Case 28-1:時空潮汐力を操る能力
2020年10月8日 完成
マスターが篠鶴機関の重鎮と明かし、八朝達に力を貸すと約束する。
その予定が狂い、学園内で『墓標』由来の暴動が起きてしまう。
『創造神』からの妨害を振り切り八朝と三刀坂が真の最深部へと到着する。
【5月20日10時01分 篠鶴地下遺跡群最深部・辰之中】
「これって……辰之中……?」
八朝達を出迎えたのは壁の蛍石が碧色に照らす星月夜であった。
見下ろすと篠鶴・抑川地区の地形と建物の位置及び形が完全一致する配置。
だがしかし、月の館のある西水瀬地区のみ何も存在していない。
そして、夥しい数の『人影』が徘徊する文字通りの異界であった。
「前見た時は人なんぞ居なかった筈だ」
八朝があの時のことを思い返す。
生き残る事に必死だったが故に見落としていた可能性があるものの、記憶と違う風景への違和感が拭い去れない。
学園へと通じる塔を最後まで下ると、冠水した廊下が彼らを出迎える。
(……そういえば『本物』は俺の事を『辰之中でのアバター』だと言ってたな)
それ以上は話が繋がらない。
色々と目の前の風景を精査する前に急ぐべき場所があった。
「どこに『ロゴスの大樹』が……」
「多分だが、ここで唯一再現されていない『月の館』周辺が怪しい」
三刀坂も納得したのか首肯する。
だが学園から直線距離2km以上の『月の館』へどうやって行くのか八朝が想像できず頭を抱える。
すると学園の出口に地上では見当たらない謎の東屋が見える。
「これって何だろ……路面電車とか?」
「多分休憩所だな
仕方がない、歩いて行くしか……」
すると東屋に向かって路面電車が接近してきた。
驚くのも束の間、三刀坂が手を引いて発車直前のタイミングで乗り込む。
「これで楽できるかも!」
三刀坂が歩き詰めで疲れた体を座らせる。
車窓を見ると建物を無視した軌道によりトンネルが連続する退屈な光景が垂れ流しになる。
「弘治は確かに言動は変だったが、ここまでの事をやらかすとは到底思えない」
八朝は改めて自分のスタンスを呟く。
彼を幼い時から知っている三刀坂は同意できないのか黙り込む。
「お兄ちゃんってどんな人だったの?」
「……部長と比肩し得る程の切れ者で、何よりも異能力を心底から愛してた奴だった」
全て致命的に違っていた。
あの事件からすれ違った10年弱の間に、両者は理解を拒むほどに成長しきったのである。
「お兄ちゃんの件が終わったらキミはどうするの?」
「俺は……」
何かを言いかけようとして、発音が空を切る。
『本物』の居場所を見つけた昨夜に誓った『三刀坂に本物と合わせる』が、余りにも短期的過ぎたのである。
もう八朝には遙遠な目標となる『記憶遡行』……それを必要とする『エリス』が存在しない。
「どうしたの?」
「……いや、終わったら『本物』探しだな
幸いにも居場所を見つけてな」
「え!?
本当なの!」
三刀坂が八朝の話題に食らいつく。
その姿勢が彼に『三刀坂に必要なのはやはり本物だ』という確信を強くさせる。
「安心しろ、ごく身近な場所だった
ついでに言うとあの暴動からも離れているから大丈夫だ」
「良かった……」
三刀坂が安堵の溜息と、思わず涙まで零してしまう。
思わずその頭を撫でようとして、身体が硬直する……
やはりこれは『本物』が……
「しないの?」
「え……?」
「いや、だってキミ撫でたそうな顔してるし」
「顔って……」
「うん、別に我慢しなくていいと思う
ここ誰もいないし、私も別に嫌じゃないし……」
最後の方掠れて聞こえづらい彼女の返答に答えるように頭を撫で始める。
いつもと違う感触に、何故か困惑する。
「うーん……何か変な感じかも」
「ああ、それじゃあ」
「あ、別に止めなくていいよ」
その時間にして1分も満たない間であったが、何故かその十倍以上の長さとして感じた。
「私はこれが終わったらね……」
「ああ」
「……やっぱ何もないや
こんなところもお揃いだね」
寂しそうな顔をする三刀坂とは裏腹に、八朝がその手を放す。
だが何かを決意したのか、一瞬にして活力に満ちた顔に戻る。
「大丈夫! キミのその悩み、ここで晴らしてあげるから!」
主語が無い呼びかけに八朝は何も返せない。
やがて車内アナウンスが『月の館』に着いた事を告げる。
路面電車から降りると本当に何もない、まるで湖の真ん中にいるような違和感が彼らを出迎える。
「待っていたぞ、八朝風太」
そして、ここに居ない筈の篠鶴機関長……金牛明彦が地下への階段の入り口を阻んでいた。
こんばんは、Dapllekiln(斑々暖炉)でございます
Aルートも残り3話(Case29、30)のみとなりました
今回登場するのは■■■ですね
Case14ぐらいでアルキオネ級を倒したあの人です
それではよろしくお願いいたします




