Case 29-1:『盗み』を操る能力Ⅱ
2020年10月10日 完成
2020年10月26日 誤字+タイトル修正
『暴動』、『創造神』、『篠鶴機関』……幾多の障害を排してついに墓標の元まで辿り着く。
説得にも応じず、時間すら稼げず、遂に八朝達は自らの力で彼を殺すことを決意する……
【5月20日11時30分 集合海・『ロゴスの大樹』】
戦況は防戦一方であった。
まず墓標は所持していた『伝令の石』の全てを蜻蛉に変えた。
最早悪霊の引き起こす砂嵐を思わせる蜻蛉の群れから横殴りの熱レーザーの雨が降り注いだ。
エリスの残した全力の障壁魔術がたった攻撃の1波だけしか凌げない始末である。
『■・■■■■■・■■■』
視界の端で陽炎が揺らめく地獄の中で、墓標はこちらを見据えて詠唱を続ける。
その言語は八朝達には聞き取ることはできなかった。
また、時折『伝令の石』の補給の為に攻撃の手が止むことがある。
何回かこのタイミングに出くわし、八朝達がタイミングを合わせる。
『■■!』
『『Isfjt!』』
八朝の鈍足付与によって弾数無制限となった鈍足散弾を連射する。
着弾した蜻蛉が落ちるのではなく閃光を放つ。
その光の中で墓標が歯を剥く。
「愚かな……我が白浪にそのような小細工は無用」
「そうだな、何せ俺が発砲しているからな」
「何!?」
ショットガンの重苦しい銃撃音が止み、壊れた蜻蛉が放つ逆光の覆いが無くなる。
その先で三刀坂と八朝が銃剣を構えていた。
「そうか! 眷属は確か依代模倣を……!」
「撃ぇッ!」
本命の三刀坂による機銃掃射を一身に浴びる。
八朝では実現できなかった甚大な直接ダメージと、最早骨をへし折る程の超重量が墓標に襲い掛かる。
砕けてきらきらと降りしきる蜻蛉の破片の向こう側で墓標が吠える。
「やるではないか……だが、甘い!」
墓標の姿が空の中へと溶け込むように消え去る。
同時に八朝達の後方から蜻蛉の群れが襲い掛かってくる。
『……ッ!
Isfjt!』
三刀坂が鈍足散弾を放つ。
それでも取りこぼした蜻蛉の数匹が彼女の体を貫いていき、被っていた帽子を消滅させる。
「忘れていないか、我が異能力の『簒奪』を」
そう、墓標には万物を蜻蛉の中に掠め取る異能力があった。
この力を利用し、上級火属性電子魔術のレーザーを吸わせ、敵の上空に配置した蜻蛉から放つ。
縦横無尽から破壊光線を放つ彼の異能力を『炎雨』と渾名をつける者もいた。
「大丈夫だ、帽子はいくらでも作り直せる」
「でもキミの依代の枠が……」
確かに今回の『簒奪』で八朝に残された依代の枠は残り3つ。
それを危機的状況と称するものがいれば、そうでないと言ってのける者もいた。
「何……2か月前に戻っただけだ
それよりも三刀坂は引き続き鈍足散弾を外し続けろ」
「……うん」
そして再び防戦へと戻る。
墓標が痺れを切らして思考を始める。
(おかしい……消耗戦であればこちらが圧倒的に有利である筈が、何故眷属たちは動かぬ)
八朝達は戦闘開始から一切動いていない。
にも拘らず『伝令の石』による無限の補給がある墓標相手に不利な防戦で挑み続けている。
であれば脂汗の一つでもかけばいいのに、八朝は表情を引き締めるだけでそれらしき兆候が見られない。
「汝等、そのままでは我にすり潰されるぞ?」
「それが目的じゃねーのか?」
「……もう良い、我が誓いにより汝らに死の安寧を!」
墓標が赤い光の蜻蛉……即ち異能力者を血だまりにする異能力を三匹放つ。
目にもとまらぬ速さで疾走する蜻蛉が、突如謎の空間の歪みに巻き込まれて砕け散る。
「何!?」
「……八朝君!」
「ああ! 畳み掛けろ!」
三刀坂が銃口を墓標……ではなく電子魔術の余波で陽炎が立ち込める明後日の方向に向ける。
そして、最大威力の機銃掃射を放つ。
「!?!?!?!?」
墓標の余裕顔が完全に崩される。
何故か、明後日の方向から放たれた機銃掃射の雨に対処しているからである。
(何故此処が……! 止むを得ん!)
墓標が虎の子の蜻蛉を放つ。
それはあの丸前の生み出した『ブラックホール』を簒奪した蜻蛉である。
銃弾をすべて吸い込む漆黒の穴が、展開するよりも早く再び謎の空間歪曲に巻き込まれて砕け散る。
「……ッ!」
切り替えて、蜻蛉の群れで機銃掃射を吸い込む。
だが、これは墓標が最も避けたい行為の一つであった。
(この銃弾は何故か『重過ぎる』! このままでは……!)
一転して翻弄される墓標の背後を、注意深く見守る影が一つあった。
これにて大詰めとなります
こんばんは、DappleKiln(斑々暖炉)でございます
のっけから彼ら大逆転してますね
無論、八朝君が墓標の異能力の正体を掴んだからです
彼の勝ち筋として『相手の異能力の看破』と『それによるメタ連発』+『仲間強化』
はい、言うまでもなくチートでございます
今回は3分岐しますので、心行くまでお楽しみください
それでは引き続きよろしくお願いいたします。




