Case 28-2
2020年10月8日 完成
ダンジョンの先に広がっていたのは辰之中と瓜二つの迷宮。
『ロゴスの大樹』へ向かう車内で多少の会話を交わし、そして目的地直前に篠鶴市で最強の異能力者が立ち塞がる。
【5月20日10時31分 辰之中・『月の館』付近】
「待っていたぞ、八朝風太」
「……ッ!」
三刀坂……ひいては墓標から家族を奪った機関長が立ち塞がる。
だが、彼は彼女の憎悪の念を敢えて無視し続ける。
「ここより逃げ出したイレギュラー、アイリスの置き土産、そしてあの第二異能部に所属せし……」
「それが一体どうした?」
「お前をこの先に通すわけにはいかない」
機関長が依代の懐中時計を握り締める。
その瞬間に人差し指から空間を捻じ曲げる程の燐光が灯る。
『Ghmkv!』
『Isfjt!』
三刀坂は八朝以上に、この状況が絶望的なものと認識している。
あの指先の光が……両親はおろか両親の研究仲間諸共灰すら残さず消滅させた破滅の光そのものである。
「気迫は買おう
平素であればお前達を我らの組織へと迎える用意はあるが、知り過ぎた」
ストップウォッチのように竜頭を押し込む。
それがまるで拳銃の撃鉄を起こすような異様な音を響かせる。
『断層解放 第九射撃!』
固有の詠唱から、燐光がまるで雷に押されたかのような急加速を引き起こす。
まさしく銃撃の如き神速の熱空気弾と、その反応に間に合った三刀坂の散弾が激突する。
そして燐光が地面へと叩き落される。
「む……」
予想外の事象に思わず機関長が呻く。
本来守るべき塵芥のような市民二人に、己の攻撃が無効化されるのは傍目から見ても異常事態であった。
「八朝君!」
「ああ……いける! ■!」
八朝の幻惑によって三刀坂が数人に見え始める。
絶え間ない散弾の波状攻撃を、まるで知っているかのように躱し続ける。
「愚かな
お前らの攻撃は我が『時空潮汐』の停滞した時の中で全て見通した」
そして、更なる詠唱を重ねる。
『連動型・断層解放 第九射撃!』
指先から秒間10発の機銃掃射が八朝達に襲い掛かる。
『■■!』
八朝が黒霧による視界制限で支援する。
だが寸毫で間に合わず、輪が次々と撃ち落とされる。
「……ッ! あああああ!!」
八朝が三刀坂に遅れて『月の館』の外の建物の陰に隠れる。
その外壁を機関長の機銃掃射が削り取っていく。
「成程……ではその外壁ごと破壊する!」
壁越しに謎の違和感が襲い掛かる。
その間僅か数秒……壁の向こう側の機関長の姿が揺らめき続ける謎の異空間が指先の一点に集まる。
そして激しい閃光が閉じた瞼を真っ赤に焼き尽くす。
『断層装填 第五射撃!』
先程の数十倍の威力の破壊の嵐が外壁を叩きつける。
恐らく数秒もしないうちに破壊しつくされ、八朝達も挽肉になるであろう、そんな銃撃の暴風雨である。
だが、八朝は勝利を確信していた。
『■■! ■■!』
「くどい!」
勝利を確信した機関長の猛りが、今頃八朝達を打ち砕いているだろうと確信する。
土煙が晴れた先に……彼らの姿が血の一滴すら存在していなかった。
「何!?」
そこに死角からの三刀坂の鈍足散弾をモロに食らう。
事態を飲み込まないまま、目の前のいつの間にか帽子をかぶっている彼女に指先を向ける。
『第五射撃 余剰解放!』
鉄の嵐を引き起こす筈のエネルギー弾の乱舞が、三刀坂はおろかその周囲にも当たらない程に照準が荒れ狂う。
「馬鹿な!?」
「そうだな、普通はあり得ない」
八朝の気配を感じて第九射撃を発動させる。
だがその弾を三刀坂が横合いから撃ち落とす。
「そろそろ宙に浮く頃合いか」
三刀坂の変化した異能力の後遺症を言い当てる。
そして機関長が狙いを三刀坂に変える。
『断層解放 第八射撃!』
断続的な3点射撃を三刀坂に向ける。
しかし、一向に彼女の身体が浮いてこない。
「何をした!」
「教えることはできない!
だが、一人で戦おうとするお前には到底不可能な芸当だ!」
未だ奇跡的に優勢を誇る八朝達が畳みかける。
機関長が真の力を見せるまでに倒し、墓標への余力を残さなければならない。
『……ッ!
断層充填 第四射撃!』
「■■!」
続きます




