Case 03-4
2020年7月13日 Case 03より分割完了
2020年12月12日 ノベルアップ+版と内容同期
2021年4月21日 ノベルアップ+版と内容同期(二回目)
依頼者が忽然と姿を消した。
その一報を受けて八朝も町中を探し回る……
【同日23時00分 篠鶴駅前広場】
「八朝君! どうだった!?」
会うなり質問を投げる三刀坂に、首を振って見かけていない事を告げる。
それは三刀坂も同様であった。
溜息をつくには体力が足りず、荒い息を漏らす。
「一体、何があったんだ?」
「それがさ! 縁ちゃんに許してもらおうって寝室の扉開けたらだれもいなくて……」
慌てた様子で友人の消失現場を語る。
焦りが伝わり、互いに錯綜とした話を矢継ぎ早に語り合う始末。
肩で息をする頃に漸く正気に戻り始める。
即ち、『歳刑神による神隠し』が進行しつつある状況に
正気に戻った三刀坂が顔面蒼白になる。
「もしかして八朝君、万策尽きたなんて言わないよね……?」
「正直原因に関してはさっぱりだ」
「だが、他の手段がある」
エリスに魔力探査の妖精魔術を指示する。
だが、エリスに『サンプルが足りない』と一蹴される。
(いや……出来る筈だ!
二十二の呪いに変えられる俺に他人の依代ぐらい!)
八朝は意を決して神出来の固有名を口にする。
『Ghmkv……謌・繧医j陲ゅr蛻・°縺、 豎・縺ョ蜷・縺ッ■■ 陌夊ィ繧堤輔¥莠悟香莠後・蜻ェ縺・ケ・!』
部長から聞いた『発音』をアクセントに至るまで一致させる。
すると、霧になる筈だった依代が『鍵』の形に収束した。
八朝には見えなかったが、三刀坂がその様子を恐ろしい目で見守る。
『あっ、これで大丈夫かも!!』
「そうか、では頼んだ!」
八朝が掲げた鍵がエリスに吸い込まれる。
その瞬間に依代が壊わされた代償で卒倒する程の苦痛に襲われ、押さえている手に胃酸を吐き出す。
「大丈夫!?」
三刀坂は八朝に駆け寄って介抱する。
目線の焦点は合っていないが手を握ると握り返しており、完全に意識は失われていないらしい。
『大丈夫大丈夫!
ふうちゃんの気絶無効の後遺症は日々の睡眠も罰則も完璧に弾くからね』
「気絶無効!?」
唐突な言葉を咀嚼できず叫ぶように口にする。
漸く理解すると八朝が異能力者になってから一睡もしていないという異常事態に気付いて絶句する。
「……ぁ
心配、するな……それよりも、そろそろエリスが……」
言い切る前に握った方の手を振り切り、思いっきり頬を叩かれ、その衝撃で焦点が合う。
そんな八朝の視界に最初に映った光景は、三刀坂のあの嫌悪の表情であった。
だが近くで見ると涙が溜まっているのか目が赤くなっている。
「……八朝君
言ったよね、無茶はしないでって」
「そんな記憶は無いが、問題は無い
異能力の身体強化のお陰なのか特に不調は無い」
「そういう問題じゃない!!!」
立ち上がり、埃を払いながら説明する八朝を言葉で打ち据える。
俯いて表情が見えない三刀坂にかける言葉が見つからず、途方に暮れる。
「……鋭意努力する」
「絶対だからね」
友人とはいえ他人の生死に拘泥する三刀坂の意図を汲めず、曖昧に返してお茶を濁す。
この努力とは「無茶しない」ではなく「嘘にしない」ぐらいの面従腹背であった。
『よし!見つけたよ、依頼者は篠鶴市役所付近だよ!』
「ああ、これで……」
RAT画面に表示させた地図上で神出来の居場所を赤点で示したその瞬間、赤点が一瞬にして1.5km先の東水無瀬駅付近へと移動したのである。
「!? これって……」
「ああ、依頼者の能力だろうな」
