Case 27-1:(他人の依代を改造する能力)
2020年10月3日 完成
操られた鹿室と戦い、ついに墓標の喉元に至る情報を得た八朝達。
だが、現状では勝ち目が存在しないため一旦引くことにする。
【5月19日20時30分 抑川地区・太陽喫茶】
「おう、こんな時間に友達引き連れてどうした?」
太陽喫茶まで帰ってきた八朝達を見るなり質問を投げかける。
この時間は喫茶店部分の営業時間ではあるものの、平日ということもあり客が一人もいない。
「急用でな
ここ使っても大丈夫か?」
「金払ったらなァ……」
そう言ってマスターが黙り込む。
とりあえず全員分の注文を八朝のポケットマネーから支払うことで決着がつく。
各々がテーブル席に座る。
「で、隠し通路って本当なの?」
「本当です
地底探検部が見つけたあの通路の先が立ち入り禁止区域と繋がっていました」
鹿室が曲橋とタッグを組んであの洞窟の攻略をしていたことは八朝も知っていた。
それに対し、三刀坂と神出来が渋い顔をする。
「それって……『赤い壁』の、ですよね」
「そうなります」
地底探検部が単なる駄弁り部活になった原因として『赤い壁』による通路遮断があった。
通れるには通れるが、辰之中を発動した瞬間黒焦げになって病院送りとなる。
しかも、彼らが強大な化物が守る部屋が見えたと報告して以来、探索は断念された。
「大部屋の化物は全員倒しましたが、その奥にも弱いですが大量の化物がいました」
「だけじゃねぇぞ……『十一席』と『墓標』も待ち構えている」
山積する問題を前に全員して項垂れそうになる。
その空気を最初に打破したのは神出来であった。
「『十一席』の糸は鹿室先輩の意能力でどうにかできますよね」
「無論、『c』の魔石のストックはまだまだあります」
鹿室が袋から大量の石を机の上に散らばせる。
だが、やがて神出来も観念したかのように天を仰ぐ。
「でも墓標のアレは何なのよ!
分裂するわ、滅茶苦茶に飛ぶわ、おまけに触っただけで溶かされる!」
それは丸前を殺した蜻蛉の群れである。
闇属性電子魔術に覚醒した丸前の攻め手を全て封じた悪夢に神出来がお手上げになる。
そして八朝も別の意味で頭を悩ませていた。
(そもそも蜻蛉に『盗み』を働かせるのはおかしい、なんだこれは)
蜻蛉は『勝ち虫』と称され、セイレイ或いはカゲロウと読み下せば常勝の仏として有名な摩利支天との関連がある。
だが能力としては『盗み』であり、同じく盗賊を意味する白浪の語源になった人物は黄巾の乱にて敗者となった張角である。
もしも西洋の方の『魔女の針』だとしても、そっちの方の蜻蛉は口や耳を縫うといった針の性質を持っているはずだがそれもない。
墓標の能力は矛盾しているのである。
「先輩、うんうん悩んでないで何か策とかないですか?」
「いきなりそう言われてもな」
八朝もお手上げのジェスチャーでそう答える。
そこに料理のにおいが飛び込んできた。
「マスター……こんな料理は注文していなかったのだが……?」
「こいつは俺の奢りだ
丁度夕飯時だし、空きっ腹に考え事なんぞできるわけがねぇからなぁ」
マスターが皆を気遣って夕飯を提供してくれた。
後で相応のお礼をするとして、まずは腹を満たすことを優先する。
「いただきまーす!」
三刀坂がマスター……もといその奥さんが用意した料理に舌鼓を打つ。
逆に一噛みする度に神出来と鹿室の顔が硬直する。
「ま、お代代わりに今日味わったモンを学校で広めてくれ」
「そ、それで本当にいいんでしょうか……」
「いいも何もお前らの口コミでうちの商売が成り立っているからなァ」
そこにさらに混沌が一人投入される。
「おとーさん、これ食べていい?」
「馬鹿野郎お前はさっき食ったばかしじゃねーか」
「ええー! けちー!」
八朝の姿に気が付いた咲良が『おかえり』と呟いてくる。
さらにタロットの束まで見せてくる。
「いっちょ占ってみます?」
「そういうのは食事後にしてくれ……」
大変つまらなさそうに足をぶらぶらさせる咲良。
食事が終わると、みんなの顔が心なしか緩まっているように感じた。
「でさ、キミ本当にお兄ちゃんの能力分からないの?」
「……分からなくはないが」
八朝がちらりと咲良の方を見る。
それに気づいた咲良が得意満面にカードを見せてくる。
「本当にやったのか?」
「ちゃんとスプレッドしておいたよ
で、出たカードがこちらになりまーす」
絵柄は車輪が横向きのチャリオットに乗る青年と、それを曳く二頭のスフィンクス。
『戦車』の正位置……即ち『勝利』を意味する占断である。
「お、えんぎが良い結果だねー」
「……先輩、占いなんか信じるんですか?」
冷ややかな目で神出来が見つめている。
「信じるも何も『夢遊病』の時にあんな風になるのを当てたのは他なら……ぬ……」
そこまで言って思い出す。
神出来が赤面して限界になる前に咳払いして誤魔化すことにした。
「ま、何より……ッ!?」
八朝が再び記憶遡行の頭痛に襲われる。
つい最近まで連続した『過去の記憶』ではなく、断片的なイメージの連続。
『揺らめく蜻蛉の軌道』『大いなる神経』『火属性電子魔術』『真っ白で読めない本』……
「キミ……もしかして……」
「ああ、どうやらビンゴらしい」
八朝が墓標の能力の正体と対策を耳打ちする。
まるでそれが真実であるかのように全員して納得したのである。
「で、残りは『赤い壁』なんだけど……」
「安心しな
その『赤い壁』とやらは俺が何とかしてやるよ」
マスターが話の輪の中に割り込み、テーブルに一つの名刺を取り出す。
『篠鶴機関 Section_I・統括部長』
「これは……」
「ま、お前にはいつか話さないとなと思ってなァ……」
いつも通りマスターがタバコをふかして、真実を語り始めた。
毎度ありがとうございます、DappleKiln(斑々暖炉)でございます
早速で悪いがバトルはお預けです
今回は未回収の伏線である『本物』そして『マスターの正体』に迫ります
そしてこのお話は翌日の5月21日まで進む予定であり……
さあ、いったい何が起きるのやら?
ヒントとしては『生徒たちが普段通りだった』であります
それでは続きもよろしくお願いします




