Case 30-0-3:Root A END3
2020年10月13日 完成
Case29-5-3から続いてますので、そちらに分岐した方からお読みください
【7月某日 篠鶴学園高等部・第二異能部室】
あの事件より丸1ヶ月以上経過した夏の日。
学園もすっかり様変わりしてしまった。
『天使の石』事件。
公式発表された死者数は681人とミチザネ襲来の1029人に匹敵する大災害となった。
八朝のクラスも凡そ4人に1人が死んでおり、空席が目立っていた。
それが原因かどうかは不明であるが次学期にクラスの再編が為される。
席を立っていつもの部室に行こうとした八朝がふと後ろの席を見る。
花瓶が一つ……あの事件は鹿室の命も摺り潰してしまったのである。
(……)
この感傷すらもクラス再編で無かったことになるのが心苦しい。
だが、自分以外のクラスメイトが失ったものを比べれば、こうやってリセットした方が良いのかもしれない。
「八朝君、今日も部活?」
「まぁ、そんなところだ」
三刀坂に話しかけられて感傷を奥に引っ込める。
今、彼女は復活した陸上部で、それまでの功績が評価され公式大会への出場第一号として選ばれるに至った。
彼女の幸せに泥を塗るわけにはいかない。
「今日は特に頑張ってね」
「……?」
「うん、じゃあ今日も『太陽喫茶』で待ってるから!」
三刀坂とは『天使の石』事件以来交際をスタートさせた。
何故かいつもデート場所に太陽喫茶が選ばれる……訳が分からない。
今はそんな事を考える暇はなく、簡易に挨拶をして部室へと急ぐ。
部室は更に静かであった。
前の部員たちは全員ミチザネ襲来事件で命を落とし、集め直したメンバーも鹿室の死亡と曲橋の行方不明という手痛し損失があった。
だが、彼らが残したものもあった。
別名『部活後見人』と呼ばれる協力者たちの存在である。
鹿室が苦心して集め、それを見かねた飯綱が協力することで実現した事実上の部活再建であった。
これによって三刀坂達も陸上部が復活し、先日この部室から去っていった。
来るかどうかも分からない比婆を無視すればアクティブな人数は八朝一人しか存在しない。
(さて、そろそろ部員集めないとな)
いくら『部活後見人』があるとはいえ、流石に最低人数を割ることは許されない。
三刀坂の手前、このまま第二異能部を潰すわけにはいかなかった。
(とは言うが、本日の依頼と並行でこなさないとな……)
今日は能力鑑定が数人ぐらい。
実はこれも三刀坂の口コミによって齎された者達である、もう頭が上がらない。
いつも通りに処理すれば問題は無い。
「失礼しまーす!」
「どうぞ」
一人目は石柱を操る能力を持った1年の異能力者であった。
相談内容は『突然能力が上手く使えなくなった』というこの学園においては死活問題となるものであった。
早速エリスの残した分析魔術と、彼の証言からどういった能力像だったか突き詰める。
地面に手を触れる事で発動し、石柱の形状は六角柱、範囲内に大小様々な柱を生成し化物の移動を制限させる。
柱といっても火山活動、御柱、オベリスク、ロトの妻の伝承と一概に絞ることはできない。
移動制限という状態異常を考えればオベリスクのような結界と考えられなくもないが、絞り切れない。
「無茶を言ってしまうが、ここで使う事は?」
「無理だ!
