Case 28-4
2020年10月9日 完成
飯綱の加勢で先を進む八朝達。
階段の先に待つ『ロゴスの大樹』へ無我夢中で突き進む……
【5月20日11時09分 ■■■■最下層・『マナの複合構造体』】
階段の先は只管闇だけしか無かった。
どれだけ下ったか、もう飯綱達の戦闘音すらはるか遠くになったころ、もはや目の前すら見通せなくなる。
階段を下るというよりも闇の中を突き進むといった状態になっていく。
ふと、ポケットの中身の振動に気付く。
取り出して、端末の光で照らそうとしても三刀坂以外何も無かった。
端末にはマスターからの通話を示す表示が為されていた。
スピーカーモードにして通話を開始する。
『お前、一体どこに居やがってんだ……
さっきまで一切繋がらなかったんだぞ』
珍しく慌てた様子のマスターである。
漏れ出てくる雑音から、彼が学園での暴動の対処に当たっている事を表していた。
「マスター、俺も三刀坂も大丈夫だ」
『その言葉にはいそうですかと流してやるほど俺は馬鹿じゃねぇ……
あの飯綱……嘘の予定を流しやがったな』
完全にお見通しであった。
だから彼の足止めをするためにもある『確認』をする。
「鹿室は?」
『……』
「だろうな
ついさっき彼の首だけの死体を見つけた所だからな」
マスターが絶句する。
彼らの為にも隠していた事の漏洩以上に、八朝の『死体慣れ』に言葉を失くしてしまう。
「予定とは違うが、俺らはこれから墓標を……」
『殺す、とは言ってくれるなよ』
マスターの厳しそうで、何故か人を気遣う様な柔らかな口調が届けられる。
八朝もこれ以上何も言えなくなってしまった。
『1時間だ
それまで何とか耐え切れ、そしたら俺たちが……』
「俺もマスターが罪を犯すところを見たくはない」
『馬鹿野郎……それが俺の仕事だ、勝手に取るんじゃねぇ』
そして通話が終了した。
今まで黙っていた三刀坂が心配そうに声を掛ける。
「どうする?
マスターさんの言った通り待ってみる?」
「……駄目だ、間に合わない」
間違いなく今回の学園での暴動と墓標は無関係の筈である。
だが、事態としては学園に篠鶴市中の異能力者が集まる格好となり、これ以上のチャンスは存在しない。
一刻も……いや四半刻すら猶予が無い。
「でも大丈夫?
柚月ちゃんですら……」
「……」
八朝は実のところ死そのものには慣れていない……無関係の人間の死に興味が無いだけである。
しかも今回は三刀坂の唯一の家族である。
一番苦しいのは心配してくれる三刀坂の方であった。
「三刀坂の方こそ大丈夫なのか?」
沈黙が答えであった。
結局のところ、この場で墓標を止められる人間は一人もいないのである。
「そうか……じゃあ三刀坂が俺を止める為にも聞いてくれ」
そう言って八朝が『墓標の殺し方』を語り始める。
それは八朝が記憶遡行の頭痛を得た事で真実となった墓標の異能力の全てでもあった。
「正直俺がやれば相打ちでしか殺せない
だが、奴が取り返しのつかないことをする前に止められる人間は俺らしかない」
八朝は皆まで言わなくても伝わる決意を口にする。
それに対して三刀坂は閉口し続け、真実を覆い隠す。
「……弘治が説得に応じてくれると良いんだけどな」
そんな夢物語みたいな妄言を呟くしかない。
だがそんな事をしてもこの暗闇から抜ける事は無い。
「ねぇ……本当に『ロゴスの大樹』に近づいてるの?」
「その筈だが、おかしい……」
そもそもこの場所が何なのか全く分からない。
まるで目を瞑って『渡れずの横断歩道』を突き進んでいるような違和感である。
そんな感じの印象を抱いた途端八朝の端末が異常な発光を始める。
「なにこれ……画面が……!」
三刀坂が余りの光に目を押さえて苦しんでいる。
ふと、八朝が地面の異変に気付く。
丸く照らされた場所に、影の黒で何かの文様が描かれている。
外層は戌亥・子丑と十二支が2組ずつ六隅に置かれ
中層には『甲乙丙丁』に代表される十干の文字、但し甲だけ『果』に変更されていた。
そして中央には三本足の鳥が映っていた。
「……ッ!
■■!」
八朝が端末を置き、弓矢を出して鳥に向かって矢を9回放つ。
その九回目で闇が砕け散った。
「え……何したの!?」
「分からん……だがあの紋様通りの事をしただけだ」
それは地支を文字通り亡き者とする『空亡』と、十の太陽を射落とした『后羿』の逸話の再現。
奇しくも『六十花甲子』を無効化する儀式であった。
闇の代わりに現れたのは一面の青と、すぐ傍でで天を覆うほど広大な枝を広げる白光の大樹。
そして、墓標の姿があった。
次でCase28が終了します




