Case 26-5-1
2020年10月2日 完成
Case25-4の最後の選択肢にて①を選んだ方はこちらからお読みください
鹿室の言行不一致に恐ろしい予感を覚えた八朝。
決死の覚悟で鹿室の文字魔術に抗う。
【5月20日18時30分 篠鶴地区境界・元抑川橋(辰之中)】
『Ghmkv!』
1m大の待針を突き刺し、魔法陣上の魔力の流れを拘束する。
そのまま■■、■■へと移行させて、対象となる概念を破壊する状態異常を発動させる。
その性質上、八朝にとって未知の概念であれば単なる無駄行動に成り下がる。
だが鹿室は選ぶ題材を間違えたのだろう。
カバラ魔術は八朝の専門分野である。
「そんな……あり得ない!」
慌てふためく鹿室を冷めた目で見つめる八朝。
もう既に迸る魔力光が微塵も無くなり、元の星月夜の青を映す水盤へと戻っている。
「これで終わったの?」
「ああ、あの様子は弾切れだ」
駆け寄ってきた三刀坂に状況終了を告げる。
鹿室を拘束する為に再び待針を構えようとして……思わず硬直する。
「ど、どうしたのキミ!?」
「……下を見てみろ」
いつの間にか魔法陣ではなく、蓮の紋様へとすり替わっていた。
今も天空から伸びる細い糸が紋様を描き、さらに何本かが鹿室の元へと垂れてくる。
「!?
今すぐここから離れてくれ!」
鹿室の正気に戻った叫びを聞くことなく、八朝達がその場から逃げていく。
『Roonjmd!』
鹿室が糸を焼き払おうとcの石を嵌めこんだ斬撃を放つ。
いつの間にか赤く染まった糸たちが焼け焦げてはらはらと落ちていく。
だが、足元から糸が伸びてくることは想定外であった。
「な……身体が……!」
鹿室は動かせない身体で、既に遠くまで逃げていった八朝達の無事を祈る。
つまるところ鹿室は最初から八朝達の味方をしていたのである。
この血染めの糸が彼の体を操っていただけで、八朝達は最後までその歪みを見抜けなかったのである。
その罰なのか鹿室が信じられない光景を目の当たりにする。
「君達こっちに来るんじゃない早く逃げろ!!」
八朝がその声を聞いて漸く正気に戻る。
「神出来、三刀坂目を覚ませ!」
「……!
どうした……の……これ」
呆然と今の状況を見守る三刀坂。
鹿室から逃げていた筈が、いつの間にか引き返していた不条理に顔を覆いたくなる。
ふと、その手に無数の糸のような何かが引っ付いている感覚を覚える。
「な、何が起きてるの!?」
「ああ……これは間違いな……ッ!?」
八朝が急激な頭痛に襲われて蹲る。
三刀坂達の声が遠くなって、ようやく合点がいった。
間違いなく嵌められた。
偽りの飛宮ではなく、鹿室ですらない隠された『十一席』。
比婆から異能力を奪った真犯人の放つ闇属性電子魔術と糸の能力。
即ち『アリアドネの糸』ではなく、人形浄瑠璃文楽による『心中物』
300年前の上方にて流行し、当時の幕府に弾圧される程の魅力を放った文化。
『……ッ!
Ghmkv!』
八朝が『無常大鬼』を対象に概念消去の状態異常を発動させる。
心中物の中心思想に当たる『来世は一つ蓮の上で』を根本から否定する一撃を構成する。
後は灯杖の『相殺』で削れば終わる所が……
「消えない……!?」
当然であった、そもそも輪廻を操るとされる『無常大鬼』を相手にするのに八朝では力不足であった。
『無常大鬼』の構成する三千世界……即ち先程の状態異常を3000回以上発動させてようやく倒せる概念である。
そして八朝の視界の中で三刀坂へと垂れさがる赤い糸を視認する。
「きゃ……!」
三刀坂を突き飛ばし、糸が齎す『心中』の呪いを回避させる。
その代償として、八朝が赤い糸に囚われる。
「キミ何してるの!? やめて……ッ!!!」
垂れた糸が、八朝の身体をまるで操り人形のように動かす。
その果てに自ら首を折って自尽する。
その向こう側で鹿室も全く同じ格好で死に絶えている。
三刀坂は最後に残った正気を引き裂くような絶叫を上げ続け、
神出来はその不気味な光景に恐れを為して膝を屈する。
そんな彼女らを変死させるべく、再び血に染まった赤い糸が垂れ下がってくる……
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DATA_ERROR
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DEADEND7 一蓮托生 - A Forced Double Suicide
お疲れさまでした
分かりにくかったですが、伏線は散りばめておきました
異能力が消えた青年と、その青年と瓜二つの異能力を持つ少女
そして糸と言えば……という感じです
最初から②を選んだ人はエスパーか何かなので落胆しなくてもおkです
ではもう一方も4時間後に投稿致しますので、よろしくお願いいたします