そもそも、建物内では使うことが出来ない……いつも使えた筈の『道路上』でも駄目なんだ!」
「道路……」
道路で柱といえば電柱である。
無論、篠鶴市……もといこの世界での架電は早くから全て地中化されており、電柱が姿を現すことは無かった。
(成程……今まで使えたのは『ロゴスの大樹』によるものだったのか)
あの事件で砕け散った『ロゴスの大樹』の能力である『導入』で別世界……即ち八朝の元世界のような異世界の情報が齎されていた。
その弊害がまさか自分以外にも発生しているなんて夢にも思わなかった。
「依代は出せるか?」
「あ、ああ……」
固有名を唱えて依代を出させる。
即ち依代を改造し、八朝の世界のミームを共有させることで異能力を復活させようという荒業である。
これは一時期『異世界知識』の効力を失っていた八朝がそれを取り返す際に利用した方法でもある。
改造を完了させた後、学園橋前まで辰之中で移動し、実際に能力を発動させる。
「あ……ああああありがとうございます!」
「ん、まぁ復活して良かったな」
ちゃんと謝礼も頂き、依頼を終了させる。
彼の顔をどこかで見た事があるような気がしたが、今はどうでもいい。
二人目もほぼ同じ内容の依頼であった。
今度は『異能力の発動に必要な虹が出なくなった』との事である。
曰く、虹を出してそこまでジャンプし、それを引っ張る事で雷を番えて星を射落とすというものである。
これはアフリカのヤオ族に伝わる『虹の弓に稲妻の矢』の伝承そのままであった。
という事でここ最近火傷したかどうか聞いてみる。
この伝承は酋長が黒焦げになった事で虹の弓も稲妻の矢も失望した神に持ち去られたという結びとなっているからである。
「ええ、確か数日前に手鍋の持つところを火傷して……そういえば使えなくなったのも数日前」
今回は割と簡単な方であった。
対処法も『神話跨ぎ』となってしまうがある事を伝える。
「そもそもその矢は星を食べる為に使用するものなんだ
だから、その能力で撃ち落とした星を食べればいい、場所は最後に能力を使った場所が一番だ」
「それが何になるんですか?」
「その食べ物は能力の元ネタでその弓矢を持っていた神が食していた食べ物だ
まぁ、つまりはその星を食べる事で逆説的にその神になり代わる、という感じだ……ついでに火傷もしなくなる」
道中で神話の解説を行う。
そして件の場所で八朝が詠唱を唱える。
『我より袂を分かつ、汝の名は■
……今は呪いと為さず、汝の同胞を指し示せ』
依代が『花火筒』にならず霧散して周囲に散らばる。
こうすることで彼の能力で撃ち落としたであろう星を探し出すのである。
数秒で所在が見つかった。
「こ……この石を食べるんですか?」
「まぁ、まずは洗っておくか」
持ってきたミネラルウォーターの中に入れて洗い流す。
水に濡れた『星』は微妙にべた付く感触があった。
「……これ、砂糖で出来てるかも」
「え!?」
彼が『星』を受け取ると、恐る恐る観察した後思い切って口に放り込む。
しばらく味わうとどこか幸せそうに表情をほころばせる。
「甘い」
「そんな事もあるんだな……」
それはさておき、彼に異能力を使わせてみる。
すると虹が出現したどころか、いつもなら弓を引いた両手が腱鞘炎で動かせなくなるのに対し、全く痛くなくなったと喜ばれる。
そして三人目は、八朝が見知った顔であった。
「……お久しぶり、ですわ」
「」4月以来だな……どうかしたか?」
「正直に言いますわ
あの時の……疑ってしまって本当に申し訳ありませんでした」
頭を下げられる覚えは無かった。
折角能力を得たはずなのに、直ぐに無効になってしまう……それはどういう理由があれ八朝は自分の失態だと今も戒めている。
「……アレは俺のミスだ、別に気にしなくていい」
「そうもいきませんわよ!
今日貴方を呼んだのものこの為ですわ……ついでに言いますと早く帰る準備をしなさい!」
「え……!?
本当に一体どういうことだ!?」
「わ、私も知りませんことよ!