扉を使わずに能力を行使した等の疑問は尽きないが、この動作は間違いなく空間移動能力の暴走状態であった。
それからも次々と反応が跳躍し、あとちょっとの所で神出来の姿が消え失せるのを繰り返し続けた。
「あとちょっとだったのに!」
「……」
走り慣れておらず、荒い口呼吸に頼った結果猛烈な喉の痛みに襲われ、残り少ない体力すら燃え尽きようとしている。
「こんな時に、法則性だけでも……分かれば!」
祈るように八朝が独り言を吐く。それがだれの耳にも届くことは無く、諦めかけようとしていた。
「これ、水星の魔方陣の順番通り、だねぇ」
後ろで聞き覚えのある間抜けな応答が届く。振り向くと天ヶ井(姉)が軽く空虚なノリで「よっ」と声を掛けてくる。
目をこすってもそんな幻覚が消えない。脳がクスリか何かと同等の苦痛を受けてぶっ壊れたらしい。
「八朝君、その人誰なの?」
「うん? わたしは、ふうちゃんのお姉ちゃんの天ヶ井咲良だよ」
「ふうちゃん?」
三刀坂は不穏な声音で聞き慣れない言葉を復唱する。
八朝がRATを捕まえて指で示してやると、三刀坂は得心がいったように両手を叩く。
どうでも良いが、八朝「風」太でふうちゃん、であるらしい。
「水星の魔方陣ってどういう事だ?」
「んー? じゃあ、次ワープしてくる所、当ててあげる」
八朝から投げ渡されたRATを受け止め、画面をフリックすることで場所と移動方向を示す。
天ヶ井(姉)は抑川旧河口から北東方向を予言する。
半信半疑で天ヶ井(姉)の予言を見守る二人の視線の中、またも消失した反応が抑川旧河口ドンピシャで姿を現す。
息を呑む暇もなく赤点がじりじりと動き始める。その方向も予言通りだった。
「どうしたの? そんな顔して」
「……いや、何でもない」
魔方陣が縦横斜めに加算しても同じ数になる2次元配列である事は八朝も把握している。だが「水星の」と付いた魔方陣は聞いた事が無い。
それは三刀坂も同様であり、いまいち要領を得ない顔をする。
その様子を知ってか知らずか、天ヶ井(姉)は鞄からスケッチブックと地図を取り出して作図し始める。
八朝達に8×8のマス目の中に40以降の数字が書かれたトレーシングペーパーを篠鶴市の地図に重ねたものを見せる。
「それでね、次は56だから、ここ」
そこは神出来縁の家にほど近い南篠鶴地区であった。そしてRATの画面にある赤点も同じ場所にワープしてきた。
『えっ!? なんでなんで、どうして?』
「じりじりする方の距離がいっしょだったから、大きさはこのぐらい。で、動き方のパターンから魔方陣の順番っぽいなーって」
今度こそ八朝も三刀坂も絶句した。
気の抜けた言動に似合わず、名探偵の如く居場所を突き止めていく天ヶ井(姉)に頼もしさを感じ始めるとは思わなかったからである。
「……仮にこれが正しいならば、目的地は」
「うん、そうだねー」
八朝が指先したのは64のマス。
透かして見える場所は現在地の篠鶴駅から北北東に2km強、即ち水無瀬海岸付近である。
「ありがとう、助かった! 今度何かお礼する」
「急ごう、八朝君!」
「それとこれね」
天ヶ井(姉)から手渡されたのは、トランペットを吹く天使の図柄が上下逆のカード。
即ち審判の逆位置である。
裏面にはまるで見透かしたように『今日のお仕事の注意報だよ』のメモが挟まれていた。
「ああ、気を付ける!」
短く首肯して駅の改札に走り始める。
23時といえば終電間際であり、電車でない限り神出来に追いつかない事から一刻も争う。
「がんばってねー」
天ヶ井(姉)は気の抜けた声と、やる気のない手振りで二人を見送った。
続きます




