Case 27-4
2020年10月6日 完成
2020年10月7日 誤字修正
ほんのすぐ隣に探していた『本物』がいたことを明かされる。
更にエリスの遺言に触れて決意を固めるのであった。
【5月20日8時45分 篠鶴学園高等部・教室】
作戦概要によると状況開始は明日の12時。
八朝達が墓標を倒しに行く裏で、彼らの支援をしている筈のSection_Iの職員たちが機関長を倒すという手筈である。
残された1日はせめて普通に生活したいなと三刀坂と駄弁る。
予鈴が鳴って1限目の授業の準備をしろとせかされる。
「あれ、まだ45分だよね……」
「早くない?」
教室中でひそひそ話が始まる。
確かに篠鶴学園での予鈴は開始の5分前……いくらなんでも早すぎる。
「八朝君……そういえば聞きたい事があるけど」
「何だ?」
「この教室って割合低位階の異能力者が多いよね
……部活の内申点も課題を手伝ってくれる人も無いのにちょっと気楽過ぎない?」
そういえばあの異世界らしき所から帰った前後で教室の雰囲気が違うとは感じていた。
単に鹿室の斡旋が上手く行っているのだろうと思って、当の本人に確認する。
「え……何言ってるのですか?」
「いや、部活の存続の件もう進んでいるのだろって」
「確かに進んでますけど、まだ割り当てが決まって無くて公表してませんよ」
それを聞いた八朝と三刀坂が固まってしまう。
鹿室も彼らの異様な反応に困惑の表情を浮かべる。
「どうしたのですか?」
「いや……俺らが通路の先に言った前と後で教室が明るくなったなって……」
「そうですけ……確かに
でも、まあ喜ばしい事だと思いますね」
「でも部活無いんでしょ?
課題の締め切りが近いのに、協力者は?」
三刀坂の指摘に鹿室がようやく気付く。
この学園の何割かが墓標側に付いた可能性に。
それでも、同じクラスの仲間として彼らを信じたい気持ちが口をついて出てくる。
「あり得ないです
いくら袋小路だからといって十死の諸力ですらない『彼』に与する程馬鹿じゃないと思います」
「そうは思わん……だがこの学園内に『首無し』のまま動いている何かがあるとしたら……?」
果たして八朝の陰謀論は真実のものとなった。
放送を告げる音が鳴り響き、墓標の声が響いて来たのである。
『おはよう、搾取されし諸君
だが、汝らが我等『新生異能部』に忠誠を誓うというのであれば
汝らに配りし『赤き石』を掲げよ』
その放送と共にクラスの半数ぐらいの人間が片手を挙げる。
隣にいた同胞を驚愕させる程に、決意に歪んだ面持ちがスピーカーの方へ向けられる。
『汝らは今より強者となる
『赤き石』に秘されし『力の言葉』を叫べ
汝らは真実の姿へと回帰する
そして、汝らを搾取せし強者
汝らを閉じ込めるこの町の腐り果てた為政者たち
即ち、汝らの隣人を殺し尽くせ』
「アンゲルス・リシオン」
「アンゲルス・リシオン」
「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」「アンゲルス・リシオン」
割れんばかりの声が聞こえる。
色んな人が強すぎる圧の声に耳を塞ぐ……そうしなければ精神がやられる。
「三刀坂! 鹿室!」
果たしてどういう意図なのか八朝が二人の名を叫ぶ。
三刀坂は八朝と共に教室のドアへと向かい、鹿室が無数の『赤い石』を睨んでそれ以外のクラスメートたちを庇う。
「鹿室!?」
「君達は急げ!
ここは僕が……!」
その言葉と共に教室内が種々の轟音で粉砕される。
断続する破壊音が戦闘開始を告げる。
「な……何が起きているんですか!?」
本来1限目をする筈であった教師が廊下で立ち尽くしている。
今は彼に構う暇すらない。
「先生も安全な場所に逃げてください!」
「君達はどうするつもりだ!?」
「生き残ったら報告する!」
八朝達が廊下を全速力で進み始める。
教室ごとに吹き飛ばされた瓦礫が進路を覆い、まっすぐなルートを選ぶことが出来ない。
「キミ! これじゃあ……」
「まだ諦めるな!
部室棟に教室は無い……だから地底探検部も無事な筈だ!」
「そうじゃない! 縁ちゃんは!?」
三刀坂の指摘を受けて黙り込む。
彼女がそちら側なら最悪の展開……そうでなくてもあの破壊の規模で彼女が無事とは到底思えない。
『さあ我が同胞達よ
我が聖域へ通じる地底探検部を破壊せよ』
的確に八朝達の目的を潰してくる放送。
そして、トイレの手前でとうとう生徒の群れに囲まれる。
「アンゲルス・リシオン」
「アンゲルス・リシオン」
ゾンビのように同じ言葉をくり返す。
それは魔術詠唱などで力ある存在の助けを借りる為に行う瞑想と通じるものがある。
だが、この場合ではその存在に自我を喰われて亡霊と化しているだけである。
『Ghmk……』
「先輩!
ようやく見つけました!」
三刀坂と同じように手を掴まれて強引にトイレのドアへと引き込まれる。
便器しかない袋小路……ではなく地底探検部のドアへと瞬間移動した。
「神出来……生きてたのか!?」
「見くびらないでください
先輩が死なない限り私も死ぬ訳ないでしょ!」
三刀坂にアピールするように神出来がウインクしてみせる。
本当は涙を流して無事を祝いたいところを三刀坂は耐えて返事を返す。
八朝が発動した辰之中の先に、地下迷宮へと通じる階段が奈落の先へと通じている。
「……Section_Iの助力は無いけど、覚悟は?」
「大丈夫!」
「先輩がそういうなら私も!」
そうして地底探検部の残した深淵を突き進む。
マスターが施した処置が赤い壁を只の透過オブジェクトへと貶め、鹿室が事前に倒した空のボス部屋も一顧だにせず『ロゴスの大樹』へと走る。
次でCase27が終了いたします




