Case 28-5
2020年10月10日 完成
エリスが残した電子魔術を利用して闇を破壊する。
そして目的の『ロゴスの大樹』と『墓標』の姿を確認した……
【5月20日11時21分 集合海・『ロゴスの大樹』】
『ロゴスの大樹』と、演壇型のコンソールと、無数に表示される中継ホログラム画面。
八朝達に気付いたのか、人影がこちらへ振り向いてくる。
「久しいな、我が眷属よ」
「……」
あの時と……神出来の事件の時に助言を求めたあの時と一切変わらない口調で語り掛ける。
それでも、彼がやったことを考慮すれば言葉を無くす程の隔絶を感じざるを得ない。
だが、ここで時間を稼がなければ自分が処断しなければならない。
「そして改めて息災で何よりだ、我が妹よ」
「お兄ちゃん……どうして……?」
「何故分からぬ……これは我の復讐だ
我が眷属と妹以外の異能力者を殺し尽くし、機関長を終わらぬ絶望へと閉じ込める」
三刀坂も彼がもう手遅れだと悟り、閉口してしまう。
続いて八朝が呼びかける番となる。
「……正直、そこまでする必要はあるのか?」
「無論」
「……ッ!
…………俺等以外の異能力者って事は、神出来もって訳だろうな」
「無論
だがこの場に至れなかった事が悔やまれる……彼女も妹の理解者であったのに」
墓標が本気で憐れんでいるのか、沈痛な面持ちを見せる。
だが、秒で決意の表情へと戻したことで、八朝達は彼の言葉が徐々に信じられなくなっていく。
「我は復讐の為に篠鶴市の全異能力者を投棄する
そして、更地となった篠鶴市をこの大樹の力で再建する」
まるで神霊や高位存在が現界の際に身に纏う後光の如き眩い白を放つ『ロゴスの大樹』。
この大樹が八朝の異能力と性質が近しいというのであれば、所持する権能の内容も容易に推察が可能である。
『異世界の法則』を導入し、この世界の法則を作り替える。
「寝言は……寝てから言うがよい墓標よ!」
「な……」
この場にもう一人の乱入者が現れる。
篠鶴機関の長……即ち飯綱を殺してここまで至った金牛明彦である。
八朝達以上に墓標の顔が険しくなる。
「その傷でどう我に抗おうというのだ、ヤブ医者」
「お前に教える義理は……無い!」
再び時空潮汐の空間歪曲が全てを包み込む。
チャージ時間が八朝達と戦った時の倍以上……この空間諸共粉砕する算段なのだろう。
だが、墓標の表情が笑みの方向に歪む。
『Καὶ ὁ τρίτος ἐξέχεεν τὴν φιάλην αὐτοῦ εἰς τοὺς ποταμοὺς καὶ τὰς πηγὰς τῶν ὑδάτων, καὶ ἐγένετο αἷμα.』
十死の諸力の幹部が一人ずつ持つ電子魔術の秘奥。
その詠唱とチャージが同時に終了し、眩い光が放出される。
全てが終わった先の風景で、機関長だけが膝を屈していた。
「何を……し……ァ!」
機関長の四肢は痙攣するばかりで力が全く入っていない。
懐中時計を握り締める手を中心に火傷の発赤が夥しく広がっている。
「お前に教える義理はない」
意趣返しを終えても彼の表情は一切晴れていない。
無論、これが復讐の果てでも何でもないからである。
「……潮汐対象を変えたな?
さしずめ『原初の渦巻き』の属性を割り込ませて掴ませたって所だろ?」
それは『王冠』に照応されるこの世界の星辰であり、天地を回す『時』の本性である。
一説によれば恒星天の星光の正体は天に開けられた『穴』であるとされる。
その向こうから放たれる光こそが『原初の渦巻き』であり、『創世記』で最初に放たれた光熱が今も宇宙を焼いている。
その光に触れた機関長は蝋の翼を溶かされたイカロスの如く永遠の苦痛に囚われる。
まさしく彼の『公約』通りの姿であった。
「……流石は我が眷属
我の闇属性電子魔術の真意は『混同』
汝が最も得意とする『異世界知識』そのものである」
それは八朝に良い知らせと悪い知らせを告げる宣告であった。
即ちこのホログラフに映る外の人間を一瞬で殺す手段を持っていること、そして……
「ふざけ……る……な!
『ミーム』の制約なしにあの大樹を……!」
「何を言っているんだ?
こうすればいいだけでしょう」
再び『闇属性電子魔術』の閃光が迸る。
再び見えるようになった視界の中でホログラフの画面が血の赤で染まっていた。
そして機関長が懐中時計の竜頭を押さえていた筈の親指が解けて血がべったりと盤面に張り付く。
「な……な……!」
「『溶かされた』ではなく『自ら溶けた』のだ、これで『不特定多数』の『模倣』……即ち『ミーム』が成立する」
「……『伝令の石』にそのブラックボックスを仕掛けていたのか」
それはエリスが何度か言っていた危険性であった。
何のプログラムが動いているのか分からないアイテムが怖い、確かにこれは怖いどころの話ではなかった。
「お兄ちゃん……最後に聞かせて」
「……」
「私も八朝君も異能力者だよ……私達も殺すの?」
それは墓標の根幹に巣食っていた矛盾を指摘する内容であった。
珍しく考え込むような態度を『数秒』続けただけで、彼らの真意を踏み躙る言葉を言い放つ。
「無論、殺す」
「八朝君!」
「ああ!」
漸く戦闘態勢に入った三刀坂に応えるように依代を展開する。
それを見た墓標が一瞬穏やかな表情を見せた後、再び残酷な決意を口にする。
「来るがいい、我が最愛の家族たちよ
せめて、痛みも苦しみも感じられぬ那の間に葬って呉れよう」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
DATA_LOST
■■■■■■■■ ■■■
■■■■■■■ 28-a ロゴスの大樹 - Yetzirah
END
これにてCase28、『墓標との対面』回を終了いたします
あと2話になります
駆け足になりますが、これにて彼らの物語も終幕です
どういう風に転がるでしょうか
次回は『決着』
貴方はどの未来が掴めるでしょうか?