八朝風太に会ったらそのまま帰らせて、太陽喫茶っていうお店のテラスに来る事……って」
何か怪しいと思った。
だがこれ以上部活をする必要が無いので、その旨を告げて自分も早めの帰宅をすることにする。
道中が同じだったので、一か八かで話しかけてみる。
案外この子は気さくな人間なのかもしれないと思った。
「ええ、あなたには期待してますわ
私に新たな場所を用意してくれる人だって」
「……買いかぶり過ぎだ」
「嘘かどうかは着いてから直ぐに分かりますわ」
そして太陽喫茶に着くと、先客が合計6人ぐらいいた。
いない筈の神出来と三刀坂、そして先程依頼してきた男子学生二人と、知らない女子二人。
「あ、ようやく来たねキミ!」
「待っていましたよ、部長」
「部長……?」
何の事か把握できずに視線をさまよわせると、机の上に4枚の入部届があった。
曰く彼らは消滅した『掌藤親衛隊』の元メンバー、柚月の友人、そして八朝が4月以来で最初に助けた子という構成であった。
これに目を付けた神出来が彼らを説得したという。
『この部はキミら『掌藤親衛隊』を負かしたブレインがいるのよ
ここの所属してその知識奪ったら復讐とかできるんじゃない?』
『……』
『どうしてそう入らないなんて……』
『今の私では力不足ですわ……足手まといに……』
『そんなこと言うけど、彼もぶっちゃけあなたより弱いし、何なら1つ目にすら傷一つ与えられない能力なんだけど』
『えぇっ!?』
『正直貴方達は意外だったわ』
『そう言われてもねー
ウチら『後見人』が逃げちゃった部活だから、どっかに所属しなきゃって』
『誰でもいいって訳じゃないわ
あの天ヶ井さんが優しいっていつも言ってた彼ならって思って』
という顛末なのだという。
「さっきは能力復活サンキューな
まぁ、テメェをぶち殺すことには変わりないがなぁ!」
「勘弁してくれ」
「うーん……それされるとウチが食いっぱぐれるから覚悟してねー」
「上等だァ!
今すぐ俺の柱の餌にしてくれるわ!」
辰之中に潜り、戦闘が開始される。
それから外れたの頃の三人が「ここは穏便に」と口々に挨拶を交わす。
「で、何で神出来も居るんだ?」
「そりゃあ私たちもこっちに合流するからね、その懇親会って事で!」
「ちょ……!
大会は!?」
悲願の大会を無視した発言に八朝が動揺する。
「それね、私たちを見世物にするための大会だったから一時的に籍を戻して蹴って来たの」
「……だが」
「別に急いでも何にもならないからね
それはキミから教えられたことだから」
三刀坂がそう言って微笑みかける。
憑き物が取れたように明るくなって、何故かは知らないが涙がこみ上げる程である。
「……」
「だからこれからもよろしくね!」
「はいはーい
おしょくじー、よういしてきたよー」
咲良の間伸びた掛け声と、戦闘結果が同時に伝わる。
ボロボロにされた石柱使いが我先にと箸を構える混沌に皆が巻き込まれていく。
そうしてまた第二異能部が復活した。
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NORMALEND2 日常 - Usual
END
これにて本当にAルート終了でございます
……本来はこちらがGOODENDの予定でしたが
フラグを満たしていないのでNOLMALENDとしました
だが、GOODENDへの分岐は残してあります
余裕がある方は探してみるのもいいかもしれません
ヒントは『一方的』であります
さて、Aルートは三刀坂をメインヒロインとするものでありました
彼女は十死の諸力という犯罪者組織に変わり果てたシェルターに囚われていました
このお話は主人公がその悪しき繋がりを断つため奔走する物語でありました
故に主人公は大切な『情報』を失い続ける事となりました
実はAルートの筋書きだとあらゆるイベントが『手遅れ』となってしまいます
その理由もBルート以降で語られていくこととなります
何度も居場所を失い続けた彼女は、果たして本当の居場所を手に入れたのでしょうか?
それは皆さんのご想像にお任せいたします
それでは、Bルートもよろしくお願い致します




