Case 29-5-2
2020年10月12日 完成
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蘇った『本物』の正体は顕現級の転生体であった。
八朝は辛そうな三刀坂に代わり彼を殺すことに決める……
【5月20日12時39分 集合海・『ロゴスの大樹』】
『……ッ! ■■■!!』
心臓麻痺の状態異常を胸から取り出し、『本物』に向けて放つ。
そして、ほぼ同時に苦しみ始めた。
「ぐ……ッ!」
「八朝君!!」
余りにも苦しい。
呼吸も何も意味を為さない、触覚すら消え失せる程の熱感が心臓から無限に湧きだしてくる。
まるでそれが罰であるかのように八朝を苛む。
そうすれば、三刀坂だけでも救われると信じて、耐え続ける。
『……残念だけど、それは最悪の手だ』
「何……だと……!」
『時間切れだ』
<Accept>
<"Rain Boa" is Activated>
<"Δευκαλίων">
「これ……は……!」
『時間が無い……!』
八朝の状態異常を自力で破った『本物』。
驚愕する暇もなく八朝達を霧で囲い始める。
「そうか……お前は……!」
『キミ達だけでも生かす!
……涼音を頼んだよ、僕じゃない八朝君』
「待て……!」
更に霧が濃くなっていく。
その向こう側で大量の水が湧きだした音が聞こえ始める。
「八朝君!」
呼びかけに答えてくれない。
ああ、何という事だ……三刀坂が別れを告げる機会をこの手で奪ってしまった!
その表情を悟った三刀坂が八朝を抱きしめる。
「大丈夫……大丈夫だから……」
「すまん……」
■■の放つ『濃霧』が侵入してくる水の進路を迷わせ、八朝達へと浸水しないように阻む。
それでも捌く水の量が余りにも多くて少しずつ染み出してくる。
触れた所から魔力の気配が消えていく……ああ、間違いなくこれは篠鶴市を消滅させられる
「キミにはいっぱい助けてもらったね」
「……」
「だから、私もキミに恩返ししなくちゃね」
その必要は無い。
必要は無い筈……なのに、弱った心の隙間からある願いを抱いてしまう。
「一緒にエリスちゃん探そうね」
既に死んだはずの大切な隣人の名前を口にする。
最も彼女に言わせたくなかった言葉を聞いてしまい、八朝が涙を零す。
「大丈夫……キミがそうした様に、最後まで付き合ってあげるから!」
今までに見た事のない程の笑みに、益々心が苦しくなっていく。
こんな事の為に自分は頑張った訳では無い!
ただ、俺は三刀坂が前を向いて歩いてくれるよう彼女の願いを……
(……願い?)
その時点で既に間違えていた。
『本物』に別れを告げる、それが本当の願いかロクに確認した事無いのに、自分はそう信じ込んでしまった。
恐ろしい思い違いに八朝の心を満たしていた『悲嘆』が『絶望』へとすり替わる。
「……! …………!」
傍にいる三刀坂の声すら聞こえない。
もう既に水面が喉元まで迫ってくる。
「……!!」
ふと、消えゆく意識の最後で温もりを感じた。
誰のものかも分からない……ただ、無償で自分を守ろうとする暖かな感情に、本能的に縋る。
『キミが私にくれたもの……
今度は私がキミの記憶を信じる番だから』
『だから死なないで』
既に霧が消滅し、八朝達が水中に没する。
本能的に繋いだ手を離すまいと力を籠める。
気絶に耐える事ぐらいはこれまでやってきた事だ。
せめて、誰かもわからぬ彼女を一人にすまいと全ての力を籠める。
それから何時間経ったのだろうか。
いつの間にか水中の息苦しさから解放され、確かな地上の重力を感じる。
何故か眩しい。
ふと、それを覆う影のような何かが現れる。
『……生きてる!
■■■! 生存者二名!! 急げ!!!』
◆◇◆◇◆◇
使用者:三刀坂弘治
誕生日:7月10日
固有名 :Nzyuk
制御番号:Nom.140283
種別 :O・LUCIS
STR:1 MGI:5 DEX:5
BRK:5 CON:2 LUK:4
依代 :光
能力 :物質の光変換・保存
後遺症 :寿命のみ常人の10倍
備考:
光属性は火地風水に弱く、闇に強い
摩利支天真言を利用して『蜻蛉』を出現させている
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■■■■■■■ 29-a 決別 - Leave Taking
END
Case30-0-2(エンディング)に続きます




