Case 26-3
2020年9月30日 完成
鹿室の手掛かりを探しに第二異能部部室に行くが、目ぼしいものが見つからない。
しかし、三刀坂の無くしたお守りの発見を皮切りに次々と真実が露になっていく。
【5月20日18時6分 篠鶴地区境界・元抑川橋】
「やっぱりあれ何かおかしいと思う!」
三刀坂が唐突にそう言い放つ。
恐らくは鹿室が十死の諸力の構成員である事に対してなのだろう。
「おかしいと言われても、こう残ってしまってるからな」
八朝がお守りの中から見つけた『伝令の石』を翳す。
隠し文字にもはっきりと残っている、鹿室の今までの悪行が伝聞形式で浮かび上がっている。
「ところで、もう大丈夫か?」
「うん、割と大丈夫だったし……」
三刀坂が右掌を見つめながら呟く。
何を思い出したか詮索しないが神出来と共に介抱した甲斐はあったようである。
だが、八朝の浅ましい話題転換は秒で打ち破られる。
「それよりも!
やっぱりあの鹿室君が嘘を吐くなんてあり得ない!」
確かに表向きでも紳士的であった鹿室がいとも簡単に他人を騙す程堕落しているとは思えない。
八朝が思索で閉口していると、神出来が耐え切れずに口をはさむ。
「先輩……そうは言ってもこうして残ってるんですけど……?」
「大体! 『洗脳』の闇属性電子魔術なんて聞いたことが無いし!」
それについては言及はできないが、『洗脳』について違和感があるのは同意見であった。
十一席……神の怒りの鉢の4は『太陽が刻印を持つ者をその光で焼く』といった内容であり、今までの法則から考えるとあり得ない。
「それよりもキミこそ本当に大丈夫なの?」
「……何だいきなり藪から棒に」
「記憶、失っているんじゃないの?」
……そんなはずは無い。
目の前で心配してくれているのは三刀坂涼音で……あと一人は■■■■。
「大丈夫だ、心配してくれて助かる涼音」
その言葉に三刀坂と神出来が二人して顔を見合わせる。
何か重大な間違いを犯したような気がして……
「いえ、八朝君の……
正確に言えば神隠し症候群以降の八朝君の記憶が壊れ始めているのは事実です」
三刀坂と……ほんの数コンマ遅れて八朝が驚愕の表情を浮かべる。
その様子を見て神出来が声の主に質問を投げかける。
「あなたが鹿室先輩……ですか?」
「はい、僕は八朝の親友の鹿室正一郎です」
聞き覚えのある声に焦燥感が募っていく。
そこに居るのは八朝の頼りない記憶そのままの鹿室の姿があった。
「記憶が壊れ始めているってのはどういうことだ?」
「そんなの言わなくても……
いえ、八朝君の周りに夥しいhとlの文字が見えるんです」
それは『雹嵐・腐敗』『水・内的世界』を意味する北欧の文字である。
この場で言った場合『魂の崩壊』を暗示するものである。
「何ですかソレ……」
「僕には未来が文字で見える素質があるんです
これも八朝君に指摘されて開花した物なんですけどね」
と、言いながら端末で辰之中を発動させると魔法剣に石を嵌め、災害の一振りを放つ。
「な……!?」
『Isfjt!』
三刀坂の散弾が災害を地べたに這いつくばらせる。
八朝も待針を構えて、鹿室の動向に目を走らせる。
「ど……どうしたのですか!?」
「鹿室……今自分が何やったか覚えているか?」
「え……そんな事を言われても秘密を知った君達を排除しようとしただけです」
「ッ!」
言っている間にも魔法剣の突きから森林火災を思わせる熱量の炎弾が放たれる。
三刀坂を押しのけて概念消去の状態異常を繰り出す。
読み通り火の原因であるcを削り、残りの無害なbの風が服をはためかせる。
「そんな事をやっている暇あるのか?
部活再建……行き詰っているんじゃねーのか?」
「いえ、実は飯綱さんの協力で上手く行っているんですよ!」
「どういうことだ……」
何かがおかしい、彼の話と自分たちの認識が致命的にかみ合っていない。
そういえばクラスの雰囲気も部活動を失った割に妙に皆大丈夫そうだったような……?
「やはり、もうそこまで来ているんですね……
大丈夫です、その為のコレです!」
鹿室が投げ放った石が、全くバウンドせずに地面に接地すると勢いよく散らばった。
まさしく上から糸で吊っているかのような石にあるまじき直線運動であった。
恐らくは結界魔術か何か……せめて神出来だけでも逃がしたいところだが……
「そんな怖い顔をしないでください、あの時と同じように僕を信じてください」
表情と言葉が一切釣り合ってない鹿室から底知れぬ恐怖を感じた。
それでも彼の凶行はここで止めなくてはならない。
続きます




