Case 29-4
2020年10月12日 完成(1時間遅刻)
墓標の抹殺に成功し、彼による『天使の石』事件が終了した。
それでも通路の前に機関長が居座る以上、おいそれと戻ることはできない……
【5月20日12時18分 集合海・『ロゴスの大樹』】
「……これは」
残されたコンソールを操作すると、テキストファイルが開かれる。
そこには『自信を殺傷した事』そして『隠しプログラムの存在』が記述された墓標の伝言であった。
「……あの時部長に徴収された分から独自に集めたのか」
「お兄ちゃん……」
曰く、八朝達が負けた時の保険用として保管していたという。
確かに七不思議番外の『アルキオネの大魚』なら死人も生き返られるのかもしれない。
また、三刀坂にも伝言が残されていた。
彼女の……力ではなく『両親の死』を克服した心の強さを祝福する言葉で結ばれる。
「おにいちゃん……!」
それでも、彼の死から立ち上がるには余りにも早すぎる。
八朝が隠しプログラムを起動すると、コンソールの形が『赤い大魚』変化した。
「これって……『アルキオネの大魚』……なの?」
「分かるのか?」
「だってこれ『アルキオネの鱗』……」
よく見ると鱗状の模様がびっしりと張り付いている。
もう一度注意深く観察すると『アルキオネの大魚』が目を開きこちらを睨む。
「うわっ!?」
八朝が手を離した隙に大魚がするりと宙に泳ぐ。
彼らの周囲を何度もゆらりと周回する……何かを待ちわびるようにこちらを見つめ続ける。
「……これ、キミが集めたモノなんだよね」
「そうだな」
「……だったらキミが使うべきだと思う」
「いいのか?」
無言で首肯してくる。
だが、いくら願われても八朝が己の望みを託すことは無い。
『大魚』の尾に触れ、ある人物を願う。
すると『大魚』が姿を変え、そして一言発する。
『本当に僕で良かったのかい?』
「ああ、それが約束だったからな」
『本物』がこの世に蘇る……それと同時にエリスが蘇るチャンスを失う。
恐らく彼女もそれを望んだのだろう、悔いはない。
「八朝……君……?」
『ああ、お久しぶりだね涼音』
三刀坂が『本物』の手を握り、大粒涙を流す。
何とか泣き笑いまで落ち着けた所で思い出話に花を咲かせ始める。
「ねぇ、覚えてる……あの日の……」
『ああ、もちろんさ……』
お邪魔虫の八朝は、彼らの会話が届かぬ大樹の陰まで移動しようとする。
だが『本物』に呼び止められる。
「何か用か?」
『勿論さ、これはキミにしか無理だから』
意味深であるが、言いたい事は既に伝わっている。
その結果を知らせる表示が端末に出される。
「何……何言ってるの八朝君……?」
『……』
「お願い!
私、覚悟しに来たの……八朝君にお別れを言いに来たの……!」
手を離し、涙を拭い去る。
その表情に絆されたのか『本物』が八朝に確認を取る。
静かに首肯すると『本物』が告げる。
『もう涼音は僕がいなくても大丈夫なんだね』
「……うん」
『分かった
八朝君、その画面を涼音に見せてあげて』
「……」
三刀坂に『本物』のスキャン結果の画面を見せる。
……余りの驚愕に口を覆ってしまう。
「顕現……級……!?」
「ああ、コンソールの下にも書かれていた
アイツは『樹氷』のENIACの転生体だ」
『その通り
僕は『アルキオネの大魚』……即ち『ENIACの転生儀式』の為に生み出された存在さ』
曰く、あの『ロゴスの大樹』が元の遺体であり、魂を留置させるための用にしかならない遺体から復活する必要があった。
その為に必要なのは魂を生み出す『想念』と、顕現級に相応しい体の破片である『鱗』
即ち『アルキオネの大魚』とはそんな『故人を想う気持ち』を利用したものであった。
「……」
『もう分かっているよね?
篠鶴機関のセキュリティーも起動し始めた』
ホログラム画面が警告表示で埋め尽くされる。
けたたましく『大洪水』をコールし始める。
『八朝君……『大洪水』が篠鶴を消し去る前に僕を討伐するんだ』
「!?」
弾かれたように八朝を見つめる三刀坂。
その表情を読み取ることは出来ない……だが、あの時の確信が正しいなら彼女に殺人を犯させるわけにはいかない
それでも彼女の覚悟を……いや、それに託けて罪を重ねさせるのか……!?
俺は……
②『■■■』の心臓麻痺で『本物』を討伐する
③それでもまだ悩み続ける
続きます
そしてまたも分岐します




