ抜けた瞬間に凍結を発動させる
……いや、自分が『凍結』されていったい何があるというのだ?
『■■■!』
刀が弾き飛ばされるタイミングで、凍結の音波が刀を再構成させる霧を捉える。
結果として刀に成り切れず、凍った霧がパラパラと落ちていく。
『Pnizzh!
……Pnizzh! Pnizzh!』
丸前が固有名を何度も唱えても刀が再展開されない。
『これは一体何が起きたのですか!?』
『ええ、八朝が依代に必要な外部魔力を文字通り凍らせました』
『これは痛い! 数秒間相手は能力を発動できない!』
いつの間にかMCと組んで解説まで始められる。
人権も何も競走馬のそれと変わらんな、と八朝が心の中で愚痴る。
そう言えば、自分の状態異常は幾つ使えるのか?
ざっと数秒間考えてみる。
『相殺』『凍結』『■■』『拘束』『使用不能』
『鈍足』『使用不能』『火傷』『■■』『睡眠』
『毒』『■■』『呪詛』『使用不能』『混乱』
『使用不能』『麻痺』『気絶』『使用不能』『転倒』
『使用不能』『■■』
「どこ見てんだ亡霊!!」
再び刀を取り戻した丸前が吠える。
そう言えばどちらか先に転倒させればいいんだな?
『■■!』
まるで霧のように半透明で広大な敷き布が展開される。
その端を握って勢いよく引っ張ると、観戦していた生徒諸共丸前まで転倒させた。
『しょ……勝者は八朝風太!』
大方の予想に反していたらしく、歓声よりもブーイングの方が強かった。
「待て!! 戦いはまだ終わってない……!!」
丸前が刀を構え直して叫ぶ。
野次馬たちがそうだそうだと囃し立てる。
『こ……これ以上やったら本当に……!』
「うるせぇ! 化物擬きは黙ってろ!!」
「おい」
八朝が丸前を無視して、野次馬の一人に突っかかる。
それはエリスを『化物擬き』と罵った者であり、ノコノコとやってきた八朝を前にせせら笑う。
「何だ何だ?
俺は何も変なことは言ってないぞ?」
有無も言わさず依代を構える八朝。
「あー! たーすーけーてー!
攻撃力ゼロの雑魚にこーろーさーれーるー!」
「無視してんじゃねーぞ!!」
そんな彼らを無視して丸前が突撃してくる。
ふと、彼から不穏な言葉が漏れる。
「あ……どういうことだ?
まあいい、どっちも斬ればいいだけだ!」
「ま、待ってくれ! 俺は……!」
弁明しようとしたが上手くいかず、逃げようとした彼に猛烈な違和感が襲い掛かる。
丸前に気を取られているうちに『拘束』の巨大待針が足の甲に刺さっていた。
「まぁ、そういうことだ」
即ち、初めから八朝は自分ごと彼を切り裂いてもらうつもりだった。
そんな彼らの頭上から矢が落ちてくる。
「な……!
「がっ……!」
まるで毒でも浴びたかのように倒れ伏す。
この三人はそのまま保健室に運ばれていった。
続きます
……主人公の設定を見直した結果、夥しい量の誤字修正が発生したでござる(´・ω・)




