Case 29-3-2
2020年10月11日 完成
2020年10月11日 誤字修正
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墓標の火の雨まで秒読みとなる。
先んじて彼の動きを止めるために■による『自爆』を狙う……
【5月20日11時50分 集合海・『ロゴスの大樹』】
『我と袂を分かつ、汝の名は『■■』!
■■■■■■■■■■■■■■■、二十二の呪いなり!』
そして何度も■■の名を叫ぶ。
蜻蛉の群れを真っ黒に染め上げていく。
「無駄だ!
我が『簒奪宮』はその程度の物量をものともしない!」
それはすでに知っていた。
彼の能力が相手からモノを『簒奪』し、任意の時・場所で解放できるなら、神出来のような『貯蔵庫』があって然るべきである。
「八朝君!」
「大丈夫だ! あれでもう奴は終わりだ!」
『……ッ!
Dwonj!』
墓標が血を吐くような表情でレーザーの雨を放つ。
同時に周囲に漂っていた■■もまとめて吸い込まれた。
本来であれば『光』を内包する蜻蛉達を一点に集め、核熱に匹敵する閃光で蒸発させてやりたかった。
だが、こんな身体を穴と火傷塗れにする『拷問』で彼らの命を終わらせてやりたくなかった。
そして、蜻蛉達が■■諸共細分化されたレーザーを吐き出そうと赤く複眼を輝かせ……
……輝かして、何も起きなかった。
どころか全ての蜻蛉が墜落したのである。
「な!? 馬鹿な!?」
「そりゃそうだ
『霧』とか『重力異常』みたいな『重いヤツ』を下すのが悪い」
「……眷属
まさか……!」
「ああ、情報を扱う奴は情報に踊らされては駄目だからな」
八朝が墓標の『簒奪』の種明かしを始める。
実際のところ、この能力は『盗み』に関係が無いことは判明していた。
それでも相手の所有物を奪っていくシステム……そこに『陽炎』が絡むなら一つしか存在しない。
これは『光信号』を利用した『データ通信』であると。
盗んだものを光の『信号』に変換し、蜻蛉の中に保持する。
その状態を全ての蜻蛉内にて闇属性電子魔術の『混同』で共有し、どの蜻蛉からでも再変換して取り出せるようにした。
そして、言うまでもなく蜻蛉の姿も、霧と同じくデータ量が大きい上級火属性電子魔術も『混同』によるブラフである。
「あの蜻蛉の中身は俺達を秒で蒸発させるに足る熱量が閉じ込められている、違うか?」
「……恐れ入った、我が眷属よ」
「ついでに言うと、これで終わりではない」
八朝に指摘されてようやく背後の気配に気づく。
八朝と瓜二つの……しかし、今しがた刀印を『頭』から離し、指先に黒雷を纏わせている。
『汝らの枝の重なりを贖罪の印と為す
『節制』に連なり現れよ『神の家』!』
それは『頭部麻痺』……即ち『意識消失』を引き起こす状態異常である。
直撃を受けた墓標は昏睡状態に陥り、その反動で八朝も『同じ状態異常』に苛まれる。
後は、『胸部麻痺』の心肺停止で決着である。
「八朝君!」
「……大丈夫だ、これも……4月の時に戻った……だけ……だ!」
そして八朝が再び■■を発動させる。
僅か5分で、墓標の無痛の臨終を完了させた。
「……」
「…………」
三刀坂が墓標の穏やかな死に様に耐えられず静かに八朝に泣きつく。
もしも、八朝でなく彼女が彼の命を奪う結果となれば、言うまでもなかった。
「……恨むなら、俺を恨んでくれ」
掛ける言葉が見つからない。
それも三刀坂が真に欲しかった言葉ではないことを知りながら……
続きます




