Case 27-2
2020年10月4日 完成
打倒『墓標』に向けて話し合っても情報が少なく決め手に欠けたまま。
そこにマスターが『篠鶴機関 Section_I・統括部長』という肩書を引っ提げて語り始める……
【5月19日20時50分 抑川地区・太陽喫茶】
「篠鶴機関はお前らも知っているだろうけど
幹部である門毎に内部組織が編成され、俺らSection_Iの任務は『諜報・革命』だ
具体的に言えば各種工作活動、及び不適切な『機関長の処断』だ」
即ち篠鶴機関が持つ後ろ暗い物事や、そうなってしまったリーダーを秘密裏に処理する組織ということであった。
任務の性質上親しい人間にも素性を明かせないリーダーの気苦労を八朝は察したが、咲良はそういかなかった。
「どうして黙ってたの?」
「任務でお前にも明かすわけにはいかない……」
「むー……
納得はしないけど、じゃあなんで今になって私たちに明かしたの?」
「俺より上の門から先ほど『最終処断命令』が下された
理由は言うまでもなくミチザネ及び『天使の石』での失態だ」
鹿室が急に表情をこわばらせる。
どういう理由があったにせよ『天使の石』の発端となるアイテムを作った罪悪感が鹿室から余裕を切り崩していく。
「必然的に俺らは二方面で作戦を展開することになる
そこに、墓標と戦おうとするお前らがいたというわけだ」
マスターが長話から解放されて一息をつく。
言うなれば未成年を内乱の一部隊に巻き込もうとする無茶苦茶な提案である。
「なぜ俺らなんだ?
それこそ学園の成績優秀者から志願を募った方が効率がいい気がするが……」
「ああ、無論お前らじゃなきゃダメだ……」
マスターが一人一人に向き合って呟いていく。
「まずは咲良
お前は札付きの悪を根回しだけで追い払い、神出来縁の事件の際にその真相を見破った」
故に事後処理を任せると呟く。
咲良は未だに状況を呑み込めてなさそうな表情をしているが、じきに元に戻るだろう。
「次に神出来縁
幾度の十死の諸力の襲撃を乗り切り、5つ目級とすら和解する偉業を為した」
故に最後の最後まで立つことのできる実力を買うと提案する。
『なんでそのことを……』と言いかけた疑問を呑み込み、話の終わりまで静観することに決める。
「そして鹿室正一郎
『伝令の石』を生み出した技術力は誰も比肩し得ないが、その罪はいつか贖わねばならぬ」
その機会として、成功の暁には不問にすると書類を出して誓約する。
カバンの中にあるペンに手が伸びそうになったが『今は忙しいので後に、墓標を倒してからにします』と耐える。
「三刀坂涼音
お前の艱難辛苦には安易に同情するとは言わん、だがこの状況がお前の努力の成果に他ならない」
八朝を頼む、と改めてお願いされるが言うまでもない。
隣にいる八朝の手をしっかり握り、今度こそはと心の中で誓う。
「最後にお前だが、正直に言うと墓標はお前にしか倒せない」
「……買いかぶりすぎなのでは?」
「改めて聞くが、今まで妄言でしかなかったモノで敵を打倒したのは何故だと思うか?
門によればお前は『ロゴスの大樹』と密接に関係している特殊な存在で、墓標の致命傷に成り得る」
曰く『異能力者だけを短時間で全滅』させるには『ロゴスの大樹』が必要になる。
そもそも『ロゴスの大樹』の性質とは即ち『未知の法則の導入』であり、八朝が今まで発揮した異世界知識と似た性質である。
故に『ロゴスの大樹には使徒がいる』と門から聞いた話を開陳する。
だが、見過ごされた何かが引っかかって、どうしても反論意見が口をついて出てきたのである。
「マスター……申し訳ないが、だから何だというんだ?
言いくるめるだけでは誰一人として動かすわけにはいかない」
「……急かし過ぎだ
それがお前の一番悪いところだ……だがお前らに無理はさせないと約束する」
マスターとしてはここで全員のGOサインを得られない限り話を進めることはできないようである。
もう一度皆を見ると、各々が頷いて八朝に決定権が委任される。
彼に協力しない限り八朝の提案した『ある意味最悪な案』以外が選べなくなる。
「……協力する」
「助かる
……はぁ、これでようやく大手を振ってこうできるわけだァ」
マスターが端末を操作すると、同時に皆の端末から通知音が鳴る。
八朝は何もなかったが、それ以外が一様に困惑の表情を浮かべる。
「あの……これ、制御番号が単純型に変わっているのですが……」
「ああ、これでお前らは監視衛星群……即ち『赤い壁』もを突破できるようになった」
みんなして驚愕の表情を浮かべる。
曰く、殆どの異能力者が使用する付与型には篠鶴機関用のバックドアが仕掛けられているらしい。
その効力が及ばない単純型では篠鶴市内の移動制限はおろか犯罪検知すら機能しない。
「待って、それだけでなんでそう言い切れるんですか?」
「逆に聞くが、そこの八朝が単純型のままだ
ついでにそれが原因で今まで十死の諸力足取りがつかめなかった……」
思い返すと、確かに八朝は何かが違っていた。
渡れずの横断歩道を無視して隠れ家に通い、おまけに辰之中の外で異能力を使用しても何らお咎めがなかった。
当たり前のようで、そうでなかった違いに八朝が愕然とする。
「じゃあ、尚更何故俺だけが見過ごされてきたんだ……」
「だから言っただろう
お前は『ロゴスの大樹』の使徒である可能性が高い、何よりもお前はアイリス社にも狙われていた」
「な……!?」
アイリス社とは端末を作った会社であり、篠鶴市のインフラにも深くかかわっている重要な組織である。
この事件とは無関係であり、どころか被害者といっても過言ではない……無論八朝を狙う理由が存在しない。
「ま、この騒動でアイリス社が撤退したというのが本当の処断理由なんだがなァ」
マスターがコーヒーを飲み干すと、作戦概要の紙をテーブルに残してカウンターへと戻っていく。
各々がその内容に目を通してお開きとなった。
続きます




